悪魔城。

 階段。

 直輝と少女は何度目かの階段を上り終え、廊下に出た。

 直輝は階段で毎回そうしているように、少女には踊り場で待機していて貰い、一人で一旦廊下へと出た。

 今までの階と特に変わらない長い廊下。

 その先に、一人の男が立っていた。

 三対六本の腕を持つ、長身で細身のその男は、口を開いた。

「お前が直輝だな。待っていたぞ」

「……。」

「最初に忠告させて貰おう。俺は今までの悪魔とは違う。ほとんどの奴等はお前の性欲を表に出させ、あの女にその矛先を向けさせお前の志を打ち砕き絶望させようと企んでいるようだが……。俺はそんなまどろっこしいマネはしない。力尽くで絶望させる」

「その前に、一つお訊きしたいのですが。よろしいでしょうか。」

「……なんだ」

「あの人を人間に戻す薬について、特に薬のある場所につて、何か知ってはいらっしゃいませんか。」

「知らねぇな」

「そうですか。ありがとうございます。では、これで。」

 今度こそ忘れずに訊くことができ満足した直輝は、この場を立ち去ろうと悪魔に背を向けた。

「おい、キサマ! どこに行く!」

 直輝は振り返り言った。

「薬を探しに行こうと……。」

「逃げるのか」

「私に貴方と戦う理由は無いので……。」

「キサマ……、女の件と言い、キサマは本当に玉がついてるのか!」

「……まぁ。」

「クッ……、まあいい。お前が逃げようと、俺のやることは変わらない。お前を殺す!」

 そういうと悪魔は直輝に向かって走りより一本の右腕で頬を殴り飛ばした。

「うっ!」

 よろめきながら後ずさる直輝の腹部を悪魔は一つの左拳で突き上げた。

「おっ!」

 直輝は床にうつ伏せに倒れた。

「なんだ、ずいぶん弱いな」

「木村!」

 突然、少女の声が廊下に響いた。

 少女は階段の踊り場から廊下へと出てきていた。

「フッ。隠れていなくていいのか? この男に止めを刺したら、次はお前の番だぞ」

 そう悪魔が言った瞬間、直輝は立ち上がった。

「お前、あの人にも手を出す気か。」

「アァ? だったらなんだ?」

「壊す。」

 そう言うなり直輝は悪魔の顎を右拳で突き上げた。

「ウッ!」

 続いて直輝は悪魔の腹部に右拳を打ち込んだ。

「ウッ!」

 仰け反った悪魔を直輝は蹴り飛ばした。

「アッ!」

 悪魔は仰向けに倒れた。

 そこで直輝は悪魔の顔面を二回踏みつけ、素早く後ろに下がり間合いを取った。

 悪魔は微動だにしない。

「……もう終わりか。」

「だと思うか?」

 そう言いながら、悪魔はゆっくりと立ち上がった。

「俺はなァ、人間の性欲を糧に強くなるんだよ。この力で俺は、幾人もの猛者共を屠り、煩悩に支配された人間共に己の弱さを、そして俺の強さを示してきた。お前にも教えてやるよ。己の弱さをなァ!」

 言うなり悪魔は直輝との間合い一気に詰め、右三つの拳でほぼ同時に直輝の左側を殴りつけた。

「っ!」

 直輝は二メートル程ふっ飛ばされ、勢いよく床に倒れた。

「まだまだこんなもんじゃねえぞ。お前の弱さは」

 直輝は体を起こしながら悪魔の方を見た。

「へっ。驚いているか? 自分にこんな性欲があったのかと? ハッ。安心しろ。そうじゃねぇ。惚れた女からのセックスの誘いを断り、裸体を見ることを望まず、チンコも熱く滾らない……。そんなインポ野郎の性欲なんざ、端から当てにはしてねェよォ! これはそこにいる、その女の性欲だ」

「えっ!」

 悪魔のその言葉を聞いた少女は、驚きの表情を浮かべた。

「へっ」

 悪魔は地面を一蹴りし、直輝の目の前に着地した。

 そして六本の腕で様々な方向から何度も直輝を殴り始めた。

「ぶっ! オッ! うっ! オッ! グッ!」

「オラ、どうだ。惚れた女の性欲で痛めつけられる気持ちはよォ。愛だの恋だのほざくのも、お前等人間の弱さだよ。オラ、このままじゃあお前は死ぬぞ。どうする? あの女を殺すか? あの女が死ねば、状況は逆転するぜ?」

「……んなわけ、ねぇだろ……。」

「それがお前の弱さだ」

 そう言うと悪魔は殴る手を止め、一番上の右手で直輝の首を掴み持ち上げた。

 そして、残った五つの拳で直輝の体にラッシュを浴びせた。

「オラオラオラオラオラオラオラァ!」

 すると今度は直輝を少し投げ上げた。

「これで終いだ」

 言いながら悪魔は、落下してきた直輝に三つの右拳を叩き込んだ。

「……。」

 直輝は三メートル程ふっ飛ばされ、床に落下した。

「……、木村!」

 少女は、床に倒れたまま動かない直輝に向かって叫んだ。

「ハッ、あの男はもう死んださ。次はお前の番だぜ、女ァ」

「……」

 悪魔が少女の方へ一歩踏み出した、その時。

「わりぃな俺は……、死にたくないから、死なねぇんだ。」

 そう言いながら直輝は、ゆっくりと立ち上がった。

 悪魔は直輝の方へ向き直った。

「あれだけの拳をくらって、生きているとはなァ!」

 そう言うと悪魔は一瞬で直輝と距離を詰め、六つの拳で殴り飛ばした。

「オォッ!」

 直輝は又も三メートル程ふっ飛ばされ、床に倒れた。

 そして又、立ち上がった。

「なっ」

 悪魔は驚きつつも一瞬で直輝の目の前まで跳び、その勢いを乗せて右三つの拳でやや上から殴りつけた。

 直輝は床に叩きつけられた。

 が、又立ち上がろうとした。

「お前……、これだけの殴打を受けて、なぜ、立ち上がることができるんだ」

 直輝は立ち上がりながら言った。

「んなもん……。好きな女の子前にして、立たねぇわけが、ねぇだろう。」

 言い終わらない内に直輝は立ち上がり、悪魔の顎に真っ直ぐ右拳を打ち込んだ。

「ガゥッ! なんだよ……。インポじゃ……、ねぇのかよ……」

 悪魔はそう言って、ドサッと床に崩れ落ちた。

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