恋のエスケープの時間 7
教室でブルマ姿にお着替え中のあおいたち、六年一組と二組の面々。二時間目の国語の授業が終わっての、今は休憩時間だ。
黒百合女学院初等部は当然に女子校であるので、また歴史ある古い学校なので、設備は古いところがあって更衣室は校舎には存在しない。流石に水泳の時間だけは、教職員や父兄また出入り業者などには男性もいるので、プールの更衣室を使うのだが、普段の体育などでの着替えは教室でだ。
そして今日は、隣の二組も一組でお着替えだ。これは外部からの盗撮や覗き及び不審者が侵入しての窃盗を、学校側が警戒して隣り合うクラスで日替わり交代で!と決まっている。
そんな休憩時間、待った先生はタバコを一服と思い喫煙所の屋上へとポケットをまさぐりつつ階段を昇るのだが、ない。
『教室にでも落としたか?。』
待った先生はそう思い、六年一組に面する廊下へと階段を戻ると何処からともなく漂う、自分のタバコの匂い。
『こんなイタズラするのは、赤井しかいない!。』
六年一組に歩みを早める待った先生。だがそれを、小さな手鏡を廊下に出してあおいが観察中の教室からは、みずきとあおいの女の子らしい会話が廊下にまで漏れている。
「あー! あおちゃんのベビードール可愛い!
どこで買ったの?。」
「へへーん! イイでしょー
四ッ越デパートでね・・・。」
『ベビードール? 赤ちゃんの人形か?
男勝りの赤井にも女の子らしいトコあるんだ?。』
待った先生は普段は生徒たちに気を使い、引き戸を開ける前に一応は声をかけるのだが、そう勘違いした待った先生は勢いよく、一気に引き戸を開いてしまった。
「赤井~その赤ちゃんのお人形
先生にも見せてくれよ!。」
待った先生の目に飛び込んだのは、赤ちゃんのお人形を抱き締めたあおいではなく、下着のベビードールを皆に自慢しているあおい。もちろん着替え中の生徒たちの・・・姿も。
当然にお着替え中の女の子の皆の視線は、いきなり開かれてしまった戸に集中してしまい、飛び出す甲高い悲鳴の数々。中には膨らみ始めた胸を必死に隠そうと、しゃがみ混んでしまう子が何人も。
「す、スマンっ!
わざとじゃない 事故だ!
ゆるしてくれ!。」
慌てて戸を締める待った先生。そして・・・
そして・・・『作戦成功!』と、ニヤリと一人ほくそ笑むあおい。そう、待った先生のポケットのタバコをちはるに抜き取らせたのも。廊下にタバコの匂いを漂わせたのも。ベビードール云々の待った先生に勘違いさせる会話も。全てが、待った先生から冷静なる判断力を奪うための、あおいによる企みなのである。
可哀想に、悪魔あおいの企みに引っ掛かってしまった、そんな待った先生の非イケメンでも一位を誇る生徒人気は、この瞬間に大暴落したのは言うまでもないのだけれど、これはまだ序章に過ぎず・・・。
一年生との自由体育の時間前の、教室でお着替え中のあおいたち六年の一組と二組。黒百合女学院では、初等部一年生と六年生・中等部三年生と初等部六年生との自由体育が年に数度、行われている。
昔これが始まったのは、学年を越えた交際力や交渉力に指導力を身に付けさせるためなのだが、今や楽しいお遊戯のレクリエーションの時間と化してしまっている。
ともあれ着替えながら、あおいの仲良しグループのあおい組のメンバーが話をしている。
「あの本、待った先生が没収して持ってるのかな?
主任先生や教頭先生に渡したのかな?
だとしたら、わたしら処分だよね。」
大好きな待った先生にあの本がバレちゃったゆかりは嘆く
「さよなら わたしの大好きな松田先生
わたし退学になっちゃったら
もう会えないのね。」
そんな会話はあおい組だけではない。クラスのあちらこちらから聞こえている。それは、クラスの机にエロ同人誌を皆が隠していたのが、担任の待った先生に見つかり、さっきの朝の始まりの会で叱られはしなかったものの、チクりと指摘されたからだ。
でも、そんな事はどこ吹く風な表情のあおいは、あおい組の面々に何事かをささやくと
「今日はカネコが休んでるから
わたしが自由体育、仕切るわよ!。」
グランドにあおいが駆け出す頃には、不要物それもエロ同人誌の校内持ち込みという、校則違反への処分を怖れていたそんな雰囲気は一変。目を輝かせるあおい組や六年一組の面々。
『流石あおいちゃんだ!
これなら皆が処分されない!
皆であおいちゃんに協力よ!。』
休憩時間が過ぎてブルマ姿でグランドに先生たちを待つ、あおいたち六年生の一組二組と一年生の一組と二組。チャイムが鳴り、それぞれのクラスの担任たちがグランドに姿を見せる。あおいにささやく美佐。
「あ! あおちゃん、先生来たわよ。」
ブルマのお尻をポンポンと叩いて砂を落としながら立ち上がったあおいは、『本当は六年生じゃなく四年生だろ?』な、小さな体には似合わな過ぎる大声で叫ぶ。
「いいこと?
さっき話したように今日の自由体育は
隠れ鬼ごっこをやりまーす!。
逃げ隠れる範囲はぁ
初等部だけではなく隣り合う
幼稚部から中等部そして高等部の各校
ぜーんぶを含めた
黒百合の山手校の全域でーす!。
最初の鬼はぁ、待った先生たち先生四人だよっ!
みんな~逃げろぉ!隠れろぉ!
隠れ鬼ごっこ 始め~!!!。」
今日は学校一番に真面目っ子で級長、六年一組の唯一の良識派の桃井カネコが欠席している、あおいたち六年一組。昨年の五年生クラス編成の職員会議で成績均等にクラス編成したつもりが、何故かイタズラ娘が集中してしまった、五年一組つまり今の六年一組。
そんなわけで、六年一組で唯一の良識派の桃井カネコは一年前
「赤井! どうしてお前は口より先に手が出るんだ!。」
「え? 先生、わたし優しいから手は出してないよ
それにぃ、先にちゃんと注意したよ。でもぉ
足が滑って転んだら肩がぶつかっただけだもん
それが体当たりと誤解・・・。」
「あおちゃん、その理屈は屁理屈でしょ!💢
この三人泣いてるじゃない!
謝りなさい!。」
「だってさ、あいつら
三年生を下級生イジメ・・・。」
「あおちゃんっ! 手加減したんだろうけど
武術してない子にいきなり体当たりもイジメ!。」
「カネコっ! どこがわたしのイジメなのよ!
あいつら六年生だよ。
三人揃って、わたしより背も高いしさ
それに先に手を出したのも、あいつらだよ!なのに
五年生のわたしに手加減されて負けるって。
文武両道の黒百合なのにさ、先輩の風格ないじゃん。」
「その先輩は中等部に先輩がいるのよ!
エンドレスゲームするの?💢。
あおちゃんのパパ言ってるでしょ
喧嘩で勝ってもメンツは立ててやれって。」
小一時間続いた応酬で音を上げたのは、ややこしい事やめんどくさい事がキライで、ゆえに短気で、しかし気まぐれゆえにコロコロ気分が変わる、そんなあおいだった。遊びに行きたくなったのだ。
「ああっ! カネコはうるさいわね
はいはい。謝ります。ごめんなさい。」
と、理屈大好きなあおいに理屈では負けず、また猪突猛進な勢いで勝ちに行くあおいに対し、根気で勝負の桃井カネコ。
その彼女が欠席している今日だからこそ、初等部で一番にお転婆娘なあおいが自由体育を乗っ取り仕切ってしまったら・・・抑えが効かない。そう警戒していた、六年一組二組と一年一組二組の担任の先生たち。
でも今朝かかって来た、あおいママからの電話
「あおいは風邪なので、体育は休ませてくださいね。」
で油断してしまった先生たち。もちろん、先生たちがあおいのママからの電話と信じきっているこの電話も、あおいが二時間目の授業中にトイレを口実に抜け出し、声を変えて電話したものだ。
そして一時間目の授業からずっと、あおいにイタズラを仕掛けられ続けて翻弄されていた。そんな待った先生は、あおいへの怒りで判断力を失いかけたところに、職員室でジャージに着替える際に伝えられたこの電話で、完全に油断しきってしまった。
その先生たちの隙を、脳内悪魔コンピューターで見事なまでに計算して作り出し、突いてみせたあおい。
油断してしまった隙をあおいに突かれてしまって、唖然の茫然自失して立ち尽くしてしまう、四人の先生たち。我を取り戻して
「こらぁ!お前らふざけるな!。」
「あなたたち準備運動が先でしょ!。」
「待てっ!逃げんなっ!。」
「お願いよ! 待ってぇ!止まってぇ!。」
あおいたち生徒を必死に呼び止めようと、先生たちが今さら大声を出しても後の祭り。蜂の子だか蜘蛛の子だかを散らかすように、あおいの号令で一斉に逃げ出す六年生の一組と二組に一年生の一組と二組。
盛大なる隠れ鬼ごっこが始まってしまった。いやいや、隠れ鬼ごっこという名目の集団エスケープでカムフラージュした、不要物持ち込みの校則違反の処分から自分と皆を救う、あおいの一発逆転劇場が始まってしまった。
つづく・・・
この「初等部編 1 あおいはHな女の子?」の章の「恋のエスケープの時間 」は、次話から「隠れ鬼ごっこの時間」でさらに物語が進みます。
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