第11話 食べて大きくなると……

 シャーフは、今度は一体どうしたと、袋を鎖鎌でグルグル巻きにして戻ってきたマイゼンドを見て思った。


 「シャーフさん! 亀にされた冒険者を捕獲しました!」


 「はぁ? 亀の冒険者?」


 マイゼンドは、頷くと鎖を外して台の上に亀が入った袋置いた。

 シャーフは、袋の中を覗く。


 「確かに大きな亀だな。で? どうして冒険者だと?」


 「モンスターを食べたんだよ! しかも僕と同じぐらい早く走るんだ!」


 ふむとシャーフは頷いた。


 「要は、モンスターを食べ自分と同じぐらい足が速いから冒険者だと?」


 今度は、そうだとマイゼンドが頷く。


 「お前なぁ……モンスターはモンスターを食べるんだぞ? 見た目は亀だが、足が速くてモンスターを食べたならモンスターだろうが!」


 「え? モンスターってモンスターを食べるの? 知らなかった!」


 「で、モンスターを生きたまま街に連れ込んだのか」


 ため息交じりで、シャーフは言った。

 結果的にそうなっていたからだ。


 「あ! ごめんなさい。冒険者じゃなかったんだ……」


 「そう思いつくのはお前ぐらいだ。で、今日はこいつを捕まえただけか?」


 「ううん。一角兎も倒して持って来たけど?」


 「……お前はバカか。モンスターを食べるとわかっていて一緒にしたのか?」


 「え!?」


 ガバッと袋を覗くと、亀しかいなかった。そう一角兎は跡形もなくなっていたのだ。


 「えー!! 10体全部食べちゃったの!?」


 「10体!? 流石に途中で気づけよ!」


 「あれ? ちょっと待って……」


 シャーフに言われ気づいたが、中身の大きさがそれほど変わった気がしなかったのだ。その原因がわかった。明らかに亀が大きくなっていたのだ。

 破けた穴から入ったはずなのに、その穴からは出られないほどの多きになっていた。


 「大きくなってる。凄いね。食べてすぐに大きくなるなんて」


 「関心している場合か! それはそれで、凄く危険だろう! 意味わかるか?」


 「えっと……」


 「レアになったんだろうが!!」


 青ざめてシャーフが言った。

 この辺では見ないモンスターだったのだ。

 マイゼンドから聞いた話によれば、素早いのがわかる。それがレアになったのなら素早さはかなりの早さになっているはず。

 まずシャーフでは、逃げる事も攻撃を当てる事も不可能かもしれない。彼が現役を退いたのは、足を痛めたからだ。


 「……マイゼンド、悪いがこのまま居た場所まで持って行って戻して置いてくれないか?」


 この街で暴れられるよりはいい。

 鎖を解いても大人しいがいつ襲って来るかわからないのだ。もしかして、途中で暴れ出すかもしれないが、今はそれしか方法がない。


 「俺は、連絡を入れてそのモンスターの討伐依頼を掛けるから。出来るか?」


 「討伐依頼? 殺すって事?」


 「一説にもあったんだ。モンスターを食らってレベルが上がっているのではないかと。それが今、実証された。本来ならこのまま捕獲しておくのがいいが、この街には、★3以上の冒険者はいない。皆、強くなると出て行くからな」


 マイゼンドも近くの村出身で冒険者になってこの街に来た。ある程度強くなったらもっと大きな街へ行こうと、リトーンと話していた。

 置いて行かれたマイゼンドは、今はそんなつもりはないが、大抵の者はそうなのだ。


 もし街に置いておいても亀を倒せるかどうかわからない。なら居た場所へ戻すのが一番だ。足が速いが場所を移動していないようなので、そこが住処なのだろうという判断だった。


 「わかりました。僕が間違って連れて来ちゃったし、置いてきます」


 「刺激しないようにな。すまないな」


 「大丈夫です。ついでに一角兎を倒して帰ってきます」


 そういうマイゼンドをシャーフは、複雑な気持ちで見送った。自分が死ぬかもしれないとは、微塵も思っていないんだろうと。もし亀が暴れ死ぬ目に遭った時に、きっと自分を恨むのだろうなと。


 シャーフが思っていた通り、マイゼンドは亀に殺されるなどとは思っていなかった。食いしん坊の亀としか捉えていなかったのだ。

 重いので連れ来た時と同じく浮遊を掛けて移動する。ある意味、安全な移動方法だった。


 無事川辺につき、亀を下ろす。


 「後で、討伐に来るらしいから嫌だった逃げるんだよ」


 相手がモンスターだとわかっても何となく愛着がわいたマイゼンドは、亀のモンスターに向かってそう言っていた。

 袋から亀が出て来る。そして、川へゆっくりと向かって行った。


 「バイバイ」


 マイゼンドは、亀を見送って袋を持ち上げると、何かが袋の中で転がった。覗くとキラキラ輝く卵の様なモノが一つ入っていた。


 「これって何?」


 モンスターのたまご?

 手に取ってみると、片手ぐらいの大きさで銀色のたまご型。つんつんとするとそれなりに硬い。


 マイゼンドは、優しく袋でたまごだと思われる物を包んだ。モンスターなら街へと連れて帰る事になるが、好奇心の方が勝った。こっそりと持ち帰ったのだった。

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