甘えん坊幼馴染と過ごすイチャイチャ大学生活

第11話 幼馴染と東京にお出かけする件について（３）

　スカイツリーから降りる途中のことだった。

「うげ」

　嫌なものを見てしまった。

　何がというと、一言で言えばガラス張りの床だ。

　スカイツリーの売りらしく、記念撮影までできるようだった。

　昔から俺は、この、ガラス張りの床というやつが苦手だった。

「俺は待ってるから。行って来いよ」

「わかった。ちょっと待っててね」

　ミユも気にするようなことはなく、さっと見てさっと帰ってきた。

「どうだった？」

「相変わらずいい眺めだったよ。吸い込まれそう」

「それが嫌なんだけどな」

　脇にお土産物屋が見えたので、寄っていくことにした。

「ねえねえ、これみて。可愛いくない？」

　ミユが指差したのは、スカイツリーを象ったクリスタルの置物。

　可愛い……か？

「味はあるな。買うか？」

「どうしようかな」

　3000円と少しお高いから、迷っているのだろうか。

「じゃ、これはプレゼントで」

　素早く会計を済ませて、包みを渡す。

　一瞬きょとんとした顔になった彼女は、

「ありがとう。ずっと大事にするね」

　そう笑顔で言ったのだった。

　時間は16時過ぎ。夕食にはまだ早い。

「後はどうしようかな？」

「水族館はどうだ。ペンギンとかもいるぞ」

　ソラマチにはすみだ水族館という有名な水族館がある。

「行きたい、行きたい！」

　無邪気に言うミユを連れて、水族館に向かう。

　水族館は、スカイツリーから数分のところにある。

　館内に入ると、家族連れやカップルでごった返していた。

「はぐれないようにな」

　手を繋ぎながら進む。

「この細長いの。なんだろ？」

　ミユが水槽を指差す。

「ああ、チンアナゴか」

「チンアナゴっていうんだ」

「この水族館の名物の一つなんだけどな」

　チンアナゴは凄く細長い、一見すると魚に見えない魚だ。

　巣から身体を出したり引っ込めたりしている。

「ひょこひょこしてるのが、可愛いね」

「ああ。可愛いな」

　仕草にも愛嬌があって、人気なのもわかる。

　ミユのキラキラした顔の方が可愛いけど。

「あの魚、こっち見てるよ」

「ん？」

　1匹のチンアナゴが俺たちの方向をじっと眺めている。

「私たちのこと見てるのかな」

「かもしれないな」

　魚の視力はあまり良くないと聞いたことがあるけど。

　下に降りていくと、ペンギンたちがたわむれている水槽があった。

　餌やりをしているところなのか、飼育員が放り投げる餌を食べている。

「わあ。可愛いね！」

　ペンギンの可愛さには抗えないようで、ミユの頬が緩んでいた。

　可愛い。いや、ミユが。

　「ペンギンのプライベート大公開！」と書かれた、巨大な相関図があった。

　→や♡マークとともに、「元夫婦」「振られる」などと書かれていた。

　なんだこれ。

「ペンギンにも人生があるんだね」

　しみじみとつぶやくミユ。こいつは色々あったからなあ。

「ペンギンも人間も同じってことだ」

　水族館を出ると、時間は18時過ぎ。そろそろ夕食か。

　ぐぎゅるーと腹の音がしたが、ミユが少し頬を赤らめている。

「そろそろ飯にするか」

「あそこなんてどうかな？」

　ミユが指差したのは、海鮮系の居酒屋だった。

「俺たち未成年だぞ」

「お酒飲まなければ大丈夫だって」

「ま、聞いてみるか」

　お店に入って、店員さんに聞いてみる。

　お酒さえ飲まなければ大丈夫ということだ。

　 店内はそこそこ空いていたのですぐに席に案内された。

　お酒は飲めないので、ソフトドリンクを頼んで乾杯する。

「「かんぱーい」」

　コップを鳴らす。暑さの本番は先だが、冷えたジュースが心地よかった。

「ほんとに楽しかった。スカイツリーも。ペンギンも。それに、お土産も」

「喜んでくれたのなら、良かったよ」

　色々下調べしたという甲斐もあるというものだ。

　食べていると、にこにこしながら、ミユが俺を眺めている。

「どうかしたか」

「ううん。なにも」

「そうか」

　何が嬉しいのかはわからないが、まあいいか。

　店を出ると、時間は20時。つくなみ駅に帰るとなると、そろそろだな。

「そろそろ、帰るか」

「うん……」

　少し寂しそうな表情が気にかかった。

　帰りの電車では、ミユは疲れたのか、俺にもたれて眠っていた。

「ううーん」

　なんだか、言葉にならない寝言を言う彼女。

　横顔を見ると、こめかみに古い傷跡があるのが見えた。

　小さい頃、あの辺に怪我したことがあったな。

　それだけ長い間、こいつと一緒に過ごして来たんだ。

　単なる幼馴染とも言えない。でも、恋人とも言えない。

　今の俺たちは何なんだろうかと自問自答する。

　でも、一つ変わらないことがある。

　こいつを幸せにしてやりたい、という気持ちだけは。