全て出席番号のせい。
エパンテリアス
一章
プロローグ
一ヶ月ほど前に行われた高校入試に無事合格を果たした桑野亮太は今日から晴れて高校生となる日を迎えた。
「じゃあボチボチ行くわ」
「ボチボチ行くわ……。じゃないわよ!もう急いで行かないと遅刻よ!? 最初ぐらいはもうちょっと時間に余裕をもって行ったらどうなのよ!」
「これぐらいのタイミングで行くのがルーティンだから」
我が息子のめでたい高校入学の日の初っぱなから苦言を呈する母親を自分なりの言葉で諭しながら家を出た。
母親はああ言っているが、これでも個人的には早い方だと感じている。
中学の入学式の時は本当にギリギリに教室に入って全員の注目を浴びた記憶がある。
今回はその反省を活かして、自分のいつもの通学ペースを保てば10分前くらいには到着出来るように家を出た。
そしてその予測通り、特になにもトラブルに巻き込まれることなく無事に高校に到着した。
そのまま高校に到着すると外に教員がいて駐輪場へ案内される。
正直なところすでにほとんどの人が到着しているのか外には誰もおらず、駐輪場には多くの自転車がすでに駐輪されている。
「入学おめでとうございます。お名前は?」
「桑野亮太です」
「三組ですね。そこの校舎に入って目の前にある階段を上ってすぐですよ」
「ありがとうございます」
案内された通り、階段を上るとすぐに教室が見えて1-3と標記された教室がある。
手渡されたものには自分の名前と出席番号が確認できるものがあり、確認すると出席番号は『13番』と書かれている。
これをもとに着席する席を探すことになる。
教室に入ると教員がすでにおり、そのせいか先に来ている生徒はみんな着席している。
独特の緊張感が漂っているが、かつてこのような場面で注目を悪い意味で受けた俺にとって特に気にすることもない。
「おはようございます。自分の席についてもらえますか?」
そう教員に促されて自分の席を探す。誰もが自分の席についているので、空いた席の部分を探せば良いだけ。自分の席は簡単に見つかった。
(ラッキー、後ろから二番目。いい位置スタートだ)
教室の席のならびとしては一列当たり七人の六列の計42人。
俺の出席番号は13番なので二列目の後ろから二番目である。
入学時は確実に出席番号順に席を並べられることになるので、席を選べない。
一番前とかになると最初の方の授業はとりあえず前の人を指名したりするので、出来るだけ前には行きたくない。
入学早々にいい位置からスタートできることに気分を良くしながらリュックを下ろして席につこうと思ったときに、あることに気がついた。
(俺の後ろのやつまだ来てなかったのか……)
俺の後ろに当たる生徒はまだ来ていないようだ。
席にはリュックなどの荷物もないのでトイレ離席というわけでもないだろう。
俺個人の感覚では余裕をもって来たつもりだが、他の人からすればかなり時間ギリギリと言ったところ。
すでに登校時間まで後5分を切っており、来ていないのはこの人だけだ。
仮に遅刻しないにしてもこの時間だと駆け込んで来るのは必定で、悪い意味で多くの注目を味わうことになるだろう。
そしてしばらくこの一週間ぐらいは入学一日目から遅刻ギリギリの間抜けとか色々とそういう見方をされて肩身が狭くなるに違いない。
果たしてそんなかつての俺のように哀れになってしまうやつは姿は一体どんなやつなのか――。
「いっけない! 遅刻しちゃう!!」
そんなことを思っていると早速その人物らしき声が聞こえてくる。
どうやら女子のようだ。お転婆なのか??
「とうちゃーく!!!」
颯爽と明るい声で教室に飛び込んできた人物は――。
茶髪の髪が美しくストレートに伸びており、整った美しい顔立ちでありながら幼さの抜けない様子も感じられる。
制服のモデルをやっている人に負けず劣らずの美しさに教室内にいた生徒男女問わずに思わず驚きの声が漏れる。
「一年三組の教室はここですかー!?」
「はい、そうですよ。おはようございます」
「おはようございますー! 遅刻ギリギリ!! 危なかった……!」
「明日からはもう少し余裕をもって来ましょうね」
早速教員に苦言を呈されているが、えへへと笑って特に深く捉えることもない様子である。
そのまま俺の横を通りすぎて俺の後ろの席に荷物を下ろす。
そして彼女が席に着くと同時にチャイムが鳴った。
「改めておはようございます。まずは全員揃ったようで嬉しいです。これから一年間この一年三組の担任になる藤沢です。よろしくお願いします」
先程から教室にすでにいた教員は藤沢と名乗る若い女性である。
小学校のように元気よく教員の言葉に返事をするということはなく、その言葉を受けてみんなそれぞれ会釈で答える。
「この後入学式が行われますので、このまま体育館に移動しますね」
その言葉にしたがってこのまま体育館に向かう。
そして体育館に入るとそのまま並べられたパイプ椅子に出席番号順に腰かける。
うちのクラスが一番早かったのか、他のクラスはまだ体育館に来ていない。
こういう時、他のクラスの生徒がある程度集まり始めるまで隣の人と話を始めたりすることもあるのだが、すでに体育館で式の準備をしている教員が多くいて話しにくい空気が出来ている。
そして何より、生徒たちのことを見ている生徒指導の雰囲気がやたら怖い。
そのせいか誰も声を出さずにじっとしている。
ただそんな中、空気を読まないやつが一人だけいた。
ちょんちょん、と俺の手が隣から伸びてきた指につつかれる。
隣を向くと先ほど遅刻しそうなのと元気な様子を見せた例の女子。
「ねぇ、私以外の人って結構みんな早くから来てた?」
「多分ね。俺も十分前に来たんだけどその時には俺とあんた以外は来てたみたいだけど」
「あっちゃー! 早速悪目立ちしちゃったね! なんか痛い目で見られちゃったし」
確かにギリギリだったが、痛い目で見られた主な理由はそちらではなく大きな声と教員に対する邪気のない言動が主な理由のような気がする。
「同じギリギリ組として仲良くしてね!」
「……俺はそこまでギリギリじゃない」
「五分前と十分前でしょ? 仲間仲間!」
「そこの二人! 静かにしなさい!!」
「「……すいません」」
一番怒られたくない強面の生徒指導のいかつい声が聞こえてきて二人揃って縮み上がることになってしまった。
ダメだ。この女子と絡むと嫌な予感しかしない。
この十五分足らずの僅かな時間でそんなろくでもない確信が得られてしまった。
まぁそれと引き換えにこの注意によって女子と一緒に悪目立ちしたことは言うまでもない。
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