泣きっ面は上っ面

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1.メイビーネイビー

看護師をしていた。

いや、今も看護師であることに変わりはないんだけど、病棟で仕事をしていた時や訪問看護ステーションに籍を置いていた頃と比べると多分もう医療的なケアと呼ばれること、それを何も出来ない気がする。

採血やバルーン交換やら膀胱洗浄とか(「膀胱洗浄」って打ったら「暴行戦場」と出てあまりの治安の悪さに笑ってしまった)


なんだかなあ。


今の仕事は楽しいし、それなりにやりがいもある。

ただ、看護師と聞いて連想されるようなことは何もできないのではないだろうか、と思ってしまうのだ。


と、言ったら「いいじゃん別に」と言われてしまった。

いいのかなあ。


病棟で勤務していた時、難病のYさんと言う患者さんがいた。

わたしはその人のことが大好きで、暇があれば(まあそんなに暇なんてなかったんだけどね)ベッドサイドに遊びに行っていた。

Yさんは喋れないけれど頭はクリアだったから文字盤を使って色々な話をしてくれた。

なんかあの時のことが遠い遠い昔のことのように感じるが、無理もない。七年ほど前の話だ。

Yさんは3月9日に亡くなった。

「サンキューの日に亡くなるなんてYさんらしいね」

と言ってみんなで泣いた。


その時丁度、患者さんがぽこぽこと亡くなっていたころだったから新人だったわたしはハッとさせられた。

そうだ、これは普通じゃないんだ。患者さんが亡くなるのに、慣れてきてしまっていた自分が居た。

危ない危ない、Yさんのおかげで、わたしは亡くなった方への敬意を思い出したのだった。


春になると、今でもその時のことを思い出す。

ひとが死ぬのは、自然だけど、それまでの人生があるのだと言うことも。

だから亡くなった方に対しては、いつも「お疲れ様でした」と思うようにしている。



えーっと、何の話だったっけ。

あ、そうだ、今はなんにもできてないのでは、という話だった。


今は、病棟勤務や訪問看護とは違い、患者さんにゆっくり寄り添うことができていい仕事が出来ているのではないかなあと思う。まあ、休業中なんだけどね。でもそろそろ、患者さんが恋しい。

わたしは人が好きで、人に寄り添うことができる仕事を選んでよかったな、と思う今日この頃である。でも忙しすぎてソウルジェムが濁った時はなんでこんな仕事してるんだろう、って思う時もあるが。

幸い今は今の仕事が好きだと思えているので、まあいっか、という話だった。


初っ端のエッセイ(?)がこんなんだが、お付き合いいただけると嬉しい。


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