第79話 未来の旦那様 ~美優の視点~

「ふわぁーあ」


 朝日が昇ってきて、自然と目が覚める。清々しい朝。ふと、隣を見ると、リュウ君が裸だ。


「!?」


 一瞬、後ずさりそうになるけど、そう言えば昨日はリュウ君からプロポーズをしてもらって、そして、夜はそのまま……なのだった。


 そして、私も裸なのに気がついて、気恥ずかしくなる。昨夜は燃えた……といっていいのかわからないけど、無我夢中で、とても気持ちよかった。でも、こうして朝になると、昨夜の事がとても恥ずかしく思えてきてしまう。


 私は、朝倉美優あさくらみゆう。そこに寝ている彼、高遠竜二たかとおりゅうじとは、幼い頃から一緒に育った幼馴染だ。思えば、彼に気づいてもらえるまで随分かかったのだけど、今にしてみるといい思い出だ。


「でも、リュウ君が旦那様か~」


 想像して、つい頬が緩むのを感じてしまう。まだ私達は婚約者になったばかりだけど、いずれは結婚するというのを約束したということでもある。


「つんつん」


 ちょっと、リュウ君の頬をつついてみる。


「ミユ,これ以上は身体が保たないから止めてくれ~」


 む。どんな夢を見ているんだろう。きっと、エッチな夢なんだろうけど、私の事を夢に見てくれているのは嬉しい。私がエッチを迫ってばかりみたいなのは不本意なのだけど。


 こうして、リュウ君の寝顔を眺めて過ごす一時が大好きなのだけど、私のほうが早起きなことが多いので、きっと知らないんだろう。


「ん?ミユ、おはよう」

「おはよう、リュウ君」


 ようやく目が覚めたらしい。瞼をこすっていて、眠そうな顔がまた可愛らしくて……なんていうと、彼はムスっとしそうだけど。


「て、裸?それに、ミユも」


 あたふたしている彼。私も目が覚めたとき、おんなじだったけど。そういうところは似たもの同士だ。


「ああ、そういえば。昨日はエッチした後、そのまま寝たんだった」


 私の裸をみながら、そんな事を言うリュウ君。乙女としては、冷静に対応されてしまうのは不本意だ。初体験の頃のリュウ君はもっとあたふたしてたのに。


 さて、そろそろ着替えよう。そう思って、ベッドから出たのだけど、何故か彼が視線を逸らしていた。


「ちょっと、後ろ向いてるから」

「う、うん」


 急にどうしたんだろう。今になって、恥ずかしさが込み上げてきたのだろうか。だったら、嬉しいな。


 いそいそと、とりあえず昨夜の寝間着を身につける。服の散らばり具合が生々しくて、昨夜の行為を思い出してしまいそうになる。いけないいけない。


 着替えを終えて、振り向くと、彼も既に着替えていて、それが少しだけ残念だった。もう少し裸で抱き合っていたかった……というのは、今更かな?


「今日から、ミユが将来の奥さんなんだな」


 彼の何気ない一言が、とても嬉しい。


「リュウ君も私の未来の旦那様だよ?」

「そういえば、そうだった」


 視線を交わして、お互いに笑い合う。


「結婚したら、どうなるんだろうな。俺たち」


 聞かれて、少し考えてみる。もし、学生結婚だったら、友達を集めてパーティーでもやるのだろうか。その時には、Byte編集部の人たちも呼びたいな。それに、お世話になったしゅんさんや、みやこちゃんも。


 都ちゃんと言えば、少し前に俊さんと恋人同士になった後の猥談わいだんはショッキングだった。アソコを愛撫してくれたとか、胸をこう揉んでくれたとか、ペースに気遣ってくれたとか、身振り手振りで説明するものだから、臨場感がたっぷりで、その時に、「ああ、私も、こんな恥ずかしいことしてたんだ」と意識してしまった。


「学生結婚できたら、いいな」


 つい漏らしてしまった一言。


「したいのか?学生結婚」


 無理に……とは言わないけど、実はしたい。


「すぐじゃないけど、在学中には、できれば、したいな」


 彼はどう思っているだろうか。やっぱり、社会人になってからとか?


「わかった。今すぐじゃなくていいけど、しようぜ。学生結婚」


 頭を掻きながら、照れくさそうに告げるリュウ君。その言葉は、飛び上がりそうなくらい嬉しかった。


「それじゃ、将来のお嫁さんとして、朝食の支度をしようかな」


 もっとも、既に私がいっつも食事をつくっているのだけど。今日は特別で、いつもより気分が高揚している。


「いや、無理しないでも……てか、これからは俺も作るし」


 こういう時、彼はよく気遣ってくれる。それは嬉しいのだけど、こういう時は、「頼む」って言ってくれた方が嬉しかったりする。


「無理じゃなくて、私がしたいだけだから」

「じゃ、お願いな」


 朝食の支度を始める私。リュウ君の好物を思い浮かべながら、何を作ろうかな、なんて鼻歌まじりに考えてしまう。


「やけに機嫌良さそうだな」

「だって、婚約者になれたもん」


 気づいていて、私の答えを確かめたいのだろうけど、少しイジワルだ。


 今日も、いい一日になりそう。こんな朝のひとときをくれた、神様だか偶然だか知らないけど、感謝だ。

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