第16話 シスコン姉、虎穴に入る決意をする
<前回のあらすじ>
わたし結構なシスコンの[もみじ]です!
このたび友達になった[いぶき]さんと、愛する自分の妹と百合カップルになる為の同盟を結びましたー。
そして、その策を話し合う為に夜の居酒屋に来たんです。
そうしたら重い愛と絶倫な精力であまたの百合と破局し続ける[相楽(さがら)]さんっていう人に目をつけられちゃって、もう大変!
そんな[相楽]さんを撃沈させてくれたのが、島長の妹にして心を読める超能力者、燕奈[えんな]さん!
その燕奈さんが、わたし達の話し合いに加わってくれることになりました!
「時にもみじちゃん、ちいゆちゃんと百合の階段駆け上がってるかね?」
そう言った燕奈さんが、テーブルに置かれた酒に口をつけた。
「いやー、燕奈さんも人が悪いですよー。それが出来ればこういう話し合いしてませんよー」
言いながら目を伏せてしまう。
「ということは、いぶきちゃんも?」
「そういう訳たい……」
いぶちゃんも燕奈さんに目を伏せてしまった。
「ふーむ、よっし! 島の八割もの百合恋愛を成就させてきたこの燕奈が、はぁー! いよぉぉ! どどんのどん! あっ、何とかしてやろぉではござらんか!」
歌舞伎か何かだろうか、寄り目にしてお相撲さんのつっぱりポーズを取っている。
そう思うわたしの側で、いぶちゃんが驚きの声を上げた。
「は、八割もですか!?」
「ごめん、ちょっと盛った」
寄り目のまま正直に答える燕奈さん。
「とまあそーゆー訳で、まずは傾向と対策、この島は全員百合ってのはモチのロンで知ってるよね?」
「そらまあ、そんじゃないともみちゃんも私もここにおらんけんし……」
「よろしい、ではこの百合は何だー?」
燕奈さんの指先が、額をテーブルにくっつけて「しゅるるぴー、ふごっ」と寝息を立てている相楽さんにビシっと向けられる。
「いや、まあ……触るな危険、とかいう百合やろなー」
「そ、そうですねー、隔離レベルっていうかー」
いぶちゃんと一緒にひどい事を言ってしまう。
「そ! この相楽っちは百合でもアレよ、脱出魔法覚えないままダンジョン最深部まで潜ったバーサーカー、つまり修羅百合、来世に期待するしかない百合」
わたし達以上のひどい言われよう……と思ってたら「そごイィッ!」と寝言を言って体をビクンとさせる相楽さんに腰が浮いてしまった。
「しかるに! ちいゆちゃんといり子ちゃんは何?」
妹の居るテーブルにいぶちゃん共々目が行く。
「可愛い妹」
「はい、可愛い妹です」
揃ってそう言ったら燕奈さんに小さくテーブルを叩かれた。
「そう! 可愛い妹! でもねー、この島は百合ノ島! 百合以外住んじゃいけないの! いい? “妹”じゃダメなの! “百合”じゃなきゃダメなの! あんた達がいつまでもたらたらしてたら妹ちゃん達、どうなるかわかる?」
「お、追い出されるん?」
「追い出したらこの島の秘密が漏れる可能性、あるでしょー?」
ふぅー、っと息を吐いた燕奈さんが半分空になったグラスを置いた。
「強制的に百合になって貰いまーすっ、例えばこの相楽っちの手で、とかねー」
隣からいぶちゃんのゴクリと息を飲む音が聞こえた。
「そげんアホなこと許されんやろ!」
掴みかかるよう、いぶちゃんの手が向かいに座る燕奈さんに伸びた!
ところが燕奈さんはテーブルのグラスに目をやったままその手をさっとよけてしまった。
そうだ! この人、心が読めるんだった!
「手を伸ばす相手は私じゃないでしょーが! 妹ちゃんを抱き寄せよる手もなくて、なーにが同盟よ。あー、そうだ、妹ちゃんの百合相手は私らが見つけてあげるからさー、あんたら二人、この際百合カップルになりなよー」
「い、いくら燕奈さんでも怒るけんよっ」
いぶちゃんの小さな唸り声、それを聞きながらわたしはこう思った。
ひどい言い方だけど、燕奈さんはこうやってわたし達の尻を叩いてるんだ。
ちらっとデコをテーブルに着けて、「う、うう、そこ舐めちゃ……ふごっ」と寝言を言っている相楽さんに目をやる。
そういえばこの人の家にシルビアさんのお姉さんらしき幽霊がいるんだよねー……って、そうだ!
「燕奈さん! 話変わりますけど、この相楽さんの家の幽霊を、わたしとちいゆで何とかしたいんですけどいいですか?」
目を大きくして口の先を僅かに尖らせた燕奈さんがこちらを見る。
そしてわたしの心を読んだのか、にんまりと笑みを浮かべた。
「いいよー! そういうのいいねー。あ、でも相楽っちの魔の手にはじゅーぶん気を付けなよー」
それがメッチャ厄介だけどシルビアちゃんの問題と、わたしの問題を同時に解決するチャンス! ここは勇気を出して挑まねばー!
「はい!」
「じゃ、私は相楽っちを家に送って帰るから。明日スマホで連絡ちょーだいな、私が車でこやつの家まで乗せってあげるからさー」
「あの私……」
自分を指さすいぶちゃんに、燕奈さんが口の端を持ち上げた。
「いぶきちゃんの件はその後だねー」
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