第39話 幼馴染と親友に似合う水着を選ぶのは難しい

 時は瞬く間に過ぎて、気がつけば週末だ。

 俺たちは、新宿にある水着売り場に来ていた。


「ねえねえ、これどうかな?」


 ミユが、水着を身体にあてて見せてくる。

 ビキニタイプの水着だが、ちょっと露出が高すぎだろ。


「さすがに布が小さすぎじゃないか」

「これくらいの方が萌えない?」

「俺はもう少し控え目な方が……。って、萌えるとか言うな」


 水着は大胆であればいいというものではないだろう。


「むー。じゃあ、リュウ君はどういうの着て欲しい?」


 膨れっ面をしながら聞いてくるミユ。


「と言われてもなあ」


 陳列されている水着をしげしげと眺める。

 おしゃれな装飾がついた水着がそこかしこに並んでいる。

 特に目立つのは、露出高めのものだ。俺は、露出過多なのは苦手なんだよなあ。


「これとかどうだ」


 手にとったのは、胸から下が布地で覆われているワンピースタイプのものだ。

 動きやすそうだし、露出も控えめだし、良さそうだ。


「悪くないんだけど、うーん……」


 水着を当ててうんうん唸るミユ。お気に召さなかったか?


「ちなみに、これが一番グッと来る?」

「だからそこから離れようぜ」

「リュウ君が気に入るの選びたいんだってば」


 ミユはそこにこだわりたいらしい。

 しかし、俺の願望を正直に伝えるのも気が引ける。


「わかった。でも、引くなよ」

「大丈夫だって」

「じゃあ、そこのやつ。なんかフリルが付いてるの」


 指差したのは、ビキニの上下に可愛らしい飾りがついた水着。

 色は白がベースとなっている。それでいて、動きやすそうだ。

 ミユはこういう可愛らしさを前面に出した水着の方が似合っている。


「へー。リュウ君はこういうのが好きなんだ」


 ニヤニヤし出すミユ。


「そうだよ。ミユには、こういう可愛くて元気な感じの方が似合うって」

「ちゃんと考えてくれてるんだね。嬉しい」


 満面の笑みで言われると、さすがに顔がかーっと熱くなってくる。


「真剣に聞けば、ちゃんと答えるさ」

「わかった。じゃ、これにするね〜♪」


 上機嫌になったミユは、俺が選んだ水着をレジに持っていく。

 問題はあと一人の方だが-


「先輩、どんなのがお好きなのでしょうか……」


 水着売り場をぐるぐると周っているみやこ

 下ろした黒髪がゆさゆさと揺れている。

 眉間に皺が寄っているし、目つきも険しくて、少し心配になってくる。


「そこまで真剣に悩まなくても、都なら大丈夫だって」

「恋する乙女としては気になるんですよ!」


 びしっと俺を指差す都。


「恋する乙女とか自称するなよ」


 本気は痛いほど伝わってくるが、その言い回しはどうかと思うぞ。


「しかし。俊さんはイロモノじゃなければ大丈夫だろってのが本音だな」

「私のイロモノと先輩のイロモノが同じとは限らないじゃないですか」

「それもそうだが。ミユは何か意見無いか?」


 水着を選び終えて、ぶらぶらしているミユに声をかける。


「私は、露出高めのビキニで行くのがいいと思うな」

「えー。俺は、ワンピースタイプの方が……」


 あの人は、露出が過ぎると引いてしまいそうな印象もある。


「わかってないなあ、リュウ君は」


 妙に芝居がかった仕草でダメ出しをするミユ。


「何がだ?」

「俊先輩はああ見えて、ムッツリスケベだと思うんだ」

「あの俊さんが?無い無い」


 あの人が、誰かの身体を眺めているところなどお目にかかったことがない。


「でも、前に都ちゃんを視姦してるのを目撃したんだけど」

「視姦とか言うな。どうせ、見間違いだろ」

「見間違いだったとしても、攻めてもいいよね?」

「うぐ。ま、まあそうだな」


 俺も、俊さんの好みなんぞわからないのだ。

 なら、女性としての魅力アピールというのもわからないでもない。 


「でしょ?今回は押しの一手で行こうよ」

「言いたいことはわかった。結局、何が良いんだ」


 聞きたいのはそれだった。


「よくぞ聞いてくれました。これが私的には一押しだよ!」


 ミユが手に取ったのは、下着を彷彿とさせる上下が水色のビキニだった。

 露出はそこまで高くないが、デザインのせいでかなり色っぽい。


「だとさ。都としてはどうだ?」

「これを、俊さんの前で着るんですよね」


 水着を上から下まで真剣に凝視する都。

 さっきから思っていたが、鬼気迫る勢いだ。


「ちょっと色っぽい感じだが、俺も悪くないと思う。どう思う?」


 俺は結構ありと感じたが、着るのは都だ。

 1分ほど、ああでもないこうでもないと悩んだ都は、結局。

 

「うーん。ちょっと試着してみますね」


 と言って、水着を手にとって、試着室に引っ込んでしまった。

 試着室の中からも、うんうんとうめき声が聞こえてくる。


「都の奴、大丈夫かな」


 気合を入れすぎて、さすがに心配になってくる。


「先輩次第だけど、大丈夫」

「根拠は?まさか、女の勘とか言わないよな」

「表情かな」

「表情?」

「先輩が都ちゃんに懐かれてる時ね、なんだか嬉しそうなんだよ」

「そうか?いつもの俊さんって感じだったけど」

「あれは、必死で表情保とうとしてるだけだって」

「おまえがそういうなら、そうかもしれないけどさ」


 ミユの観察眼はなかなか馬鹿に出来ない。


「これに決めました!」


 試着室から出てきた都が宣言する。

 ようやく決まったかと、ほっとする。


 ぐぎゅるー。唐突に、都のお腹の虫が鳴った。


「す、すいません」

「都、ひょっとして、朝飯、食ってないのか?」

「実は、当日の事を色々考えてたら、気がついたら朝になってたんですよ」


 恥ずかしそうに縮こまる都。

 こういう所を見せたら、案外イチコロなのではないだろうか。


「じゃ、お昼行こうか」

「だな」

「ですね」


 というわけで、水着選びを無事終えた俺達は、お昼に向かったのだった。

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