第45話 俺と幼馴染がプールに行く件について(3)

 というわけで、みやこしゅんさんの様子を見に行くことにした俺達。しばらく、探し回ると、どうやら、プールサイドの一角に二人が居るのを発見。都と俊さんが少しの距離を取って向かい合っている。まさか、これはー


「これって、ひょっとして、告白って奴、だよね?」

「あ、ああ。たぶんな」


 遠くからだからよくわからないが、都が何やら俊さんに向けて言葉を紡いでいる。


「ね、もう少し近くに行こうよ」

「いいけど、あんま近くに行くと見つかるぞ」


 というわけで、声が聞こえる位置で2人の死角になるところまで近づく。


「そういうわけで、俊先輩、大好きです。お付き合いしてください!」

「……」


「まさに告白の瞬間!」

「ほんとに、最中だったとは」


 さて、俊さんの返事はいかに。


「都ちゃん、気持ちはありがとう。凄く嬉しいよ」

「はい」

「ただ、俺は自由人だから、都ちゃんにあまり構ってあげられないかもしれない」

「でも、先輩は私が押しかけても、よく面倒見てくれましたし」

「正直、こんなおっさんを好いてもらえて、嬉しかったからな」


 その言葉に、先日の彼の自嘲気味な発言を思い出す。


「そんな、おっさんなんて!」

「研究や論文執筆、発表と色々あるし、あまり応えられない事があるかもしれない。それでも、いいかな」

「はい。時々、こうして一緒に居られればそれだけで幸せですから」

「じゃあ、付き合おう」

「ありがとうございます!!」

「でも、せっかくだから呼び方を変えてもらえないかな」

「呼び方、ですか?」

「ああ、できれば、「俊」と呼び捨てにしてほしい」

「うう。ちょっと慣れませんが、頑張ってみます。俊、これからよろしくお願いします」

「敬語は変えられない?」

「そこは……誰に対してもそうなので、ちょっと無理です」

「じゃあ、そこはいいか」


 無事にお付き合いすることが決定したようで、俺達もほっと一息だ。


「しかし、時々居られれば幸せ、か。ずいぶん健気だな」

「都ちゃん、そういう所は控えめだからね」


 そんな感想を交わし合う。


◇◇◇◇


 ホテルを出た俺達は入り口で集合した。時刻は21時を周っていて、そろそろつくなみ駅への終電を気にしないといけない。


(あの、ちょっといいでしょうか)

(ん?ひょっとして、ここで解散したいとか)

(は、はい。申し訳ないんですが。その……)

(うまく行ったんだろ。存分に楽しんで来いよ)

(ありがとうございます!)


 というわけで、俊さんや都と俺たちは別行動と相成ったわけだが。


「あの二人。ひょっとして、このままラブホに行くつもりじゃない?」

「いくらなんでも、付き合って即ラブホ直行はないだろ」

「いやいや、わからないよ。都ちゃんの事だから、このままの勢いで誘っちゃうかも」

「とりあえず、俺たちの事を考えようぜ」


 俺たちも時間的にそろそろ、つくなみに帰るか、こっちで泊まるか考えないと。


「……時間も遅いし、ホテル行くか」

「!?」


 ミユがなんだかとてもびっくりしている。


「なんだ。意外か?」

「だって、リュウ君の方からラブホ誘ってくるなんて……」

「てい」


 桃色な思考をしているこいつの頭を軽く叩く。


「痛いよー」

「ホテルと言ってもビジネスホテル。今から探せば、どっか空いてるだろ」

「むう。せっかくのデートの締めにビジネスホテル?」

「締めにいっつもラブホ持ってくるのもどうかと思うぞ」

「ま、いっか。ビジネスホテルでっていうのも、それはそれでアリかも」


 というわけで、近場のビジネスホテルにそのままチェックインを済ませて、2人用の部屋へ。ツインベッドに最小限のスペースが確保された、いかにもビジネスホテルという部屋だ。


「見てみて、夜景がきれいだよー」

「ん?おお。確かに」


 案内された部屋が15階という高層階なために、付近の夜景が一望できる。


「たまには、こういうのもいいもんだろ?」

「うん!でも、やっぱり……」


 そう言いながら、ぐっと顔を近づけてくるミユ。そのまま、口づけを交わしたかと思えば、舌を入れて来る。ぴちゃ、くちゅ、と水音を立てながら唾液を交換しあっていると、次第に俺の方も興奮してくる。ミユの顔も紅潮していて、準備万端という感じだ。


 そんな俺の兆候を読み取ったのか、ミユの奴も下半身をなでてくる。うぐぐ。


「やっぱり、身体は正直だよねー」


 悪戯めいた、というか、蠱惑的な表情で見つめられる。こうなると、もうすっかりペースを握られるのは確定だ。


「いや、疲れてるのは本当なんだけどな」

「じゃあ、途中から、私が上になってあげるから、リュウ君が楽にしててくれればOK♪」

「じゃあまあ、疲れすぎない程度に頼む」


 結局、嫌じゃないからこうやって押し切られる流れになるのだ。しかし、ミユが魅力的なのも確かなので、抗えないのは男の性だろうか。


 お互いの服を脱がしながら、


「ねー。結局、都ちゃんたち、帰ったと思う?」

「俊さんは帰ろうと言うとおもうけど、都次第じゃないか?」

「私は、泊まりに1票」

「じゃあ、俺は帰るに1票な。で、何か賭けるか?」

「じゃあ、お互いの言うことをなんでも1日聞く券で」

「また、なんか妙なものを……まあ、いいか」

「ほんとに大丈夫?なんでも、だよ」

「ミユのことだし、ひどいことは要求しないって信じてるよ」


 そんな会話を交わす。恥ずかしい事を命じられるかもしれないが、まあそれ以上はないだろう。


「ひどい事はしないけど、恥ずかしい目に合うかもしれないよ?」


 にっしっしっと笑っているこいつは、何を考えているのやら。そうしているうちに、お互いに下着一枚になったところで、ミユをベッドに押し倒す。


 白に、可愛い飾りがついたタイプの下着で、そういう事をする前提で穿いてきたのだとわかる。


「そういえば」


 押し倒されたまま、穏やかな表情で俺を見上げるこいつ。


「ん?」

「今日は、楽しかったよ。心配してくれたことも」


 こんな場面で、そんな素直な感謝の言葉を告げられると、否が応にも愛しさが込み上がってくる。


(狙ってやってるんじゃないだろうな)


 と思うものの、同時にそれが本心なのもわかるので、こいつはやっぱりずるい。そうして、少し違うミユとの一夜を楽しんだのだった。

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