斜め解釈 桃太郎

もげ

第1話 旅立ち

 私が両親の元を離れたのは確かに鬼退治の為ではあったが、それ以外にも一つ大きな目的があったのは言うまでもない。私をこの年まで大切に育ててきてくれた両親には当然ながら感謝をしているが、私は真実を知りたかったのである。

 自分という存在のルーツが分からないと言うことは非常に心許ないものである。もし仮に両親が言うように私が本当に桃から(あの甘い果実の!)産まれたのだとしたら、私は私という存在そのものに疑念を抱かなければならなくなる。

 私が流されてきたとされる川は海に面しており、潮の関係でたびたび海水が流れ込む。山の上流に何もないことを考えると私のルーツを探る鍵となるものはもはや海に浮かぶあの島しかない。

 そう、通称『鬼ヶ島』と呼ばれるあの島である。

 しかしその考えは当然、私が鬼の子であるという可能性を孕んでいることに気付かざるを得ない。しかし、だからこそ私は真実を知るためにあの島へ行かなければならないと考えるのである。



「本当に行くのかい」

 年老いた義母は乾いた手を擦り合わせて問うた。曲がった腰が彼女を一層小さく見せていた。

「ご心配をおかけする。親不孝な息子を許してください」

  青年は義母の肩を労るように軽く叩き、頭を下げた。

「どこの馬の骨ともわからぬ私をここまで育ててくださった貴殿方には感謝してもしきれない。必ず無事に戻り、褒賞を持ち帰る故、それまでご健勝であられよ」

 義母は目に涙を浮かべ、義父は黙って目を閉じた。

「止めても無駄なのであろう。お前の頑固なところは私に似ている。ここに貧しい中でも決して手放さなかった刀が一振りある。これをお前に譲ろう。命を落とすでないぞ」

「私からもこの黍団子を。あなたをお守りするよう祈りながらこしらえました」

 青年は一層深く頭を下げた。

「かたじけない。このご恩、必ず返しに参ります」

言って、彼はこれまで育ってきた小さな家を後にした。桃太郎の旅の始まりであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る