第29話 一回戦の勝負方法の行方
<前回あらすじ>
シスコンといったらわたし、っていう位シスコン末期症状の<もみじ>だよー!
《深紅の百合》のグラシア[西坊城 呉葉(にしぼうじょう くれは)]――あだ名はクレちゃん――が海に転落してデスれば良かったのに、しつこく島に上陸してきたのー!
そして我らが島長[燕佐]さんに、ずぶ濡れプルプル状態で「勝ったらこの島を支配しますわよ、オホホー」とか、おととい来やがれなことを言ってきたのー!
「お帰りはあちら」と追い払うのかと思ったら「いいでしょう」。
なんでー!? って思ったけど、クレちゃんの百合相方、眼鏡ショートヘアのアヤネさんにわたしと思うところがあったのかな?
♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀+♀
「それでは勝負の方法を言いましょう」
「お待ちなさい! 何勝手に決めてますの!」
「そちらから一方的に勝負を挑んできたのですよ、こちらが決めるのは当然です」
涼し気に言ってのける燕佐さんと、それにぐぬぬするクレちゃん。
ふたりともリーダーなのにこの違いは何?
「ぐぬぬぬ!…………ふぅ、いいですわ、お続けなってよろしいですわよ」
急に尊大な物腰になったー!
「ではお聞きください、この島には百合神社があります。そこに祀られてます百合の神に、あなた
「で、その百合神社はどこにありますの?」
燕奈さんが自分の背後に指先を向けた。
その先には島で一番高い百合ノ山があった。
「あの山頂です。そこで五番勝負を行います。先に三勝した方が勝利」
山頂の神社で五番勝負とかって、古臭い少年漫画みたいー!
「オホホホ……ということは、五人を連れて来なさい、そういうことですわね?」
「おっしゃるとおりです」
「それで、肝心の勝負方法はどうなのです?」
「そちらの得意な勝負方法をそれぞれ一枚の紙に書いてください、数は十枚。それを箱に入れて持ってきてください。私共もそれを用意します。当日その箱を交換しましょう」
「オホホ、その箱をどうするのです?」
「お互い一枚づつ引きます。そして全世界の百合グループにそれらを見せ、どちらの勝負方法がいいかネット投票で決めて貰うのです」
それにクレちゃんがほくそ笑んだ。
「随分と手の込んだやり方ですわね」
「公明正大に勝負を進めたいだけですよ。それともこのような方法は都合が悪いですか?」
「オホホ、都合が悪いも何も、もっと手っ取り早い方法が――」
「おっとすません、先程からこの会話を世界中の百合グループに流しております。あしからず」
燕佐さんが腰のホルダーに収められたスマホに目をやった。
「オッ! オホホホホ……わたくしは《深紅の百合》グラシア。そのわたくしにそんな下衆の勘繰りをするなんて、驚いて声もでましぇんわ」
声出てるし、噛んでるし、目も泳いでるし。
「それでは明日の十三時、百合神社に来てください。よろしいですか」
「オホホホ、《深紅の百合》最強の五人で挑んであげますわ。今から島長の座をわたくしに譲るスピーチをお考えあそばせ。オホホホホホホ――ホガッ! ゲホッ、ゲホホゥ!」
こうしてクレちゃんはクルーザーで帰り、次の日がやってきた。
「オ、オホホホ……これは、いい舞台を用意してくれましたわね……」
《深紅の百合》最強の面子を引き連れ、百合神社に着いたクレちゃんの顔が引き攣っている。
当然と言えば当然、境内には野外ライブにあるような大型スクリーンがあり、そこに世界中の百合グループの面々がぎっしり映し出されていたからだ。
燕佐さんがクレちゃんの前に来るとこう言った。
「全世界の百合グループにライブ配信してます。更には固定テレビカメラの他に撮影用ドローンも数機飛ばしています、凄いでしょう」
その声が島中のスピーカーから大音量で流れる。
それもそのはず、ドローンにはカメラの他に集音マイクも取り付けられているのだ。
「こ、これは好都合ですわ。わたくし率いる《深紅の百合》、最強の五人を紹介しますわよ!」
クレちゃんが近くに浮かんでいるドローンに叫んだ。
百合の面々が並ぶ巨大スクリーンの中央にクレちゃんの顔が大きく現れた。
「まずはわたくし、西坊城 呉葉(にしぼうじょう くれは)! 才色兼備、究極の百合ですわ。わたくしに堕とせない百合は存在しな――」
画面が切り替わり、燕佐さんの顔が映し出された。
「ではこれから一回戦を始めたいと思います」
あ、強引にカメラ切り替えられたから、クレちゃん真っ赤な顔でぐぬぬしてる。
そんなことより緊張してきたー! まさかわたしが五人の内に選ばれるとは思わなかったよー! “ラーメン作り”の紙が引かれたら出番なんだけど、一回戦はヤダなー。
そう思いながら勝負方法が書かれた紙の入った箱に手を入れるクレちゃんに目をやる。
そして引いた紙は――。
「おおーっと、紙には“うどん作り”と書かれてるー!」
自ら司会役を買って出た燕奈さんが声を上げる。
「う、うおっしゃー、私の出番や、行ってくるで!」
これまたメンバーに選ばれたいぶちゃんが引き締まった小麦色の頬を両手で叩いて前に進んだ。
それにいり子ちゃんが声援を送った。
「お姉! 負けたら承知せんで~!」
いり子ちゃん、これ以上いぶちゃんを追い込まないでー!
次いで燕佐さんが箱から紙を引いた。
「そしてこちらは、“乳首当て”だー! なんだそりゃー!」
ホントに何だそりゃー、だよー!
そこへ《深紅の百合》陣営から威勢のいい声が上がった。
「ミーの出番じゃ~ん!」
そう言って歩いてくるのはいぶちゃんにも負けない背の高さがある百合、意味不明なアイマスクにロングツインテ、何か格ゲーキャラのレインボーミ〇みたい……。
「さーて皆さん、うどん作りと乳首当て、どちらの勝負が見たいですか、うどんは赤、乳首は青、はいっ、投票どぞ!」
巨大スクリーンに集計カウンターが映し出された。
赤、青、それぞれの下にある数字がみるみる膨らんでいく。
「はい、時間でーす! えー、赤は千百十五票、青は二千九百八票。結果は青! 乳首当て勝負と決まりましたー!」
集計カウンターの周囲に並ぶ百合の面々が楽しそうに手を叩いてるー!
っていうか乳首当て勝負ー?
うどん勝負ならいぶちゃん絶対負けないのにー。
――この時のわたしは、その後目の当たりにする乳首当て勝負の壮絶さを知る由もなかった。
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