とりのからあげ

エリー.ファー

とりのからあげ

 まず、鶏肉を用意します。

 はい、これが重要です。

 何故か。

 とりのからあげですから、鶏肉の味がそのすべてを左右するといっても過言ではないんですね。

 美味しいとりのからあげというのは、どんな時でも、美味しいものです。冷めていても、熱々でも、それこそ腐っていても美味しいんですね。

 では、そういうとりのからあげを作るためにはどうすればいいいか、そう考えると答えは一つしかないんです。

 そう。

 いい鶏肉を使う。

 これにつきます。

 色々な人がね、ここに気づかないんですよ。まずは、良い料理器具を買ってくることなんじゃないか、もしくは、いい料理人に任せてしまうのが良いんじゃないか。

 ねぇ、そりゃあそうなんですよ。

 それはその通りなんです。

 考えとしては間違っていない。

 でもね、違うんですよ。

 本当に美味しいとりのからあげを食べたいなら、まず、料理器具を集めることでもなく、人に頼むことでもなく、最初にしなければいけないのは。

 良い鶏肉を買ってくる。

 これなんですよ。

 逆に言えば、これさえ上手くいってしまえば、あとは全部成功したと言っていいんです。

 私がまだ見習いの料理人だった時に、色々な先輩が言ってきましたよ。

 とりのからあげだけ作れても何の意味もないぞ、とね。

 そりゃあそうですよ、正論だったと思います。

 でもね、私は本当にとりのからあげが大好きだったし、それ以外のものを作る気が全くなかったんですよ。生まれてこのかた、とりのからあげ以外食べてきたことがないものですから、正直、他の料理の良し悪しが分からなかったんです。

 産湯だって、とりのからあげを揚げたばかりの油でしたから。

 そうやって、とりのからあげだけは絶対に負けたくなかったですし、実際負けたことがなかった。だから、これ一本で勝負しようと心に決めていた訳です。

 そうなると、その先輩たちとの軋轢も生まれますよ、何度も何度も叱られてそのたびに、熱い油をかけて先輩たちを撃退していましたけど、それでもしぶとくてね。

 そうやって、多くの人を倒していきついた結果。

 とりのからあげを美味しく作るには。

 良い鶏肉が必要だということに気がついたんです。

 多くの失敗と経験が、この結論を導いたんです。

 だからこそ、この良い鶏肉を使うという考え方には自信があります。

 どんなことがあっても、絶対に、良い鶏肉をつかってやろうと思ってますよ。たとえ、親の死に目に会えなくとも、たとえ、生き別れの兄弟と会えるとしても、たとえ、ゾンビが跋扈する世界になったとしても。

 私はね。

 絶対にね。

 間違いなくね。

 命をかけてもね。

 どんなことを言われてもね。

 この人生をかけてね。

 必ずね。

 良いと思う。

 自分が良いと思う。

 鶏肉を使いますよ。

 どんな邪魔が入ろうと、どんな敵が現れようと、どんな障害が目の前に立ちはだかろうとも。

 絶対に。

 良い鶏肉を使いますよ。

 貴方たちがここで、私を倒したい気持ちは分かる。

 貴方にも家族がいるんだろう。愛すべき人がいるんだろう。帰りを待ち望む人がいるんだろう。

 分かってる。

 でも。

 私も後ろには引けないんだ。

 絶対に、引けない。

 とりのからあげを、美味しく作る、そういうことのために生きてきた。

 もう、とりのからあげによってこの体は呪われてしまって、長くはもたない。

 そんなことは分かってる。

 でも、それでも。

 とりのからあげを愛してる。

 とりのからあげのためなら死んでも良いって本気で思っている。

 だから。

 だから。

 美味しいとりのからあげのために。

 私は。

 良い鶏肉を使う。

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