第41話 俺と幼馴染のある夏の一日
俺たちの通う、
それはともかく、夏休みだ。
せっかくだから、夏らしい所にデートに行ったりすることを考えていたものの。
「いくらなんでも暑すぎだろ……」
クーラーの効いた自室に籠もりながらぼやく。
冷房にしているはずなのに、それでも少し暑く感じる。
「最高気温は38℃らしいよ」
寝そべった俺の腹を枕にして、ぐだーっとしたミユが、気だるそうに返す。
最近のミユ的にはこれが心地良いらしい。
「今日は引き篭もるか」
「そうだねー」
というわけで、お互い寝そべりながら、やりたいことをやる。
のはいいのだが。
「なあ、それ、しんどくないか?」
「別に平気だよ」
何を言ってるのだろうという顔のミユ。
「手首、疲れないのか?」
「うーん。あんまり」
そう答えたミユの膝にはラップトップ型のパソコン。器用にも、膝を立てて
パソコンを垂直にしている。それでいて、タタタタと淀みないキーボードの音が
響いてくる。
「それならいいが、何してるんだ?」
「リバーシのプログラム」
「ああ。ひょっとして、前に俊さんと対戦した時の?」
リバーシ(いわゆるオセロのこと)の思考ルーチンを戦わせる遊びをした事を思い出す。
「うん。ちょっと悔しかったから、色々改良してみたくて」
「お前、意外と負けず嫌いだよな」
俊さんの思考ルーチンに勝てなかったのがどうも悔しかったらしい。
あの夜は俺も付き合わされたが、途中で色々あってお流れになったのだった。
(第23話参照)
「先輩をぎゃふんと言わせてやるんだから」
「俊さんを負かすのは難しそうだが」
「それはわかってるけど。それより、ちょっと見て欲しいんだけど」
「あ、ああ」
ずいっと起き上がったかと思うと、肩を寄せて、画面を見せてくる。
いい香りと、吐息がかかりそうな距離で、ちょっとドキっとする。
こういう時のこいつは無自覚なので、少し
「ここ、もうちょっと改良できないかな?」
「と言われてもな……」
俺が使い慣れていないプログラミング言語を使っている事もあって、
ひと目でわかるものじゃないし、それ以上にこうくっつかれると集中
できない、というか。
「あれれ?」
「ど、どうした」
「ひょっとして、ムラムラしてる?」
俺の変化に気づいたのか、急に悪戯ぽい顔になったかと思うと、
そんな事を言ってきた。そんな悪戯めいた顔すら可愛いんだから、ずるい。
「あんまりからかうなよ」
「あ、ごめんね」
ささっと離れるミユ。あれ?いつもなら、ここでもっと攻めてくるのに。
何か心境の変化でもあったのだろうか。そんな事を考えてしまう。
「別に謝らなくてもいいが」
あんまり頻繁だと勘弁して欲しいと思っていたはずなのに、こう素直に
引き下がられると、なんだか寂しく感じてしまう。
「急に引き下がってどうしたんだ?」
「ちょっと反省したの」
「反省?」
「リュウ君をちょっと困らせてたかなって」
至って真面目な表情と声色で、からかっているようには見えない。
「いや、別に困ってなんか……その、ミユの事は好きだし」
「ありがと。でも、リュウ君の事好きだから、困らせたくないの」
そんないじらしい言葉をいうこいつに、不覚にもドギマギしてしまう。
気がついたら、ミユのことを押し倒していた。ドサッと床に落ちる
ノートパソコン。
「リュウ君?」
急に押し倒されたというのに、かけらも動じていない。
それどころか、潤んだ瞳で見つめられる。
「おまえがあんまり可愛い事いうから抑えきれなくて。嫌だったか?」
「ううん。全然」
そういうミユは本心から嬉しそうな、何かを期待するような表情をしていた。
「いつでも、どうぞ♪」
「じゃ、じゃあ、遠慮しないからな」
そのままゆっくりと頬をなでながら口づけを交わす。
◇◆◇◆
下着だけ身につけて、床に寝っ転がる俺たち。
「すっごく気持ちよかったね」
「あ、ああ。そうだな」
いつもとちょっと違った感じの行為に、満ち足りた気分になる。
でも、一つ疑問に思ったことがあったので、聞いてみることにした。
「なあ、ちょっといいか?」
「ん?何?」
「からかう気満々だったのに、なんで急にしおらしくなったのかなと」
「わからない?」
「正直わからん」
「じゃあヒント。「押してだめなら引いてみろ」」
急に悪戯っぽい表情に戻るミユ。それってまさか。
「ひょっとして、俺を誘うためにわざと……」
「正解ー」
「お、おまえなあ」
こいつの手練手管にハメられていた事がわかって、非常に悔しい。
「だって最近、私の方からばっかりだったから」
「そりゃ、お前が迫りすぎるからだろ」
「うん。だから、リュウ君から迫ってくれないかなーって思ったの」
楽しそうに、そして、嬉しそうにそんな事を言うミユ。その顔に
俺も毒気を抜かれてしまう。
「その。これからは、そういう手練手管使わないでくれよ」
「でも、燃えなかった?」
「そ、そりゃあ」
「じゃあ、たまにはいいよね?」
そう返されてしまっては何もいえない。
実際、いつもと違って新鮮だったのは確かだし。
とはいえ、一方的に嵌められては男が廃る。
今度は俺がこいつをぎゃふんを言わせてやると決意したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます