なんということだっ!
親子水入らずにしてやろう、と思いながら、王子は洞穴内をウロウロしていた。
すると、思ったより中は入り組んでいて、迷った王子は狭く冷たい場所に入っていってしまう。
これはまずいな、引き返さねばと思ったが、奥の方に明るい場所があるのに気がついた。
……なんだ? と近づいていくと、急に視界が開けた。
広いドームのような場所なのだが、足許も岩壁も凍っている。
地下からものすごく冷たい風が吹き出しているようなのだ。
すると、ドームの中央にこちらに向かい、駆けてこようとしている感じのまま固まっている人がいた。
下から吹き上げる極寒の風で凍ってしまったのかもしれない。
美しい女だ。
アキに似ている。
そして、彼女は女性なのに、ズボンを履いていた。
アキが見たら、パンツスーツというものだと教えてくれただろうが、今、此処にはいなかった。
此処も少し地上から光が差し込んでいるらしく、その光が彼女を照らし、輝かせていたが、下から吹き上げる風が強すぎて、氷は解けないようだった。
「アキ!」
と振り返り、王子はアキを叫んだ。
王子に呼ばれ、アキたちはその氷のドームにたどり着いていた。
氷の美女と化したアキの母、マダムヴィオレを見、父は叫ぶ。
「こんなところで固まっておったのかっ」
「フラフラしてたのが仇になりましたね……」
とアキは凍った母を眺めながら言った。
いつも何処にいるのかわからないので、此処で固まっていても、みんな、何処かにいるのだろうと思って探さなかったのだ。
その姿を見た父が嘆き悲しむ。
「なんということだっ。
せっかく娘と出会えたというのに、こんな姿になってっ」
父は母、マダムヴィオレに近づいていった。
「危ないですよ、凍りますっ」
と王子がそれを止めに行く。
マダムヴィオレに触れた父が凍り、王子が凍り、イノシシが凍った。
「……まだイノシシ持ってたんですか」
アキはイノシシとともに凍ってしまった王子に言う。
聞こえているのかどうかよくわからないが。
っていうか、金のがちょうの話みたいになってるんだが……と思いながら、アキは自身が凍らない位置まで近づいてみた。
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