第4話 幼馴染がサークルに入ることになった件について
Byte編集部は、13階建ての計算機学部棟2階にあった。編集部前には、丸テーブルやソファが並んだラウンジがある。どうも、自由に学生が利用できるらしい。
「大丈夫かな……」
ミユは落ち着かない様子だ。高校の後半、まともに俺以外の男子と交流してこなかったのだから、無理もない。
「俺がついてるから、な?」
不安にさせないようにと、ぎゅっと、ミユの手を握りしめる。
「うん。ありがと」
少し緊張が和らいだのか、ミユの顔に笑顔が戻ってくる。
「さあ、どうぞ」
部屋の真ん中には、机が向い合せに並べられていて、島のようになっている。そして、席に座っている人はカタカタとひたすらキーボードを打っている。何人かは俺たちが入ってきたことに気が付いたようで、振り向いた。しかし。
「ああ。例の新入生か。まあ、好きに見てってよ」
入口から一番近くの席に居る、眼鏡の女性部員さんの反応は淡泊なものだった。
「ああ。例のお絵かき新入生か。あれ、どうやったのか話聞きたいな」
その隣にいる、少し小太りの男性部員さんがそう言う。あれ?
「そこの君。名前わからないからごめん。プログラミング入門の演習、回答が面白いって評判だよ。後で話聞かせてよ」
さらに隣にいる、痩せ気味で長身の男性部員さんがそう言う。どうやら俺の事らしい。プログラミング入門で俺、何か面白いことしたっけか。他の人はといえば、ちらりと俺たちの事を見たと思えば、自分の作業に没頭している。
サークル見学といえば、もっと違うものを想像していただけに、ちょっと驚きだ。
「……」
「……」
呆然と、その様子を眺める俺たち。
「すまんな。ウチの部員たちは人に興味ない奴ばっかりだから。適当に見て回って」
俺たちの様子をどう解釈したのか、そんなことを言う川口さん。
「はい。ありがとうございます」
とおっかなびっくり、礼儀正しくお辞儀するミユ。
「作業とか見てもいいですか?」
ミユはそう言うが、人に作業見られるのが嫌な人もいるんじゃないだろうか。
「今日は見学のこと伝えてあるから。興味があったら、好きに見るといい」
しかし、川口さんからは、そんなあっさりとした答え。毒気を抜かれたミユは、興味深々といった様子だ。
「この3Dゲームって、作ったんですか?」
「途中だけどね。うちの大学のデータを元にしてるんだ」
少しふっくらとした体型の女性部員さんが答える。
「凄いです!ポリゴンはどうやって作ってるんですか?」
「ああ、それはね……」
矢継ぎ早に質問を投げかける。他の机も同様で、映っているものに興味を持っては、がんがん質問をなげかけていた。
◇◇◇◇
一通り見て回った後のこと。
「どうだ?ウチの部は」
「凄く楽しそうです。よろしくお願いします!」
「俺も、よろしくお願いします」
というわけで、俺たちのByteへの入部があっさり決まったのだった。
◇◇◇◇
帰宅後。いつものように、俺の膝を枕にしながら、ミユが寝っ転がる。
「Byte編集部、やってけそうか?」
珍しく、普通にコミュニケーションが取れているようだったが、心配だ。
「きっと、大丈夫。何故かわからないけど、普通に話せたし」
なんとなく髪を撫でていると、ミユがにへらとした表情になる。
「誰も、ミユの容姿に興味なさそうだったよな」
思い返すと、ミユが何をしたとかの話は熱心に聞いてくるものの、それ以外の話は興味なしといった様子だった。今までで初めての反応だ。
「あ。そうか」
ポンと手を打つ音がした。
「何かわかったか?」
「Byteの人たち、人に興味がないんだよ。だから、私も普通に話せたんだと思う」
「ミユの場合、きっかけがきっかけだからな」
ミユのトラウマになった出来事を思い出す。
「これがきっかけで、トラウマが克服できるならいいか」
そうなるといい、という希望的観測でもあるけど。
「だといいね。だけどリュウ君、女性部員さんに気を持たせたらダメだよ」
唐突な話題転換。何故、そんな話題になるんだろうか。
「そんなことないって。第一、部員の人たち、人に興味が無いってミユも言ってたろ」
「それはそうだけど……」
釈然としない表情のミユ。一体何が原因なのだろうか。頭をひねってみるも答えはでない。
こうして、俺達は、Byte編集部に入部したのだった。振り返れば、これが俺たち二人の関係を大きく変えるきっかけになったのだけど、その時の俺たちはそれを知るよしもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます