【エロ】クレヨン、消防署、リンボーダンス

 テスト中、みんな一度くらいは考えたことがあると思う。

 都合よく超能力が発動し、100点を取るという他愛もない妄想。


 脳がインターネットと繋がったり、

 美人家庭教師の霊を召喚して答えを教えてもらったり、

 教室をジャックした悪の組織をなぎ倒し、みんなが驚いてる隙に優等生の答案と交換したり。


 俺の場合は時間を停止し、その間にカンニングだ。


 ――だって、俺には本当に時間停止能力があるからだ。


 気づいたのは幼稚園のとき。


 女の子が泣いていた。男子にクレヨンを取られたからだ。


 小さな声ですすり泣く女の子を見ていた俺は、急に胸の締め付けを感じ、尋常でない息苦しさに襲われた。


 男子がクレヨンを窓から捨てたとき、自分の中で何かが弾けた。

 気がつくと俺はクレヨンを手に持っていて、女の子に渡していた。

 男子は身体をおさえてうずくまっていた。


 数ヶ月後、俺は自分のしたことを理解した。

 クレヨンをとりに行き、男子を殴ったこと、その間誰も動かなかったこと。


 それが時間停止能力だと気づいたのは、そういう漫画を読んでからだった。


 俺はテストが解けないとき、思い出してしまう。

 あの能力のこと、クレヨンを渡してもなぜか泣き止まなかった女の子のこと。


 あのとき以降、能力は発動していない。

 一体なぜ女の子は泣き続けたのだろう。そんな疑問のままテストは終わった。





 昼休み。

 ぼうっとしたままの俺の意識は、けたたましいベル音に引き戻された。


 ジリリリリッ! 暴力的な音が断続的に響く。

 火災警報だ。


 俺は急な騒音で驚き、胸の締め付けと息苦しさを感じた。

 そして、気がつくと、写真のように全てが止まっていた。


 ――アレが来たのか?


 幼稚園のとき以降、一度も使えなかった時間停止能力。

 それが今、どうやら実現したらしい。


 とりあえず火事をなんとかしよう。普通なら逃げるが、時間が止まった今なら消せるかもしれない。

 急いで俺は火元を探す。消防署が必要になれば大惨事だ。



 だが、校庭へ出た俺が見つけたのは、火元ではなく女子生徒だった。

 ハードルをリンボーダンスでくぐる途中で、身体をU字に反らせた状態で止まっていた。


 テストが終わって遊んでいたのだろう。楽しそうな表情をしている。


 俺は、なぜかその光景に惹かれた。

 柔らかく美しい曲線に、突き出された下半身。スカートの奥に潜む陰影。

 その怪しげな輝きは、俺に邪な考えを起こした。


 ……まだ余裕はある。

 どうせ時間は止まっているんだ。じっくり見た後に火を消しても遅くはない。

 俺は女の子の元へと向かった。


 間近で見る女の子の肉付きは、かなりのものだった。

 力の入った状態のお尻に、柔らかくてハリのありそうな曲線。


 ……触ったらどうなるんだろう。

 嗜虐心が芽生えた俺はしゃがみこみ、股の間に頭を滑らせる。スカートの中の秘密の場所が目の前に来た。

 夢中で突き出した土手に指を這わせる。柔らかな下着に人差し指が沈み込んでいく。


 俺はこの感触に覚えがあった。いつか、これと同じものを触った気がする。

 時速60kmで手のひらを風に当てるとおっぱいと同じ感触がするという。それの股間バージョンだ。

 一体どこで……。


 答えを求めて下着をずらすと、直に秘所を蹂躙する。さっきよりも触った感覚が鮮明になる。


 ――そうか、この感覚!!

 幼稚園のとき……能力を使ったときに味わった感触だ。

 

 女の子の泣き顔を思い出す。

 なんてこった。あの子が泣いていたのは、俺のせいだったのか。

 俺があの子の体を、時間停止中に弄っていたんだ。


 意識を現実に戻す。

 この子も時間が動き出したら、泣いてしまうのだろうか。


 時間が止まっているせいで女の子の反応はまるでない。薄桃色の粘膜から溢れる愛液だけでしか、女の子の想いを知るすべはなかった。

 それはあのときの涙のように、ゆっくり、けれど確実に流れていく。


 俺は涙を舌ですくい、淫肉へと捩じ込ませる。ねっとりとした感触が舌先に染み込み、唇をさらなる粘液で満たしていく。


 そろそろ頃合いだろうか。


 だが、淫裂に挿入した俺は、1秒も保たずに勢いよく射精してしまった。

 重苦しい感覚も一緒に放たれ、憑き物が抜けたような開放感があった。


 肉棒を抜いた俺は、徐々に冷静さをとりもどす。

 そして唐突に、ある予感に襲われる。


 ――そろそろ時間が動き出すのではないか?


 俺の胸の締め付けがトリガーだとしたら、それが解き放たれてしまうと動き出すのかもしれない。


 俺は急いで女の子から離れると同時に、時間が動き出した。

 女の子はリンボーダンスの途中で倒れ、何が起こったのか理解したのか、目に涙を浮かべた。

 その表情は、俺に罪悪感を植え付けるには十分だった。


 ――あのときと同じだ。俺は、また能力のせいで女の子を泣かせてしまった。

 どうしてこんな能力を持って生まれたんだろう。

 人を悲しませる力なんて……なくていいのに。





 次の日もテストだ。

 俺は行き詰まり、また妄想する。時間停止の妄想だ。


 ただ、今回は今までと違う。

 時間を停止し、女子生徒を気持ちよくする妄想だ。


 女の子を泣かせてしまったのは、能力のせいじゃない。知識不足だ。

 テストだって知識がないと解けない、それと同じはずだ。


 本で勉強したし、今度こそ泣かせない。絶対満足させてやる。

 そう誓った。


 いつもの妄想に出てくる女の子は、相変わらず泣いてるけど……。


 あの感覚を待ってる。

 胸を締め付けられる、あの感覚を。

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