第2話
ちいちゃんは、昔からどこだかの有名なプロダクションやらなんやらに何度もスカウトされるほどの美人だった。普通美人といえば、何かしらそれを鼻にかける人間が多いものだけど、ちいちゃんは誰に対しても優しかった。美人なのに気取りがなくて優しいちいちゃんは、当然誰からも人気があった。
そんな彼女にも欠点と言えるものが一つだけあった。それは、『家庭』だった。
ちいちゃんの家庭はとても複雑だ。かあちゃんの情報網によるとこうだ。
ちいちゃんの本当のお父さんはちいちゃんの生まれた頃にすぐなくなったらしい。その後、ちいちゃんのお母さんはちいさなちいちゃんを連れて今の田ノ浦のおじさんと結婚したのだそうだ。それからしばらくしてちいちゃんのお母さんは死んでしまい、現在田ノ浦のおじさんのところにいるおばさんが後妻に入ってきたらしい。早く言ってしまえば、ちいちゃんには血の繋がった身寄りなど一人もいないということになる。それだけでも十分複雑なのに、田ノ浦のおばさんがすごく意地悪らしい。ちいさなちいちゃんが公園で一人泣いてるのを見た人がたくさんいた。田ノ浦のおじさんは優しいけれどちいちゃんをかばってくれることはしなかったようだ。それに、私はいつも長袖の洋服しか着ないちいちゃんの袖口や翻ったスカートのすその下から、真紫に変色したいくつものあざをちらと見たことがある。田ノ浦のおばさんはちいちゃんに手まで上げていたのだろう。ちいちゃんが高校卒業後、すぐに田ノ浦の家を出たのはそのせいだろうと、当然近所の人は噂した。お金も学もないまま家を飛び出したちいちゃんが夜の世界へと飛び込んだのはしょうがない事だよ、とかあちゃんが溜め息混じりに言っていたのを覚えている。
私とちいちゃんは頻繁に遊ぶほど仲がよかったわけでもないが、家が近いせいもあって顔をあわせることが何かしら多かった。学校の登下校時や近くの公園でいるときなど、ちいちゃんのほうから声をかけてきてくれて、とりとめのないことを話した記憶がある。最近読んだ本や昨日見たテレビなど、ちいちゃんと私は好きなものがよく似ていた。そのせいで本を貸し借りすることもよくあった。ただ、互いの家を行き来したり、学校などの人目に付くところで話をしたことは一度もなかったけど。
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