第37話 舞香の説得(vs美唯)
「……で? どういうこと?」
『えっと……』
気を取り直し、
『まさかあの一件以来、ウタと気まずくなったとか?」
『……はい』
「……はぁ。それでついウタを遠ざけた、と」
『……はい』
美唯が答える前に舞香が内容を全て答えてみると、どれも的中。さすがである。
舞香は最悪の事態に嘆き、頭を掻いた。
「……で? 美唯はどうしたいの?」
『そりゃもちろん、ウタくんと元通りの関係に戻りたいけど……』
「けど?」
『なんか目を合わすことすら、恥ずかしくてできなくて……』
美唯の言葉に、舞香はやれやれ……と溜め息をつく。そして毎度の鋭い口調で、なかなか行動に移ろうとしない態度の美唯に説教した。
「あのね、そんなことばっかり言ってて、今の状況が解決すると思う?」
『そ、それは……』
「まぁ分かってると思うけど、間違いなく無理よね?」
そしてここから舞香は、自分の経験則に基づいた言葉で美唯を説得してみせる。
「何らかがきっかけで好きな人と気まずくなったり、目を合わせることが恥ずかしくてできなくなるなんて、いずれ起こることはあるし、しばらくは続く。今のアンタはまさにその状況。だからって、その状況が治まるまで行動を起こさないのは実に馬鹿げてるわ」
ここまで言うと、舞香は一呼吸置いてこう続けた。
「いい? アンタの今のこの状況が「好き」って気持ちの現段階のピークだと思いなさい」
『ピーク?』
「そう。だからこのピークが過ぎれば、アンタのウタへの気持ちが冷めていく一方──」
『そ、そんなことは──』
「無い。そう思っている間はずっと、このピークが続くと思うわ」
『じゃあ私、ずっとウタくんとそんな状況のままなの? 舞香ちゃんもその恥ずかしさに毎日耐えながら彼氏さんと一緒にいるの!?』
「そ、そんなわけ無いでしょ!?」
今までに無い美唯のパニック具合に動揺する舞香は「そうじゃなくて」と言って──
「恋人同士ってのはそのピークを乗り越えて、次のステップを踏んでるもの。いわばアンタの抱くその気持ちなんてもう慣れっこってわけ」
『慣れっこ?』
『そう。それでアンタはいづれ、その気持ちに慣れるか冷めるかのどっちかに転がるの』
『だったら、もちろんその気持ちに慣れたい!』
美唯が食いつき、前向きな態度を見せると、舞香はニヤリと笑った。待ってました、と言わんばかりの顔つきだ。
「じゃあ方法はただひとつ、ウタといつも通りの関係に戻ることからスタートね」
『えっ……』
「『えっ……』じゃないの。今の状況に慣れなきゃいけないんだから」
舞香の言葉に反論すること無く、美唯はコクリと頷いた。
「……だからさ」
すると舞香は少し間を置いて、静かなトーンで美唯に問いかける。
「もう止めたら? 今までみたいなやり方」
『……えっ』
「アンタの行動目的はだいたいわかる。颯人くんとの仲を取り持って欲しいって頼んだ理由はわかんないけど……。でもさ、もう十分なんじゃないの?」
美唯は舞香に「ウタと自分が付き合っている」という噂を広めて周りの反応を確かめることが出来たし、結羽と颯人がくっつきやすいように仕向けたりもした。
だが、しかし──
「だってアンタ、外堀を固めるだけで、自分は一切前に進んでないじゃない」
今のままじゃ次のステップに進めない、という危惧感を伝えようとした舞香は少し厳しい口調になってしまい、それに美唯は気圧されて黙り込む。そのことを電話越しで察した舞香は優しげな声をかけた。
「だから、そろそろ難しいこと考えないで、積極的になってみたら?」
舞香の言葉に背中を押されたと感じたのか、美唯は少し明るげな表情を見せて顔を上げた。
『わかった。明日、ウタくんに謝る! 恥ずかしいけど、ウタくんといつも通りに接する!』
「よろしい。あと、回りくどいやり方は──」
『もうやらない!』
「よし。じゃあ9月の文化祭で告る前提で頑張れ!」
『それは無理!』
積極的になった美唯だが、「告る」というワードの前に屈してしまった。これには勢いに乗った舞香もガクッと傾く。
「なんでなのよぉ……」
『だって……』
顔を俯かせて、この後に何も続けない美唯は「まぁ、いいわ」と吐いてこう言い換える。
「告れ、とは言わないから、とにかく文化祭までにはちゃんとアプローチすること。夏休みは長いんだから、そこがチャンスよ?」
『……うん、わかった』
「それじゃあ。明日、しっかりね?」
その言葉に対して『うん』という言葉を聞いた舞香は、美唯との通話を切り、連絡先一覧を開いてまた通話画面に移行した。
「……さて、次はウタに電話してみるか」
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