No2は伊達じゃない_5

 メイドがお辞儀をした瞬間、地面がもっこりと盛り上がり、そこからデカい腕が出て生きた。メカニックなデザインがアーティーファクト的何かだと思わせる。

 そしてそのデザインが、ヴィスの男心を刺激していた。


「なんだそれ、めちゃくちゃかっこいい」


「メイドアームです。そしてこれだけじゃありません」


 さらに地面がえぐれ、メイドに似合わないかっこいいデザインの腕や尻尾、剣などが現れて宙を浮いていた。それはSF的な雰囲気があり、割と画期的なデザインであったため、ヴィスが少しだけ興奮した。


「おい、メイド、くてくてだけじゃなくそれも寄越せ。お前のものは俺のモノだ」


「野蛮ですね。それにメイドじゃないです。私の名は、メ・イド。放浪の賢者のNo2です。あなたはラジェリー・ドールを倒したようですが、あれはうちの中でも最弱中の最弱。戦闘力だけなら下っ端いかにも劣る弱さです。アレに勝っていい気になっているようですが、世の中そう甘くはありませんよ?」


 メ・イドの周りを漂っていた機械の腕がヴィスを襲う。ヴィスは真正面からそれを受け止めた。ヴィスにはそれができるだけの自信があったのだ。

 そして実際にそれをやり遂げてしまう。だが、それでもかなり重たい一撃だったようで少し後ろに押されてしまったが、それでもヴィスは勢いよく迫ってきた機械の腕を受け止めて見せたのだ。


「ふん、これぐらい何とも……」


 余裕で腕を止めて見せたヴィスの後ろを、新しく出現した腕が襲う。背後を襲われたヴィスは、それに対処することが出来ず、まともに攻撃を受けてしまう。


「どうですか、後ろからの攻撃は。不意を突かれた攻撃は痛いでしょう? 痛い目にあいたくなかったら早くくてくてをこちらに渡して諦めてかえってください」


 もろに入った機械の腕の攻撃を見て、気分をよくしたメ・イドがドヤ顔で言う。そんな彼女を見て、ヴィスはにやりと笑った。


「効かねえな、そんな生ぬるい攻撃は」


 ヴィスには全く聞いていなかった。ろくでもない屑男ではあるが、やる時はやる、戦える屑なのだ。数少ないヴィスのいいところである。そんなヴィスの姿を見て、メ・イドが悔しそうに爪を噛んだ。


「さて、お前の持っているくてくてを渡してもらおうか。願いを叶えるのはこのおれだっ!」


「そこまで知っているのなら、私が渡せないことぐらい知っているでしょう?」


「そりゃそうだ。どんな願いでもかなえてくれるからな。渡せるわけがねぇ」


「だったらやることは一つだと思うのですが?」


「ああ、違いねぇな」


 メ・イドとヴィスの、くてくてを巡ったバトルが始まった。


 メ・イドの謎の機械の腕がヴィスを襲い、ヴィスは真っ向から受け止める。地面がえぐれ、土埃が舞い、幻想的な世界が一変して地獄のような場所に変わった。

 だけど不思議なことに、洋館に一切の被害が出ていなかった。


 ヴィスは戦いながら洋館を観察していると、ヴィスの攻撃や、機械の腕が攻撃したことによって飛んでいった岩の破片など、そのすべてを薄い結界のようなものではじいているように見えた。ヴィスはあそこに何かあると思って突撃したのだが、見えない壁によって阻まれる。


「そこは一般人立ち入り禁止なんです。御用があるならまずは私を倒してからにしてくださらないと」


「っけ、そういうことかよっ」


 相手が女であろうと躊躇しない。ヴィスの拳がメ・イドに襲い掛かる。見た目的にはどちらが悪役か分からない。さすがにかわせないと感じたメ・イドは近くに合った機械の腕を呼び寄せ、ガードする。ヴィスの重たい一撃が機械の腕を陥没させ、そのままメ・イドごと吹き飛ばした。悲鳴を上げて地面を転がるメ・イド。それを見て、ヴィスは勝ったと思い込んだ。

 あとはくてくてを奪うだけ、その油断が、相手にスキを与えてしまった。


 足元から唐突に生えてきた鉄の触手がヴィスを襲う。咄嗟に庇ったため、特にダメージは追わなかったものの、攻撃を食らってしまった。

 その間に、メ・イドが大勢を立て直し、せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。ヴィスは舌打ちをしてメ・イドを睨む。


「っち、姑息な手を使いやがって、正々堂々戦いやがれ」


 そう言いながら、ヴィスは鉄の触手を引きちぎり、メ・イドに向かって女性が嫌がりそうなものを投げた。


「あなた、よく嫌な奴だって言われない?」


「それは最高の誉め言葉だ」


 笑顔で答えるヴィスを見て、メ・イドが舌打ちをする。本当に嫌そうな顔をしていた。


「さて、仕切り直しと行こうじゃねぇか。お前が持っているくてくてをすべて奪ってやるよ」


 腕をわしゃわしゃさせて、ヴィスが一歩一歩ゆっくりと近づいていく。そんなヴィスを見てメ・イドは勝ち誇ったかのようににやりと笑った。


「ねえ、コレ、なーんだ」


 メ・イドが持っていたのは、ヴィスが肌身離さず持っていたくてくてだった。

 ヴィスはとっさに自分の荷物を確認し、くてくてがなくなっていることを知る。


「てめぇ、いつの間に……」


「まあ、チャンスはいくらでもありましたから。ふふふふ」


 笑うメ・イドに怒りを感じたヴィスは、くてくてを奪い返すべく突撃したが、機械の人形やら腕が邪魔をする。それでもヴィスは負けない力を持っていた。

 奪い返せるだけの自信があったヴィスは、機械の腕を払いのけて、メ・イドのところまで詰め寄った。

 だけど、その手は届かなかった。


「な、なんだこりゃ……」


 見えない光の壁が、ヴィスとメ・イドを遮る。近くにいるのに届かないもどかしさから、ヴィスは思いっきり光の壁を叩きつけた。壁を殴りつけたような大きな音が響くのだが、光の壁が壊れる様子はない。


「ふっふっふ、これは私が作り出した、魔法を一回分だけ保持できる機械……魔法溜めるんです、ですわ!」


 ものすごいものであるはずなのに、ネーミングセンスが最悪過ぎた。そのせいで、ヴィスのイライラが増す。くてくても奪われて、バカみたいな名前の機械に邪魔されて、光の壁に加える力が徐々に強まり、ミシミシと悲鳴を上げていく。


「このままではやばそうですね。ですがいいものが手に入ったので素直に喜んでおきましょう。ありがとうございます、ヴィス様?」


「それはてめぇにやったものじゃねぇ、さっさと返しやがれっ!」


 メ・イドに叫ぶヴィス。苛立っているからこそ、ヴィスは気が付くことが出来なかった。

 洋館から、一人の老人が出てきて、ゆっくりとメ・イドに近づいていることに。


「ふぉふぉっふぉ、メ・イドよ。くてくては手に入れられたか?」


「はい、賢者様。目的のものはここにあります」


「でかしたぞ、メ・イドよ」


 老人はメ・イドからくてくてを受け取ると、指で何もない空間をすっと撫でた。

 すると、空間がきれいに割れ、何も見えない真っ暗な世界が映し出された。何もない、深淵のような世界。その奥から、誰かがじっと現世を除いているような不気味な雰囲気がした。


「待てよじじぃ、てめぇ、何もんだっ! 俺のくてくてを返しやがれ」


「ふぉっふぉっふぉ、これはお前さんには過ぎた力じゃからのう。儂が有効活用してやるから我慢しなされ。では行くかのう、メ・イドよ」


「はい、賢者様」


 老人は、割れた空間に入り、メ・イドはその後をついていく。ヴィスもその後を追いかけようとするが、見えない壁に阻まれて動くことが出来ない。

 ヴィスは普段使わない力を使ってでも追いかけようとしたが、すでに遅かった。

 ゆっくり閉じる空間。すべてが閉まりきると見えない壁もなくなる。


「ちくしょう、くそ野郎がぁぁぁぁぁ」


 くてくてを奪われたヴィスは、その場で叫びに叫んだ。

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