少年少女の魔法宣言
和水まつりか
プロローグ
『ぼくたちは、──っ!! いつか、絶対──』
【少年少女の魔法宣言】
雨野あおい
「……いくん、あおいくん!」
曖昧な意識の中に、ひとつの声が届く。重い瞼を開けると、金髪に赤いストーンのピアスを着けた
「……あれ」
「大丈夫? 急にぼーっとして、呼んでも反応ないからびっくりしたよ」
「あ……、大丈夫」
ゆっくり頭の中を整理して現状の確認。今自分はどこにいて、何をしていたのか。
……そうだ。ここは東京だ。背の高いビルが立ち並ぶ、夜景の綺麗な、あの。だけど今は、その面影は少しも残っていない。壊れてしまったのは、およそ一ヶ月ほど前だったか。
辺りを見渡せば、何らかの建物であったのだろう瓦礫が積み上がっていたり、横転した車があちこちに転がっていたり、乾ききった赤色──人の血の色が地面に広がっていたり。ぼくの知っている大きくて綺麗な東京は、もうどこにもない。
こうなってしまったのも、全ては
「じゃあ帰るよ、あおいくん」
蓮さんの大きな手がぼくの前に差し出された。何を考えることもなく、自分の小さな手を重ねる。帰る先は、街の外れの廃校だ。ぼくたちの拠点である。
以前の姿を失った東京の街は、ビル群が崩れ落ちたために夕日がよく見える。伸びた影が何だか皮肉のように思えた。
オレンジ色の空を見上げて、先程脳裏に浮かんだシーンをもう一度思い返す。ぼくが必死に何かを叫ぶ、そんなシーン。
(また、だ)
実はこれが初めてではない。もう幾度か見たものだ。けど、一番大切な部分だけ、どうしても思い出せないのだ。僕が、何を叫んでいるのか。いつ見ても、何度見ても思い出せない。そしてもっと不可解なのが、それがとある日を境に起こるようになったということ。
とある日というのは、マジックスコードロンズのぼく以外のメンバーが、口を揃えて『時間が戻った』と言った日だ。みんなの説明によると、一度命を落としたはずなのに、その時点よりも過去である今に戻ってきたのだと言う。未来だとか過去だとか、ぼくにはよく分からなかった。つまり、ぼくだけその記憶がないのだ。七人と一匹のなかでぼくだけ。ぼく、たった一人だけ。
「不安になった?」
「え……?」
隣を歩く蓮さんの方を向くと、彼もさっきのぼくと同じように空を見上げていた。
「……大丈夫だよ。俺たちは、元の地球を取り戻す。絶対に」
真剣な顔で呟いた言葉は、ぼくへの励ましというよりは、彼自身の決意表明のように思えた。
そう。生き残ったぼくたちに残された道はたったひとつ。滅んでしまったこの地球を元に戻すこと。方法なんて具体的なことは全然分からないけど、ぼくたちはエネミーと戦って、地球を救う。逃げ場なんてないのだから。
「うん、そうだね」
蓮さんの手をぎゅっと握り直して、次は前を向く。空はオレンジに青が混ざってグラデーションになっていた。早く帰ろう。きっとみんなもぼくと蓮さんの帰りを待っているはず。
少しだけ急ぎ足で、今日も学校までの道を歩き出す。
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