第594話 手紙が届きました2


 なんやかんやでディアナちゃんとのラブコメが一段落したところで――


「んで、結局用事ってなんだったの?」


「おお、そうだったそうだった」


 何やら話が妙な方向に転がってしまい、僕がルクミーヌ村の美人村長さん宅へお邪魔した理由を、ディアナちゃんに話していないままだった。


「簡単に言うと――これだね」


「これって言うと――手紙?」


 その通り。手紙である。

 自室のテーブルには、何十通もの手紙が並べられていた。


「手紙が届いたんだ」


「届いた? 誰から?」


「僕から」


「……うん?」


 僕の言葉を聞き、要領を得ない表情を浮かべるディアナちゃんだが――まぁ待ってくれ、話を最後まで聞いておくれよ。


「世界旅行中、僕がみんなに向けて書いた手紙だね。その手紙がようやく届いたんだ」


「あー、そういうこと? うん、確か前にもそんなことしてたよね」


「そうだね。これで二回目かな。……前回同様、やっぱり今回も僕の方が先に帰ってきちゃったね」


 今回は相当急いで郵送したのになぁ。カーク村で手紙を書いたときには、『さすがにこの段階で出しておけば、間違いなく手紙の方が先に着くはず』などと自信満々で断言していたはずが、まるっきりフラグになってしまった。


「それで、その手紙のたばが――ルクミーヌ村の村長さんの家に届いたらしいんだ」


「え、あ、そうなんだ。それで受け取りに行ったの?」


「そういうことだね」


 一回目はまとめて我が家に届いたが、今回はルクミーヌ村の村長さん宅に届いた。

 ……ふむ。予想できることではあったな。メイユ村とルクミーヌ村宛に大量の手紙を郵送すると、どっちかの村の村長宅に届くものらしい。


「それにしても、ずいぶんあるね」


「まぁそうかな。あの人もあの人もって考えてたら、どんどん数が増えちゃって――」


「一回目にアタシも貰ったけど、アタシだけ特別かと思いきや、目ぼしい女には全員配ってるって後から知って、ムカついた記憶がある」


「…………」


 いや、違くて、別にこれはそういう手紙じゃないから……。お世話になっている人への挨拶とか近況報告的なやつだから……。


「それで、今回もアレクが手紙を配達して回る感じ?」


「あー、確かに前回は自分で配達したんだけれど……。でもさー、僕が配るのはどうなのかな。やっぱりちょっと気が進まないよねぇ」


「ん、そうなん? なんで? 遅いから?」


「…………」


 いきなり失敬だなディアナちゃん。


「そうじゃなくて、これって世界旅行中の近況報告の手紙だからさ、そんな手紙を僕が自分で届けるとか、なんかちょっと変じゃない?」


 前回も同じことで悩んだな。やはりいろいろとツッコミどころがある手紙なのだ。僕の方が先に帰ってきてしまったため、どうしても妙なツッコミどころが生まれてしまう。


「あー、まぁ確かに変だけど、大丈夫じゃない?」


「むぅ……」


 前回も同じことを言われた気がする。同じことをナナさんに相談したところ、『変ですけど、大丈夫ですよ』などと言われた記憶がある。

 何故なのか。それはどういう意味なのか。いったい何が大丈夫だと言うのか。


「……まぁ僕としても、自分で直接届けたい気持ちはあるんだけどねぇ」


「ふーん?」


 前回は、みんなの家を直接訪ねて、手紙を渡して、それからひとしきり話し込んで――そんなこんなで全員に届けるまで結局十日も掛かってしまったが、僕としては楽しい日々だった。


「悩みどころだね。自分で直接届けるか、それとも――大シマリスのモモちゃんに届けてもらうか」


「モモに?」


「モモちゃんに配達を委託しようかとも考えてるんだよね。というより、個人的にはモモちゃん配達の方に気持ちが傾いてる」


「へー、そうなんだ?」


「うん。だってモモちゃんが届けたら――たぶん可愛いと思う」


「……はぁ?」


「想像してみてよ。モモちゃんが一生懸命手紙を配って回る姿とか――なんか可愛くない?」


 大きなシマリスの郵便屋さん。――良いな。良いと思う。想像するとなんか可愛い。なんかほっこりする。


「……なんかわかる気がする」


「だよね」


 ディアナちゃんにも共感してもらえた。やっぱりそうだよね。想像するだけで可愛い。なんとなく愛くるしい。


「うん。やっぱりモモちゃんにお願いしよう。大変かもしれないけど、モモちゃんに頑張ってもらおう」


 まぁゆっくりでいいんだ。僕と同じで十日以上掛かっても構わない。

 そのためのお給料も出してあげよう。臨時でお小遣いを奮発するから、是非とも可愛らしく頑張っていただきたい。


「あー、でもアタシはどうしようかな。モモに配達してもらいたい気もするけど、アタシだけ特別にアレクから直接手渡しってのも、それはそれで有りなんじゃない?」


「……ふむ」


 特別か……。ディアナちゃんだけ特別に手渡しとな……。


「えぇと、まぁ僕はいいんだけど、できたらモモちゃんが可愛らしく頑張っている姿も見てもらいたいかな」


「そう? んー、それじゃあそうしよっか」


 ……うん。それがいい。

 実はここだけの話……ディースさんとルクミーヌ村の美人村長さんには、すでに直接手渡ししちゃってるんだよね。

 ディースさんには前回のチートルーレット時に天界で渡しているし、今回届いた手紙を回収する際、美人村長さんの分だけはすでに渡してしまった。


 というわけで、ディアナちゃんに直接手渡ししたところで……ディアナちゃんは特別どころか、三番目になってしまう。

 実は三番目なのに、自分一人が特別だと勘違いさせてしまうのは、あまりにも忍びない……。


 とてもじゃないが、ディアナちゃんには伝えられない話だな……。特に美人村長さんの件は、ディアナちゃんには禁句だと思われる。


「それで、配達はいつから始まるの? アタシにはいつ届くかな?」


「あー、どうかな。とりあえず配りやすいように、手紙の順番を並び替えたりしてるんだけどね」


「ああ、アタシが来たときアレクがやってたのは、その作業なんだ」


 村の中を行ったり来たりせず、一筆書きで配っていけるよう手紙を並び替えていたのだ。

 なのでディアナちゃんに手紙が届くのは、その順番次第なわけだが――


「んー、こっちがルクミーヌ村の手紙か。それで、アタシの順番は……うん?」


「どうかした?」


「……この手紙の宛先を見たら、アレクが目を付けている女がわかるんじゃない?」


「あ、やめてディアナちゃん! 別にそういう手紙じゃないんだけど、見ないでディアナちゃん!」





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