第23話 幼馴染と部屋でデートする件について

 編集部内での、リバーシ思考ルーチン作成大会があった日の夜。


 カタ、カタ、カタ。ゆっくりとしたキーボードのタイプ音が鳴る。いつもなら、もっと早くタイピングできるのだが、どうも今は落ち着かない。というのもー


「リュウ君、そこ、バグってる」

「あ、ああ。すまん」


 椅子に座った俺に後ろから抱きつきながら、ミユがアドバイスする。昼間、俊さんの作った思考ルーチンに負けたので、二人で一緒に彼のプログラムを負かせるくらいのものを作ろう、ということになったのはいいものの、


「せっかくだから、二人で一緒にやろ?」


 というミユの提案を断りきれずに、こうやって一緒にプログラミングをしている。が、自覚しているのかしていないのか、こんな体勢で何か言われても、邪な思考が混ざってしまい、プログラミングに思考が集中できない。


 こういう、二人で一つのプログラムを作ることを「ペア・プログラミング」というらしくて、一人では気づけない間違いに気づける効果があるしいが、今の俺には逆効果だ。


def search(board, stone_type, depth, cut_min, cut_max):

 candidates = []

 count = 0

 result = 0

 ...



Pythonぱいそんのプログラムを一緒に編集しているのだけど、ミユの手が首に回されているのも、顔を肩に乗せられているのも落ち着かない。いや、普通にいちゃいちゃするときならまだしも、こういう集中力が必要な作業だととても無理だ。


「なあ、ミユ。それ、わざとやってるのか?」

「わざと?」

「いや、こうやってくっついてるの」

「別に、そんなことないけど?」


 今回はどうやら自覚がないらしい。これは正直に言ったほうがいいか。


「あのさ。イチャイチャするならいいけど、プログラミングしながらだと落ち着かない」


 続けて、


「だから、どっちかにして欲しいんだが」

「……」


 言ってから、しまったなと思い直す。


「そっか、そっか。リュウ君、こうされると落ち着かないんだ?」


 イタズラっぽい声色でそんなことを言う。ああ、くそ。ミユのやつ、付き合い初めてからどんどん手強くなってきてる。


「ああもう、そうだよ!ミユは可愛いし、そうされると意識しちゃうんだ」


 ヤケクソ気味にそう言う。


「うん。じゃあ、イチャイチャしよ♪」


 というわけで、プログラミング作業は中断と相成り、ベッドの上で二人寝っ転がる。お互い横向けに寝ているから、ミユの顔がよく見える。


「ん…ちゅ…ちゅ」


 ミユがぎゅっと俺を抱きしめてきて、お互い唇を合わせる。


「ぷはぁ」


 唇を離した後のミユは色っぽい。


「おまえ、どんどん積極的になって来てるよな」

「だって、今はどれだけ甘えてもいいんだもん」


 こういう時のミユは意識しているのかしていないのか、いつもより甘ったるい声をしている。ずっと待たせすぎた反動だろうか、などと思う。


「まあ、そうやって甘えてくれるのは嬉しいが」

「リュウ君がそうやって照れてるのも可愛いな」


 男の俺としては、可愛いと言われるのは複雑だが、こいつにしてみれば褒め言葉なんだろう。こないだのデートでは、少しは反撃できたかと思ったが、なかなかどうして、主導権を取れるのはまだまだ先になりそうだ。


 キスを交わしながら、手を下腹部に伸ばそうとするが、押しとどめられる。


「今日は、ちょっとしてみたいことがあるんだけど」

「してみたいこと?」

「お口でしてあげるっていうの」


 ミユにそうしてもらえたら、と思ったことはあった。ただ、そういうのは女の子だと抵抗がある人も多いと聞くし、躊躇していたのだった。


「その、いいのか?」

「リュウ君、ちゃんと毎日お風呂入って、洗ってるでしょ?」

「そりゃ、そうだが」

「なら、大丈夫だよ」

「じゃあ、お願い、します」


 思わずかしこまってしまう。


◇◆◇◆


「なんか、ちょっとしょっぱい」

「いや、飲むなよ」

「そういう漫画とかゲームでやってたもん」

「いや、そういうのはフィクションだし」

「別に出たばかりだったら、不潔じゃないし、大丈夫♪」

「そういう問題か?てか、美味しくないだろ」

「しょっぱいけど、別に普通に飲めるよ?」

「それならいいんだが」


 そんな会話を交わしたのだった。


 後日、ネットで調べてみたのだが、達するときのあの液体は、人や体調によって、無味だったりしょっぱかったり苦かったりするらしい。まずいという描写もフィクションで読んだことがあるけど、必ずしもそうではないらしい。ミユとのエッチを通して、そんなどうでもいい知識を習得してしまったのだった。

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