あの夏、僕は

もちこ

第1話

 「舶人くーん、朝だよ! 起きてー」 

 ん? 

もう朝かな、と舶人は辺りを見渡しました。


 舶人は、東京生まれ、東京育ちの小学5年生。

平凡な男の子です。


 見渡すと、舶人は、目を疑いました。

そこは、自分の部屋と全く違う部屋だったからです。

その部屋は、いかにも田舎っぽく、窓を開けると、辺り一面に田、畑、山。

そして家が、ぽつ、ぽつとあるだけでした。

舶人は夢かと思い、自分の顔を引っ張ってみましましたが、なにもおこりません。


 もしかして、夢じゃないのか!


 舶人は、急いで階段を降りました。

すると、そこにおばさんが立っていました。

そのおばさんは、なにやら元気いっぱいな感じで言いました。


 「舶人くん、遅かったじゃない。田舎はね、早寝早起きなんだよ」


 「おーい。よっちゃん、パン焦げてるよー」


 そこに、ひょろっとして優しそうな、おじさんが台所から声をかけました。


「あらー! 待って、今いくー」


 舶人は今の状況が、まったくわかりません。


「さ、舶人くん。座って座って、ご飯よ」


 おばさんが、元気良くいいました。

舶人は、言われるがまま椅子に座りました。

すると、おばさんも椅子に座っていいました。


「舶人くん。ここは東京より何も無い島だけど、空気は新鮮で自然の中でめいいっぱい遊べる所が沢山あるから。きっと、舶人君も気にいると思うよ。ね、武志さん」 


「ああ、そうだね」


 おじさんもにっこり笑って言いました。

舶人は、今だ! と思い、2人に聞きました。


「あの、ここはどこですか。なんで僕はここにいるんですか」


 舶人は、早口になって聞きました。

すると2人は顔を見合わせて、大笑いしました。


「舶人くん、何言ってるの」


 舶人はなぜ二人が笑っているのか、まったくわかりませんでした。

おじさんとおばさんによれば、舶人は東京から出たことがないので、お父さんとお母さんが今年の夏休みの間だけ、親戚のおじさんとおばさんたちに舶人を預けた、ということらしいのです。


 しかし、舶人はまったく信じません。

なぜなら、もし夏休みにおじさんとおばさんたちに預けられるというのなら、絶対にお母さんとお父さんは、舶人に言うはずです。

さらに、舶人が東京から一人で新幹線や船に乗って来た覚えが記憶にありません。

舶人は、そう考えながら、朝ご飯を食べました。

普通の夢と違って、味はあるようです。



 舶人は部屋に戻りました。


 そして、走ってみたり足をぶつけたりしました。

すると、しっかり感じるし、痛かったのです。

やっぱり夢じゃない、と舶人は思いました。


 ドアがノックがされ、おばさんが入ってきました。


「舶人くん、外に出て遊んでおいで。今日はいい天気だからね」


「はい」


 素直に舶人が外に出ようと玄関に向かった時、知らない男の子の声が聞こえます。


 「おばさーん! いっぱい採れたんで、おすそ分けです」


「はーい」


 おばさんがドアをあけました。


「あら。スイカ、ありがとうねー」


「いえ」


 男の子は、とっても美味しそうなスイカを持っていました。 


「そうだ夏目君。この子に村を案内してくれない?」


 おばさんが、舶人の方を見ていいました。


 男の子が舶人を、ちらっと見ると「いいよ」と答えました。


「ありがとうね。舶人くんもいい?」


 おばさんは笑顔で舶人にも尋ねてきました。

舶人は、うなずきます。

そして、男の子と家を出ました。


 「俺、落合夏目。よろしくな」


 夏目がニヤリと笑って言いました。


「僕は、舶人。よろしく……」


 それに対し、舶人は小さく言いました。



 なぜか、舶人は夏目の名前に聞き覚えがあるような気がしました。

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