第54話 俺と幼馴染が帰省することになった件(1)

 今日は8月18日の火曜日。今、俺たちはつくなみ市と秋葉原駅を結ぶTsukunami EXpress(TEX)の車両に座っていた。というのも、お盆の帰省ラッシュもそろそろ過ぎ去っただろうということで、東京都の実家に帰ることになったからだ。


「そういえば、結局、実家一度も帰ってないよね」

「GWとか、帰る雰囲気でもなかったしな……美園みそのちゃん、元気してるかな」

「む。浮気?」

「美園ちゃん、まだ中3だろ。手出したら犯罪だろ」

「リュウ君、もう、私に飽きちゃったんだ―」


 わざとらしい泣き真似をするこいつ。


「まあ、それはおいといてだ」

「おいとかないで欲しいんだけど」

「で、美園ちゃんとは連絡取ってるんだろ?」

「ん。時々はね」


 先程から話題にしている美園ちゃんというのは、俺達の住むマンションの部屋より1階下のところに住んでいる宮崎みやざきさんのお子さんで、ちょっとした事があって、懐かれるようになってしまった。大学に行く時は大泣きされたくらいだ。


「で、どんなこと話してるんだ?」

「まあ、リュウ君と私のアレコレとか、しゅんさんのこととか」

「変な性知識植え付けてないよな」

「またそんな事を言うー。今の私にはもう無理だよー」


 結局、都から聞かされたらしい、何やら生々しい俊さんとのあれこれを聞いた結果が予想以上に尾を引いているらしく、今までみたいに積極的にエッチを誘うような事はなくなってきた。で、エッチな雰囲気になると途端に恥ずかしがるようになってしまった。


「ま、今のお前も可愛いよ」

「そういう褒め言葉軽く言うようになったよね。以前は恥ずかしがってたのに」

「お前が恥ずかしがるようになったからな。こう、そそるというか」

「そそるとか言わないでー」


 こう、ちょっとエッチな方向の話題を振ると恥ずかしがってくれるので、男の自分としてはちょっとした支配欲が満たされる。ので、そういう話をしたくなるのだ。


「そういえばさ、俺達の事って、おばさんおじさんに話した?」

「普段のことは話してるけど、付き合ってるのは、まだ……」

「奇遇だな。俺もなんだ」

「リュウ君も?」

「なんか、改まって言うのも恥ずかしいし」

「わかるわかる」


 別に結婚したわけじゃないし、あえていうこともないよな、と思って、結局、父さんや母さんと電話するときに、あえて付き合っていることは言わなかった。


「でも、さすがに今回は言った方がいいよな」

「そ、そうだね。同棲も始めたし」


 二人揃ってうなずく。実のところ、今回の帰省はそのことも兼ねている。まあ、付き合っても居ない俺達が隣通しの部屋に住むことにとやかく言わなかったのだ。たぶん、平気だろう。


 そんな事を話したり、スマホでニュースやツイッターを見ているとまたたく間に時間は過ぎて、気がつくと秋葉原に到着していた。


「うおー。やっぱ暑い」

「つくなみも暑いでしょ」

「東京は、別の暑さがあると思うんだ」

「そうかな?」


 この夏で特に実感したが、こいつは暑さへの耐性が強いらしく、気温が30℃近いというのに、ものともしていない。一方の俺は地上に出た途端、汗だらだらだ。


「もう、汗びっしょりだよ」


 彼女のタオルで汗をぬぐってくれる。 


「はー。助かる。制汗剤でも買った方がいいのかな」

「移動する時とかは買った方がいいかも」

「え、まじ!?俺、臭い!?」

「臭いじゃなくて、汗だらだらだと周りの人びっくりするよ」

「確かにそうだな」


 今度制汗剤を買っておこう。


 秋葉原からは総武線で2駅の両国りょうごく駅の近くに俺達の住むマンションがある。両国駅は、相撲などで有名だが、比較的住みやすい土地だとも言われている。また、下町風情が多く残る土地でもある。


 というわけで、秋葉原駅構内のフードコートでお腹を満たしてから、両国駅を目指す。電車で2駅だからすぐだ。


「あー、この駅みると、帰ってきたんだなーって気になるよな」

「うんうん。毎日、この駅見てたもんね」


 久しぶり、というか、5ヶ月ぶりになる帰省だが少し懐かしい気持ちになる。慣れ親しんだ店が色々変わってないだろうか。


 そんなことを考えながら、駅の周辺を歩くが、一部工事が入っているもののそんなに変わっていないようで一安心だ。


 そして、歩くこと約10分。俺達の住むマンションに到着した。10階建てのマンションで、俺とミユの住む部屋が3階にあってお隣同士。さっき言った美園ちゃんの住む部屋が2階にある。


 それぞれ、ラインで着いたことをお互いの親に知らせてマンションに入る。一応、それなりのマンションなのでオートロックなんかもかかっている。


 3階なので、階段を上がって、それぞれ扉を開けると、


「久しぶりね、美優。暑かったでしょ」

「うん。久しぶり。暑さは案外平気だよ」


 応対するのは、美優のお母さんの、朝倉美智子あさくらみちこおばさん。


「よく帰って来たわねー、竜二。外、暑いでしょ?入りなさいよ」


 一方、俺に応対する母さんの本名は、高遠幸子たかとおさちこ。お隣同士なので、母親同士もよく交流している。


「うん。そうさてもらうよ」


 なんてやり取りをしていた。


 そして、ほぼ同時に帰ってきたのが、それぞれの母親にもわかったようで、母親たちは、お互いに目配せをした後、


「美優、おめでとう。竜二君への想いがかなったのね」


「竜二も、美優ちゃんとやっと進展したんだね」


 そんなやり取りがかわされていた。見抜かれたとはなかなか鋭い。

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