変わりゆく世界で

@tonoyamato

プロローグ

「ねえねえおばあちゃん、白き勇者様のご本読んで~。」


「はいはい。お前は本当にこれが好きだねぇ~。」



孫にせがまれ、老婆はおもむろに一冊の絵本を手に取る。

タイトルは『白き太陽と黒き稲妻』。

この国では知らぬ者はいないというほど有名な英雄譚だ。



「昔々ある所に、一人の青年がおりました……」



青年は山で出会った神から美しき一振りを授かる。

それは全てが白で出来た、まことこの世のものとは思えぬほど美しい刀。

鍔なども無く、ただ斬るためだけにあるその様相は、天上の美しさを誇っていた。

そして青年は人々の為に戦い、魔王と呼ばれる存在とついに相対す。



「勇者様は精悍な顔つきで告げました。無辜の民を苦しめる魔王よ、覚悟せよ。」



眼前にそびえ立つは視界に収まりきらぬ大蛇。

だがそれでも、勇者と讃えられし青年は怯む事無く立ち向かいます。

しかし魔王は強い。

天を仰げば全てを焼き尽くす太陽が落ち、その冷たき瞳で見つめれば鋭き氷剣が天を突く。



「でも勇者様には仲間がいるもんね。」


「ふふふ、そうねえ。」



そう、勇者には仲間がいる。

絶体絶命と思われたその時、天を覆う妖しき太陽を一筋の稲妻が貫いた。



「黒き槍の勇者様!」


「ふふふ、お前はどっちの勇者さまも好きだねえ。」



その黒き槍もまた、白き一刀と同じく神より授かりし神器。

振るうは絶世と言っても過言ではないほどの美しき女性。

二人は顔を見合わせ頷き、魔王へ挑みかかる。



「おや?ご飯の時間だってさ。」


「ええ~、最後まで読んでよ~。」


「ご飯食べてお風呂入ったら、続き読んであげるからね~。」



その言葉に笑顔を零した子供は喜び勇んで母の待つ食卓へ走る。

老婆も脇に絵本を置くと、元気に己を呼ぶ孫の声に応えるのだった。

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