第37話 幼馴染と花火大会に行く件について

 7月25日土曜日の夕方。


 俺たちは、ようやく昨日、前期期末試験が終わったところだった。

 そして、今は大洗おおあらい駅に居る。

 先日約束した花火大会のためだ。

 

「じゃーん、どう?」


 目の前でくるっと回って、浴衣を見せるミユ。

 朝顔の模様があしらわれた、カラフルな浴衣だ。

 少し子どもっぽい感じもまたミユに似合っている。


「似合ってるぞ。ちょっと幼い感じなのもいいな」


「それって子どもっぽいってこと?」


 むっとした声のミユ。しまった。藪蛇だった。


「そうじゃない。活発ってイメージというかさ」


 締まらない言い訳をしてしまう。


 周囲を見ると、既にかなりの人混みで、花火大会も混雑しそうだ。


「ふーん。なんだか、言い訳ぽいんだけど……」 


 疑わし気な視線を送るミユ。話を切り替えよう。


「早く会場行こうぜ。場所取りしないと」


「むー。なんだか、誤魔化された気がする」


 不満げな顔になるミユだが、おとなしく着いてくる。


「でも、こうしてると、恋人同士って感じがするね♪」


 嬉しそうに腕を組んでくる。


「普段から、ミユとは十分恋人らしいことしてないか?」


「そういうのじゃなくて、彼氏と花火大会はロマンなの!」


 力説するミユ。


「そういえば、昔からの夢だって言ってたっけ」


「そうそう。ようやく、長年の夢がかなうんだよー」


 長年の夢とは大げさな、と思ったが口には出さなかった。


◇◆◇◆


 花火会場のビーチに着いた俺たち。

 シートを敷いて、見やすい場所に陣取る。


「そういえば。私、今、気が付いたんだけど」


「何かあったか?」


「花火大会が始まるまですっごく暇だよね!?」


 吠えるミユ。


「それはわかってただろ。こうして、Switchも持ってきたんだし」


 花火大会が始まるまであと2時間程。

 暇つぶしのために、Switchを俺たちは持って来ていた。


「それじゃ、あつ森一緒にやろうよ」


 途端に目を輝かせるミユ。


 集まれ化け物の森(あつ森)は、サバイバル要素ありの無人島スローライフゲームで、腐った熊やゾンビなどの化け物を倒して出て来たアイテムを加工して売りさばく独特のゲーム性が特徴だ。さらに、P VS. P(プレイヤーバーサスプレイヤー)機能も実装してあり、招待したプレイヤーとバトルしたり、あまつさえ一方的になぶることもできる物騒なゲームだ。


「お願いだから、変なことは止めてくれよ……」


「大丈夫だって」


 ミユに俺の島のパスワードを教えて招待する。

 と思ったら、その瞬間に俺のキャラがばたんと倒れていた。


「じゃ、リュウ君のアイテム頂くね♪」


 ミユは楽しそうに、倒した俺から、素材を盗んでいくのだった。


「だから、やめてくれよ……」


 殺りそうな気がしてたら、やっぱり殺った。


「リュウ君が、油断するから悪いんだよー」


 断りにくい感じでお願いしておいてよく言う。


「次、危害加えられそうになったら本気で反撃するからな」


 いくらゲーム内とはいえ、ここまでやられて黙っていられない。


「ふふーん。リュウ君が反撃できたらね」


「うぐぐ」


 ミユはこう見えても、ゲームのセンスは抜群だ。

 果たして、うまくかわせるかどうか……。


 そんな物騒なゲームをプレイすること約2時間。

 ようやく花火大会が始まったのだった。


 最初の方は、『5号』『8号』といった花火が打ちあがるらしいが、どれがどれやら。


「うわー。ほんとに、花みたいだねー」


 どこかうっとりとした表情で空を見上げるミユ。


「とにかく、凄いのは確かだな……」


 ぼーっと空を見上げる俺。


 中盤からは、青、赤、紫、なんていったらいいのかわからない色がたくさんだ。

 この光景をうまく表現できる言葉が見つからないくらい。


 ふと気が付くと、ミユが俺の手をぎゅっと握っていた。


「ちょっと想像してたのとは違ったかも」


 隣のミユが言う。


「どこが違ったんだ?」


 ミユは一体何を想像してたんだろう。


「もっと穏やかでロマンチックな気分になるのかなーって」


 少しだけ残念そうにそんなことを言った。


「確かに、この花火だと無理だな」


 ロマンチックというより、凄さに圧倒される感じだ。


「でも、これはこれでいいかな」


「なら良かった」


 手を繋ぎながら、花火を見守る。

 いよいよ、終盤だ。


「……?」


 何やら歌と音楽が流れてくる。

 その音楽を背景に、ぱぱぱんと彩り豊かな花火が打ちあがる。


「こんなの初めてだぞ」


 花火は何度も見たことがあるが、歌と音楽を背景に

 こんな豪華な花火が打ちあがるのは初めてだ。


「ミュージックスターマインって言うの。流行ってるらしいよ」


 空を見上げたまま、ミユはそう言う。


「知ってたのか?」


「ううん。下調べしたときに、ちょっと。花火に歌ってちょっと不思議だよね」


 俺の方をちょっと向いてそんなことを言ってくる。


「だな」


 その後、ミュージックスターマインらしいものと、

 締めの花火が打ちあがって、花火大会は終了となった。


「もう終わりかあ。早いね」


 名残惜しいのか、まだ空を見ているミユ。


「どうだった?念願の花火大会に行けて」


「不思議な気持ちになったかな」


「どういう意味だ?」


「なんだか、これまでの人生が運命みたいに感じたの」


「振り返ればそういうこともあるだろうけど」


「ひょっとしたら、リュウ君と一緒に来るのは決まってたのかも」


 冗談めかして言うミユ。


「つか、そんな恥ずかしい台詞言われると困るんだが」


 俺はそんな運命論者じゃない。

 もちろん、ミユもそうじゃないだろうけど。


「冗談だよ、冗談」


 にかーっと笑うミユ。


「そ、そうか。ほっとしたよ」


 本気で言われてたら返す言葉に詰まったところだった。


「でも、また来たいなー」


「まあ、また来年な」


「うん。約束だよ」


 こうして、花火大会の夜は終わったのだった。


 しかし、最近では珍しく真面目というか神妙だったな。もっとハイテンションになると思ってたんだが。

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