三時限目『解答と解説、評定①』

 目が覚めると、僕は手足を縛られ口にはガムテープを巻かれた状態で横になっていた。

 目の前には小宮が胡座をかいて座っている。

「すまんな、これも仕事なんだ」


 成る程、これが聞いていた殺し屋殺しか。僕の顔を見て小宮には考えが伝わったようで、自慢げに説明を始めた。

「気づいたか。俺が巷で噂の殺し屋殺しだ。殺し屋と言っても一枚岩ではないからな。実力が足りずに使えないと上から判断されたやつや、同業者の仕事を奪いすぎて恨みを買ったやつを殺してきた。殺し屋を殺せるのは同じ殺し屋だけ、ってな」


 こんなに近くに居たなんて、なんで僕は気づかなかったんだろう。

 しかしながら不思議と今の僕は冷静だ。起きてしまったことは仕方がない、周囲を見て逃げ出す手段を探そう。

 

 本棚には、巻数がバラバラで揃える気のない漫画たちが並んでいる。そして助言したのに机とベッド両方を無理やり置いて窮屈になったリビング。

 ここは小宮の部屋で間違いない。


「それにしても簡単な仕事だったぜ。なんせお前の行動なんて半分くらいは筒抜けだ。後は隙を狙うだけだったからな」

思い返して見れば小宮の影は色んな所で僕に迫っていたのだ。


「まあ初めにお前ん家に侵入しようとしてばったり会った時は焦ったよ。『タイミング悪すぎだろ』て思ったさ」

小宮は意気揚々と僕についての評価を述べる。

「でもその後は楽だった。お前がどんな殺しをするのかと期待してたら全部おざなりだったじゃん。居酒屋で客として待ってたら、男の後に入ってきたお前の変装はばればれ。財布は橋に落としたまま去っていく。毒殺の件に関してはお前、殺す対象ミスったな? 事件の話をした時の顔がはっきりし過ぎててこっちが笑いそうになったわ」

 くそ、最初から分かってたら気をつけたさ。まさかそんな近くに居るとは思わなかったんだよ。

 確かに、『殺し屋殺し』であることを隠しながら共に過ごし、完璧なタイミングで襲って来た。他の分野と一緒でセンスはあるのかもしれない。


 それでも僕は余裕を崩さない。

 何故なら、小宮も雑な面が既に見えてるからだ。自分の才能を過信している。

 勝ちを確信して無駄な話をしているが、ドアが開いたままだぞ。僕を運ぶのに精一杯で忘れてたんだろうな。

 

 それにスマホを覗くこともあったのに気づいて無かっただろう。

ウチの定時連絡は安否確認の意味も兼ねてるんだよ。

 

 

 ほら、もう助けが来た。

 黒マスクで顔全体を覆った男が、バットを片手にゆっくりと玄関から侵入する。忍足で徐々に近寄るが、自慢話は止まらない。

 

 バットを振って当たる所まで来た。

 もう終わりだろうと思ったが、小宮はここでも抜群のセンスを見せた。僕の視線に気づいて直ぐに振り返りながら、持っているナイフを男に突きつける。

 しかし男の方が武器から優位にあり、ナイフは弾かれてしまう。

 そして小宮は男に殴られて倒れた。


 ああ、店長が助けに来てくれたのかな。でも店長は女だから、別の人が代わりに来たのか。

 そういえば何で僕はこのマスクの人物が男だと分かったんだろう。先日の件で見た目で判断しちゃ駄目だと反省したはずなのに。


 男はそのまま僕にもバットを振り下ろし、僕の視界はそこでストップした。

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