第39話 座席

「「あのっ!!」」


 ……あっ。


 ……あっ。


 林間学校当日、美唯みゆ雅樂うたが早速目を合わすと同時に声を掛け合う。けれどタイミングが見事に合致し、異様に気まずい。


「あのさ、久住くすみさん──」

「ウタくんごめんなさい! ずっとよそよそしい態度取って!!」


 どうしてもこのギクシャクした関係を元に戻したい──その一心で美唯が先に一歩を踏み出した。


「あの時以来気まずくなっちゃってつい……。だから、その……、もう一度いつも通りに戻れたらなぁ……って」

「うっ、うん!」


 ──良かったぁぁぁぁぁ! 嫌われてなかったぁぁぁぁぁ!!


 肝心なことが分かり一安心した雅樂は心の中で叫んだ。


「これからも仲良くやっていこう!!」

「うん!」

「あと、それにさ……、気まずいままだと俺、久住さんに恋の手助けというか、颯人はやとと結ばれる──」


「俺がどうしたんだ?」


「は、颯人!?」


 二人だけのところに颯人が乱入。幸いまだ二人の秘密の協力関係がバレていないと思う雅樂は、「なんでもない!」と言って誤魔化してみる。(雅樂にとって)颯人はあまり物事を深く詮索しない性格だから、颯人はその通り「そっか!」と言って雅樂を問い詰めなかった。


「それにしても安心した。二人ともいつも通りになったみたいで」

「……ははっ、なんかごめん」


「ほんと、いつも通りに戻ってくれて何よりだわ」

「おぉ、舞香まいかまで!?」


 今度は颯人に続いて舞香が道重みちしげを連れて登場。道重は手を挙げて「やぁ」と軽く挨拶をした。


「それにしてもお前ら二人が並んで歩くの久しぶりに見るなぁ」

「……そう? 少なくとも部活帰りは二人で帰るけど?」

「少なくとも、ねぇ……」


 少しでも彼女との時間を確保している道重に安心するが、そのくらいの頻度でしか一緒にいなくとも、二人の仲が安定しているのはさすがだ──雅樂は思った。


「それにしても残念ね。せっかく仲良くなれた美唯と一緒の班になれなくて」

「ま、まぁ……って違う違う! 俺はあくまで久住さんと一緒の班になりたいってだけであって、それ以外に理由はなくて……」


 久住さんの恋のキューピッドであることを颯人がいるところで言うわけにもいかず、かとそれを伏せれば「美唯のことが好きだ」と変に悟られてしまう。

 雅樂はなんとか上手くこの状況をかわすと、「ははっ、そうだよな」と颯人は笑って雅樂をフォローした。


「…………」


 一方、美唯は先日の失態を舞香に責められたと思い、バツの悪い顔をした。

 ちなみに舞香のさっきの発言の目的は美唯の思った通りである。


「まぁ、良いじゃないか。班が離れていても、携帯で連絡を取り合えばいいし」

「確かに、道重の言う通りだ」


 ──そうだ。その手段で久住さんと作戦を練れば良いじゃないか!


「俺も藤澤くんたちと同じ班だけど、みんながバスの中で寝ちゃったら、携帯で颯人くんと連絡取るつもりだから」


 ──どうしてそこで颯人が出てくるんだよ、この浮気ホモ野郎!


「いや、そこは舞香と連絡取れよ」

「ま、舞香と!?」

「わ、わたしたちはいいのよ、別に!!」


 雅樂としては何の不思議もない発言に二人は照れて、交際三年目とは思えない反応を見せる。

 これ以上は自分たちカップルの話をさせまいと、舞香は話を無理に逸らした。


「まぁ、それもそうだし。それに──肝試しではクラスが一緒なら誰とでも組めるチャンスはあるらしいからね?」

「なに? 舞香。その『俺と久住さんの二人で組めば良いのに』って言いたげな目線は」

「だって、そのほうがいいじゃん。ウタと一緒のクラスの女友達、美唯だけだし?」

「そっ、そうだな……」


 ──本当はセリシアとも多少は仲が良い方だけど、アイツと組むのは御免だ! 暗闇でナニをされるか分かったもんじゃない!!


 雅樂は中学の日の衝撃的な告白以来、過度な警戒心が拭えずにいた。ちなみに今日は布団が用意された宿で止まるのにも関わらず、夜にセリシアに襲われぬように、ということで寝袋を持ってきているほどだ。


 こうして話しているうちに、集合時間が迫る。


「そろそろ、バスに乗る時間だね」

「美唯の言う通りね。それじゃあ私と颯人くん、あっちだから」


 こうして皆はクラスごとに分かれて自分たちが乗るバスへ向かった。


 美唯と雅樂は同じクラスであるため、乗るバスが同じだが、違う班であるため座席が近くにならない可能性が高い。


「あっ、私ここだから……」


 ……って、マジか。


 そして不運なことに、美唯たちの班は前の座席。対する雅樂の班は後部座席の一つ手前という結果になった。


 それだけでなく──


「道重、藤澤、こっち来いよ!」


 なんと雅樂と道重以外、班の皆がすでに席を陣取っており、空いているのは男子の平林、女子のセリシアの隣だけ。


「うーん……、どうする? 藤澤くん」

「お、俺は……」


『おーい、席につけー』


 雅樂と道重が悩んでいる間に先生がバスに乗ってきた。

 道重は咄嗟に平林の隣に、雅樂はセリシアの隣に座ることに──。


「私を選んだんだね? 藤澤クン」

「いや違う。たまたまだ」

「ふふっ、久しぶりに昔の話でもするかい?」

「昔の話、ねぇ……」

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