誰がための力
第1話
「私の可愛い二人をいたぶってくれたようね?」
三つ首の蛇、その中心に位置するイブリースは悠人に向けてそう言った。
「俺もいたぶられたけどな。おあいこじゃないねえか」
サタンに匹敵するほどの悪魔と呼ばれる相手に些かも怯まず、悠人はそう言ってのけた。
「下等な人間に与する相手と、私たち
不愉快を形にするかの如く、イブリースは巨大なしっぽを悠人めがけて振るって見せた。
馬鹿力に任せた一撃であったが、悠人は
「ちょっとは強いみたいだな」
「そう? この子たちから聞いたけど、あなたはこの子たちよりも弱いそうじゃない」
アジィとダハーカは何も話していないが、融合している故に意識が統合され、イブリースに直接伝わっているのだろう。
「だから、何だってんだ?」
「私は弱い物をいたぶるのが大好きなのよね。一方的に相手を叩き潰すのは最高の娯楽。そう思わない?」
「いい趣味してるぜ。
そんな軽口が気に障ったのか、再びイブリースは悠人に襲い掛かる。アジィとダハーカも含めた三つ首の竜、アジ・ダハーカとして悠人に迫り、噛みつこうとするも、悠人の
「弱い相手に一発かまされるのはどういう気持ちかな?」
「私に血を流させたわね」
自分を出血させたことに対し、イブリースはやや冷たい口調でそう言ったが、流れた血から無数の蛇が生まれ、悠人へと襲い掛かってくる。
「燃え尽きろ!」
しかし悠人もシャクラを放ち、蛇たちを焼き尽くしてしまった。
「伝説通りってところか」
アジ・ダハーカは体を斬られても、そこから蛇や爬虫類などの邪悪な生き物がはい出してくるという。
そんな逸話があることを悠人は思い出した。
「私たちを切り刻むのはあなたの勝手だけど、この辺り一帯が私が生み出した蛇でいっぱいになるわよ?」
皮肉交じりのイブリースに、悠人は思わず苦笑する。
「そりゃ大変だ。不毛地帯になっちまうな」
暗に汚れた存在であることを指摘しつつ、悠人は
「なんだ? 合体してパワーアップしたか?」
「その通りだ。今の俺たちは単体であった時よりも強い」
「三匹も合体してるんだ。それで弱けりゃ話にならねえだろ」
皮肉たっぷりに呟く悠人であったが、ダハーカは返礼として、口から火球を放ってきた。
再び
合体したことで間違いなく力が上がっているのが分かる。
「さて、お次はこちら」
アジィが呟くと、途端に地割れが発生する。危うく悠人は巻き込まれそうになるが、
先ほどの火球が大砲レベルとすれば、今放っているのはグレネードランチャーレベルではあるが、その分連射のスピードが別格といってもいいほどに早い。
「防ぐだけで精一杯のようね」
「そう見えるか?」
「だったら攻撃してみたら?」
暗に誘っているのが分かるが、それを待つことなく三つ首の蛇は両腕の鞭を振るいながらも攻撃の手を緩めない。
「繰り出してごらんなさい。ヴェスペやアジィを倒したようにね」
命中した対象を木っ端みじんに吹き飛ばす高出力のエネルギー弾だが、今ここで放ったところで状況を打開することは難しい。
というよりも、それはあからさまなほどの罠となる。
「アホか、血を穿つ太陽の弾丸を放ったら、この辺り一帯が汚染されちまうだろうが」
血を流しただけで、そこから蛇が生まれるアジ・ダハーカに、そんな攻撃を繰り出したら一帯が蛇で汚染される。
下手をすれば、相手を無駄にパワーアップさせる危険性すらあった。
「それ以外にあなたが私たちを傷つける術はないわよ」
イブリースの指摘は決して間違ってはいない。実際、悠人は何度か
驚異的な再生能力があるアジ・ダハーカに、そんな攻撃を行ってもマッサージ程度にしかならないのだ。
「まあ、確かにそれは認めてやるよ」
やや、冗談交じりに悠人はその事実を認めた。
「ならば、取れる手段は一つしかないわね。でも、あなたの切り札を使ったところで無意味よ。私たちは全にして個。融合し合うことでさらに強化されていくのだから」
「つくづく生物の枠組みから外れてやがるな。お前らはスライムか?」
スライムのように融合を繰り返す姿は、多細胞生物の枠組みを超えている。少なくとも、通常の生物とは明らかに違っており、その生態を詳しくデータ化すれば、それだけでノーベル賞が取れるほどだろう。
「私たちは人間などとは違う高みに位置しているわ。その尺度で判断するだけ無駄よ」
「そういう力を、テメーらはクッソくだらないことに使ってるんだ。無駄なことをやってるのはどっちなんだろうな?」
鞭のような両腕を
「そういう俗世のことには興味が無いわ。それに私たちの目的はあくまでも、理想国家の樹立、そして、優れた一族を生み出すこと」
「理想国家とか、今更お前らが好き勝手出来る国なんざ、この地球には存在しねえんだよ。優れた一族にしてもそうだ。お前ら夢見すぎにも程がある」
悠人はそう言ってみたが、それは
彼らは超常的な力を持ち、その気になればいくらでも人間社会を混乱させ、影から介入することもできる。
その力を使えば、理想国家とやらを作り上げることもそこまで荒唐無稽ではないだろう。
「少なくとも、私たちは一つの目標には成功したわ。蛇姫を生み出せたのだから」
「そうかい、なんならおめでとうとでも言っておこうか?」
悠人の言葉に反応するかのように、ダハーカの口から火球が放たれるが、悠人は自身のシャクラでそれを相殺する。
「いい加減、あきらめたら?」
「こう見えても、俺は無茶苦茶諦めが悪いんだわ」
「あなたにこの状況を打開するだけの力は無いわ。あるとすれば、たった一つだけよ」
仄めかすかのように呟くイブリースに、悠人は思わず苦笑した。どこまで自分の
同時にそれは、イブリースが自分を過小評価していることの裏返しでもあることから、思わず悠人は腹を抱えて笑ってしまった。
その隙を突くかのように、イブリースの両腕の鞭が悠人の胴体を薙ぎ払い、悠人は派手に宙を舞い、地面へと激突する。
「とうとう気が狂ったのかしら?」
「いや、お前らの読みがあまりにも甘過ぎて、胃がちょっとだけ持たれただけだぜ」
「そこまでリクエストされたなら、出してやろうじゃないか。とびっきりをな」
悠人の必殺技は
「さて、見せてやろうじゃないか。天を射貫く太陽の矢をな」
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