始まりは唐突に

視界はなく、暗闇の中を歩かされている。

わかる感覚は両腕を拘束されて両脇を何者かに支えられている。かすかに聞こえる話し声から、男の声だということがわかる。

なにやら男二人にどこかに連行されているようだ。


「すいませーん、どこに向かっているんですかー?」


「うるさい、だまれ!犯罪者!」


ぐっふっ!


俺を連行している男から、みぞおちに打撃をくらい情けない声がでる。


はぁー、俺は何もしてない。職業が盗賊ってだけで悪さはしてない。

元の世界でも善良に生きてきたつもりだ。


なんでこんなことになったんだろう。というか、理不尽すぎないか?

そんなことを思いながら、一日前を思いだしてみた。




____________________







俺の名前は、水本 瑞希みずもと みずき

大学に通う20歳。大学の講義を終えアルバイトをこなしたあとに、一人暮らしのアパートに戻り眠りについた。

目を覚ますと木造アパートの天井ではなく、明るい青空が広がっていた。


ここはどこだ?周りには草原が広がっており、遠くには街のようなものが見える。


着ている服は、寝巻きに使っていたスウェットのまま。身なりは変わっていないようだった。スウェットのポケットにはバイト先でもらった飴玉が3つ、スマホはなし。腕には腕時計がついたままだった。時刻は5時55分をさしていたが、午前なのか午後なのかは不明。太陽が真上にあることから、時計の時刻はあてにならない。


情報が少なすぎるし、ここはどこなんだ?住んでる都会の風景とは違うし日本なのか?わからない……。


とりあえず考えてもわからないので、とりあえず遠くに見えてる街まで歩いてみることにした。




見知らぬ草原を歩いていると突然、ガサガサ!

と、生い茂ってる草から物音がした……。


えっ!なになに!


物音にビビってると人の顔が草の中から飛び出してきた。



「ひえっ!気持ち悪!!」


飛び出してきたのは人面のネズミのような動物だった。


グルグルルー……。

低い唸り声をあげながらキモい人面ネズミがこちらに近づいてくる。


「キモキモキモキモキモキモ!こっちくんなー!」


寝起きでキモい生物に出会うなんて、今までの人生で初めて。いやそれよりも、キモすぎない?そして近づいてくる。ヤバイ、ヤバイ、ヤバい!!あんなのに襲われたら一生のトラウマになるわー!てかトラウマ進行形!!


半分パニック状態であたふたしてると、人面ネズミは俺のお腹めがけて突進してきた!


うぅえー!


お腹を圧迫され、胃液が口から嘔気とともに身体の外にこぼれ落ちた。

立位が保てず四つん這いになり、息を整える。


「はぁーはぁー。これは確実に現実だ。地球にあんな化け物がいるのか……。はぁーはぁー。今はどうでもいぃ、なんとか逃げないと」


不意に顔をあげると、ぐるるー!と人面ネズミは依然として攻撃表示のままだ。


そこで視界に何か文字が書いてあることに気がつく。


なんだ?その文字は人面ネズミの下に書かれ、細長いバーみたいな形をしていた。バーの先端にHPと記載されている。


HP?ゲームかよ……。

とにかく逃げの一手!


俺は全速力で人面ネズミと反対方向に向かって走り出した。後ろを振り向くと俺より遥かに速いスピードで人面ネズミが追いかけてくる。

後ろから再び突進を受け、自分の走っている分の力も、あいまって豪快に転び転がった。


「いってー!色んな所がいてー!」


身体をみると、腕やら足から擦過傷になっている。自分の身体にも人面ネズミと同じHPと書かれたバーが見えた。


「えっ、俺にもHPあるの!?」


よくみるとHPが3分の1ほど減っている。


これ、全部なくなるとどうなるんだ?

…………死…………?


こんなんで死にたくない!

あのキモすぎネズミ、足がめっちゃ速いし逃げられないし……、どうにか倒すしかない。

奴を倒すにも武器もない。何か使えるものはないか……。


ふと、地面をみると石が転がっている。

なんか、本でみたことあるぞ。古代ヨーロッパとか中国、日本の戦国時代でも石使ってたよな。


手のひらより少し大きい石を手に取り、人面ネズミに向かって全力で投げた。

小学校時代に少し野球をしていたので、素人よりはましに投げれただろう。


偶然にも人面ネズミの顔にクリーンヒットすることができた。

キモいネズミのHPはぐんぐんと減っていき、ゼロになった。人面ネズミはその場で倒れ息をひきとった。


安心感もあり、その場で崩れるように座り荒い息を整えた。


人生で初めて命を自らの手で殺めてしまったかも知れない……。ごめんよ、キモネズミ……。
















「あっ、昨日も家でゴキブリ殺してた……。しかも寝起きに……。」

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