第20話 美少女、壊しちゃった!!
「
「あっ、ウタ! ちょうどいいところに!!」
「
図書室に駆けつけると、颯人が慌てた様子を俺に見せた。
何事か? と思い部屋に入ると、牧原が椅子に座ってぐったりしている。
顔から湯気まで出てるし──なんかよくわからないが、悪い状況下であることは確かだ。
「これは……」
「どうしようウタ……、牧原が……壊れた!」
……????????
「なんか一緒に話してたら、顔から湯気が出てきて……、熱があるんじゃないかと思って、慌てて牧原のデコに手当てたら──こんなんなっちゃって……」
「鬚ッ莠コ蜈郁シゥ縺娯?ヲ窶ヲ遘√?繧ェ繝?さ縺ォ縺?<窶ヲ窶ヲ……」
「……………………」
──もう! なにやってんだ、このバカ!! 鈍感野郎!!
そりゃ話しかけるだけでもドキドキするくらい好きな相手にいきなりそんなことされたら、壊れるだろ! もう死! キュン死必至だよ、まったく!!
「なぁ、どうしよう!?」
「とりあえず落ち着け。たぶんそっとしておいたら治るはずだから……」
颯人があまりにも焦るので、俺は肩に手を置いて彼を宥めた。ちなみにこれ、中学のときもあったんだよな。しかもあのとき、本当にそっとすれば治まったっていうね。
「おう、じゃあ俺、牧原の近くに──」
「それはダメだ!!」
「えっ?」
「いいから、お前はここに座れ」
そう言って俺は、図書カウンターから少し離れたところにあるテーブルの椅子に腰掛けさせた。
ところで、『助けて!!』って、何事だろう──この状況だから薄々わかるが、俺は確認のため、LINEを開いてみた。
『助けて!!』
『颯人先輩、来た! 二人きり、無理! 死ぬ!!』
「はぁ……やっぱりか」
呆れた溜め息が出た。でも良かった、無事みたいで──そう思うと、自然と緩んだ笑みが零れた。
けれどこの安心感に浸れたのは、ほんのわずかで……。
バタン!!!!!!
「久住さん!?」
今度は久住さんが倒れてしまった。
「大丈夫? 久住さん!!」
見ると顔を真っ赤にしていて混乱した様子。しかも牧原と同様、頭から湯気が出ている。
「繧ヲ繧ソ縺上s縺娯?ヲ窶ヲ遘√r蠑キ蠑輔↓縺?<窶ヲ窶ヲ……」
あとなに言ってるかわからないあたり、何故か牧原と同じく“壊れた”のだろう。もう、なにこれ。
「どうしよう、久住さんまで……」
「大丈夫。たぶん牧原と同じく、そっとすれば治るから」
「ホントか? じゃあ俺が椅子に座らせて──」
「いや、いい。俺がやる」
〇
「あのさ、颯人」
一時再起不能となった二人を置いて、俺は颯人に例のことを打ち明けることに。
「牧原がさ、最近とある男子にしつこく付き
「へぇ、そいつは災難だな」
「アイツ、好きな人がいるからお付き合いを断りたいけど、相手が怖くて強く言えないらしくてさ……」
「そっか、よっぽどその人のこと好きなんだな」
──そうだよ、お前が好きで好きで仕方ないんだよ。
「それで……どうしたんだ?」
「俺、牧原に『恋人のふりをしてほしい』って頼まれたんだ。しつこい相手に諦めさせるために追い払う目的で、って……」
「おぉ、そりゃすげぇお願いだな。で? 牧原って誰が好きなんだ?」
答えが自分だとは
「いや、それは知らない」
もちろん答えは教えないし、「ヒミツ~」とか言って、露骨に真実を隠すマネはしない。
「なーんだ、つまんね」
「悪かったな。つまらん存在で」
「そこまでは言ってないだろ?」
「あぁごめん、つい自虐に走ってしまった」
「なんだそりゃ……。じゃあ、付き纏ってるやつって? 俺の知ってるやつ?」
颯人がそう聞くので、俺はその問いに躊躇いなく答えた。
「
と、だけ言うだけでも通じるだろうと思い……。
「中野……」
「颯人?」
すると、颯人は力を入れて大きく目を見開いた。いつもの温厚な表情から怒りのような感情が垣間見えた瞬間だ。
「……ウタ、絶対に中野に近づくなよ」
「わかってる。アイツ、怖いし」
「牧原もだ。絶対に牧原と近づかせるなよ?」
「えっ? なんで?」
俺が近づいてはいけない理由はわかる。牧原も中野に近づけるべきではないことはなんとなく察しはつくが、理由なんて──
「知らないのか!?」
突然、颯人が声を荒らげて俺の肩を掴んだ。深刻な表情をしている。
「俺さ、あんまり人のこと悪く言いたくないんだけど……」
というのも──
「アイツ、ヤる目的でしか女と付き合ってないとかいう悪い噂が立っててさ……」
「……マジか」
「それにあの横暴な性格だ」
それらが耳に入り、身体が震えた。中野が怖くて……。
「俺、心配だ。牧原が……」
颯人と同じ、可愛い後輩が痛い目に遭うかもしれないという恐怖で。
あくまで噂。真実を知りもしないで、「そういうヤツだ」と決めつけてばかり。心の中では「よくない」と思っているはずなのに……。
本能が『
「だからウタ、牧原のこと……」
「わかってる」
俺は颯人を安心させるべく、無理に笑ってみせた。
「そっか、じゃあカッコイイ先輩らしく牧原のこと庇ってやれよ?」
すると颯人は俺の右肩をポンとたたき、爽やかな笑顔を残して図書室を出た。
可愛い後輩を守るカッコイイ先輩、か。そんな大役、俺じゃなく颯人がやるべきなんだけどな。
「ウタくん先輩……」
──おいおい、のんきなヤツだな。
カウンターの椅子で、牧原と久住さんはいつの間にかぐっすりと眠っていた。
「助けて……、はや……と……が……」
牧原に至っては寝言まで言ってるし。
さっきまで空気は
「ほら起きて、二人とも」
スヤスヤ眠る天使のように愛らしい二人の少女を見ていると、さっきの恐怖、これから起こりそうな嫌な予兆を忘れてしまいそうだ。
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