二時限目『問題と回答②』
次の日から、僕の毒薬づくりが始まった。
毒殺を選んだのは、二人まとめて殺すのに都合が良いからだ。
というのは建前で、二人をこらしめるに相応しい毒薬を思い出した事の方が大きいんだけどね。
今回僕が作っているのは、性欲を暴走させる薬だ。
これを飲んだ人は、性欲を抑えられなくなり一晩どころか一日中相手を求め続け、最後には腹上死してしまうという優れものだ。恋に飢えた二人にはばっちりの薬だろう。
しかしレシピが複雑で作業は難航しそうだ。
試行錯誤を繰り返して一ヶ月が経ち、なんとか作り終えることが出来た。
材料の中にどうしても手に入らない物があったのだが、まさか倉富の講義で習った粉で代用できるとは思わなかった。ここは感謝しといてやるか。
後はどうするかはもう決めてある。これを高いお酒の瓶に注ぎ、ラッピングに包んでカモフラージュする。そして依頼人の男から元彼女へプレゼントとして渡してもらうだけだ。味、匂いも完璧にごまかせている。バレるはずがない。
一週間後、薬の内容とどうやって渡すかを男に詳しく説明して渡した。これで後は安心だろう。
しかし、その翌日に恐ろしいニュースが飛び込んできた。
学食で小宮と雑談していた時のことだ。僕が店長さんに定時連絡を送っていると、小宮が突然その話題を振ってきた。
「なあ、知ってるか? 昨日毒薬で男女のカップルが死んだらしいぞ」
「へえ……毒薬でカップル!?」
僕は慌ててスマホを開いて記事を確認する。
そこには確かに依頼人の男とその元彼女の名前があった。
やってしまった、完全に失敗だ。
その日の深夜、僕はバイト先である定食屋に呼び出された。
「やってくれたな」
店長の声こそいつも通り冷たいが、隠しきれない怒りが顔や態度から伝わってくる。
「本当にすみませんでした。以後気を付けます」
僕は手を地面に付けて深々と謝った。
「『殺し屋殺し』の話をつい最近したばっかりだと言うのに。失敗は痕跡を残すぞ。あと、男の遺書が見つかったが、どうやら薬を貰った時点で心中するつもりだったらしい。……とにかくだ、知らない所でこっちも苦労してるし、ちゃんとお前の仕事を見て期待してるやつもいるんだからな」
「おっしゃる通りです。本当に感謝しています」
期待までされてるのに。僕はもう顔を上げれない。
「はあ……次は絶対に無いからな。気をつけてくれよ。そら、もう次の依頼が来ているが、読むか? お前に回していいか迷ったが、おまけだ」
店長さんは水玉模様の変わった封筒を見せてきた。「殺しの依頼にしては珍しい封筒ですね」なんて返す元気も無い僕は依頼を断って店を出た。
今は落ち込んでトボトボと帰っている。あれは依頼人の男を仲介すべきでなかっただの、そもそも毒殺が失敗だっただの、いくらでも反省は出来る。
それでも習性だろうか、誰かにつけられていることには気づいてしまう。
言っておくが「仕事に失敗して動揺しているだけでただの勘違いだ」などということではない。間違いなく気配を隠しながら僕に近づいている。
急ぎ足になり、狭い路地をいくつも複雑に入って行き、巻こうと躍起になる。
すると、表通りに犬を散歩させてる老人が見えた。どうやら皆が外に出始める時間になったらしい。一旦急いで表通りに出て落ち着こう。
表に出て周囲をさりげなく見回すが、視線も気配も感じなくなった。どうやら上手く巻けた様だ。
僕は安心してアパートの階段を登る。
ドアを握ってほっとした時だった。後頭部に衝撃が走る。
なんだ、住所まで割れてたのか。僕の意識が薄まって行く。
力を振り絞って顔を上げると、ぼんやりと目に映ったのはこちらを見下ろす小宮だった。
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