第62話 俺と幼馴染が帰省することになった件(9)

 さて。今日はいよいよ、つくなみ市に戻る日だ。たった数日の帰省だったが、色々なことがあって、少し名残惜しく思えてくる。


「じゃ、母さん。そろそろ、戻るから」

「もうちょっとゆっくりしていかないの?」

「バイトもあるしさ」

「そうね。じゃあ、美優ちゃんと元気でね」


 最後まで、そのことを引っ張る母さん。


「まあ、仲良くやるよ」


 玄関外でミユと待ち合わせて、外に出る。


「あー。やっぱ暑い……」


 ここのところ、晴ればっかりで、たまには雨でも降ってくれないかなと思う。


「電車乗れば涼しくなるよ。いこっ」

「だな。駅が近くて助かったよ」


 俺たちの実家は両国りょうごく駅から近くなので、そう長いこと陽の光に照らされずに済む。総武線に乗った俺は、その涼しさにほっと一息をつく。


「にしても、こんな暑いのに、よく混んでるよな」

「リュウ君が暑さに弱いだけだったりして」

「帰ったら、もうちょっと鍛えるかな」

「ふふ。その時は手伝うからね」

「よろしくお願いします。コーチ」


 以前で、ミユの指導の上手さは身にしみている。ちょっとは体力をつけないとな。


 総武線で2駅の秋葉原で乗り換えて、次はTEXでつくなみ駅へ。秋葉原はTEXの始発駅なので、席にはかなりの確率で座れるのがいいところだ。


 快速に乗って、つくなみ駅を目指す。


「あ、そういえば、お土産!」

「すっかり忘れてたな。ま、Byteの人たちだし、大丈夫だろ」

「せっかくだから、東京土産でも買っていこうと思ってたのに」


 窓を眺めながら、残念そうにミユがこぼす。


「その辺は今度帰省した時でいいだろ」

「そうかもね」


 外の景色を見ながら、ぼーっと考え事をする。


「そういえば、実家の近くの景色あんま変わってなかったよな」

「私達が東京出て、まだ半年してないよ?そんなにすぐ変わらないよー」

「もうちょっと、店潰れたりしてると思ったんだけどな」


 次に帰省するときも、また、実家の近くは同じような姿だろうか。それとも、様変わりしているだろうか。そんな事を考える。


「都たち、どうしてるだろうな」

「うーん。あんがい、しゅん先輩と一緒に居たりして」

「都の熱の入れようを考えると、案外否定できないな」


 なんせ、ミユにある意味でのトラウマを植え付けた張本人だ。それこそ、目を覆うようなバカップル化をして……まあ、俊さんがいるからないか。


「来週から、バイトかー。何作るんだろうな」

「なんか、近くの研究所から依頼を受けることもあるって見たよ」

「実験のためのプログラムか?」

「さあ、どうなんだろ。山崎さんに聞いてみればわかるんじゃないかな」


 俺たちの面接に出てきた、山崎さんというほっそりとした人を思い出す。


「俺にできる程度の仕事だといいんだが」

「山崎さんがきっと加減してくれるよ」

「そう祈りたいな」


 そんな風に、つくなみに戻ったあとにああするこうすると話し合っていると、あっという間に時間が過ぎていき、気がつけばつくなみ駅だ。しかし、TEXは、秋葉原-つくなみ間が乗り換えナシなのはいいけど、片道料金が高すぎる(1000円)。


 つくなみ駅に戻った俺たちは、大学循環バスというその名もずばりのバスに乗る。ちなみに、このバスは学生パスというのを用意していて、買えば半額で大学循環バスに乗れる。15分ほどして、バスは俺たちが住む甘久保あまくぼ三丁目にたどりつく。


「やーっと、戻ってきたな」


 こころなしか、東京より暑さがましなように思う。


「やっぱり、こっちに来ると帰ってきたって気分になるな」

「うんうん」


 言って、俺の家の前で立ち止まる。そして、


「ただいま、リュウ君」

「おかえり、ミユ」


 無事、俺達は家に帰ったのだった。

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