セルフライナーノーツ② タイトル

 私はかねてより自主企画を運営するにあたり、「タイトルに深い意味はない」と言っています。

 やはりそう伝えて置かないと、「タイトルに縛られた作品」が多く登場してしまうだろうと考えたからです。

 キャラクターの名前を同じ理由で、「季節」「場所」を含んだ平凡な名前をチョイスしています。


 とはいえ、もちろんなんの考えもなしに選んでいる訳ではなく、私なりのテーマに基づいたネーミングを行っていますし、そこに至るまでにいくらかの考えがあったのは事実なんですよね。


 本企画のネーミングにあたってシリーズを通して意識していることの一つに、「なんだか邦画っぽい」を基準にしています。

 気がついたら映画館でやっていてもおかしくないような、そんな恋愛だったり青春小説っぽい(ときにR-18な)作品を連想させる名前にしています。文庫本だったなら、きっと写真やキャラクターは映らずに、抽象的な風景画にタイトルだけ書いてあるような、そんな作品名にしています。

 

 本企画が始まると当然同タイトルの作品がカクヨム内に増えることになりますから、そういった意味でも品位を保つことが本活動には求められるだろうということを意識した結果ですね。ライトノベル中心でも、純文学中心でも、恋愛中心でも、どのような作家の方々にも参加しやすく、作品リストに載っていても悪い気がしない。そういうことって、大事だと思います。


 その中で今回の「葉桜の君に」は、「葉桜」という状態をキーワードに考えました。


 葉桜という状態を、どのように評価するか。この多様性を、小説の多様性に結びつたかったのです。


 桜は先に花が咲き、その後で新芽がでてきて、生い茂ったあと、ようやく実をつけます。秋には葉が散り、冬は枝のみで過ごす。そして春にはまた花からつける。そういうサイクルを送っています。

 しかし桜の代名詞はやはりその花です。花が主役と言っても良い桜にとって、そして結実しても子孫を残すことのできない桜にとって、この葉桜という状態をどう解釈するのかは、人によって分かれると思うのです。

 美しい花が散っていった。桜の見頃は終わった。そういう「終わり」を連想する人もいれば、「結実までの過程」とする成長論、さらには「循環するサイクルの一部分でしかない」と言う人もいるでしょう。


 そんな、観測者によって解釈の分かれる「葉桜状態の対象者」に、「何を伝えるか」。


 これは、相手になにかアドバイスをする時に、意識しなければならない視点だと、私は考えています。


 相手の状態を知る。相手の状態を観測する。相手は自分がどのような状態であると認識しているか。それを観測した時、自分にはどう見えて、そしてあらゆる視点においての「どうあるべきか」を導き出し、その中の一つを、相手に伝えること。


 相手が会社の部下であるならば。

 相手が恋愛の相談者であるならば。


 それによって、人が伝える内容は大きくことなっています。そして多くの場合、それは経験則によって決定されます。伝える側はときに強い意識をすることなく、発してしまっていることがあります。


 しかし人の言葉というのは、思いの外、他人に影響を与えます。言葉の力は計り知れなく、使い方を謝れば、相手の人生を破壊してしまうことすら可能です。

 何気なく放った一言が相手の魂に刻まれ、相手の生き方を変えてしまうことだってあります。


 作家の皆様も、同様のご経験がおありのことでしょう。何かに影響をされ、それを信念としている。そんな方々は大勢いるはずです。

 ですがそういう事象に限って、言葉を発した側というのはそれに無頓着だったり覚えていなかったりするのもまたよくある話だと思っています。


 もしあの時、今の私ならなんて言っただろうか。

 もしあの時、こう言われていたら、違っていたかもしれないのに。


 そんな想いを小説に乗せてもらおう。

 それが「葉桜の君に」の狙いでもあったのでした。


 自己評価ですが、これは成功したと思っています。参加された作品の多くは繊細なテーマを持ち、だからこそ表現を厳選し、丁寧な描写によって大切に扱われていた印象を受けます。文字数もそれを実現するのに必要な文が確保されており、シリーズで最高の総文字数と平均文字数に達していました。シリーズにおいて、最も文学的なシーズンだったのではないでしょうか。


 しかしこれは繊細であるがゆえ、作家にはそれなりの負担を強いる内容だったのはいなめません。私なんかはかなり思い悩み、反動でシモネタギャグ小説を書いてしまうほどでした←


 その反省もあり、第四シーズン「雪を溶かす熱」では、レギュレーションを相当に減らしました。全体のサイズが短くも長くもできることと、登場人物の年齢や関係、職業の選択肢に極力幅を持たせました。


 また登場人物の関係性は「幼馴染」ということで、過去シーズンと比べると最も「距離が近い関係」であることも特徴です。「葉桜の君に」では教師と生徒という近くも遠いような微妙さがありましたが(それゆえテーマは繊細かつ複雑化した)、お笹馴染みなら関係性に相当な幅があります。


 またどうでもいいことではありますが、シーズンでもっともエッチな響きがするとも思っています←


 話が第四シーズンへ逸れてしまいました。


 そんな、シリーズ最高の文学シーズンだった「葉桜の君に」。

 参加された方々になにかを残すことができたでしょうか。

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