第527話 四年間の成果。予想外の結果


「十五歳ですね。十五歳で僕は、『剣』スキルを取得しました」


「そうですねー。そのときのことは私もよく覚えていますー」


「ええはい、ローデットさんからもお祝いの言葉をいただきましたね」


 ――というわけで、村の教会だ。

 とある事情で教会までやってきた僕は、ローデットさんに昔話を聞いてもらっていた。


「それで『剣』スキルを覚えて……そこで調子に乗って、『じゃあ次は魔法スキルも追加で覚えちゃおっかな?』などと、そんなことを考えたわけですよ」


「そういえば『水魔法』スキルの練習をずっとしているんですよねー」


「そうです。そのときから母に師事して、修行を積んできました」


 特に夏場とかは、集中的に修行を積んでいたかな。

 水を張ったタライに足を突っ込んでみたり、湖エリアの流れる湖にて浮き輪に乗ってぷかぷか流されたりと、そういう厳しい修行に明け暮れていた。


「ちなみに母が言うには――四年で僕に『水魔法』を取得させるつもりらしいです」


「へー、四年ですかー……え? たった四年で……?」


「たった四年だそうです」


「さすがにそれは厳しいと思いますけど……」


「まぁそうですよねぇ……」


 エルフが新しいスキルを覚えるのに、通常は二十年ほど掛かるものらしい。

 僕が『剣』スキルを覚えるまで八年掛かったが、それでも大したものだとローデットさんに褒められた記憶がある。


 だというのに……たった四年。

 たった四年で覚えさせてみせると、森の賢者様がおっしゃったのだ。


「でもミリアムさんがそう言うなら、そうなんですかね……」


「どうでしょう……」


 正直よくわからん。……そもそも母は、教えるのが上手いのだろうか? 時々思い付いたように謎の特訓を僕に課してくるが、果たしてその効果はどうだったのだろう?

 あるときは大量の水をおもむろにぶっかけられ、あるときは湖での背泳ぎを命じられ、あるときはいろんな水の飲み比べをさせられ……これらの特訓は、本当に効果があったのだろうか?


 ちょっぴり懐疑的な目で見てしまう僕もいたりして……あ、いや、だけど賢者様だからな。なにせ森の賢者様考案の秘密特訓だからさ。

 賢者様を疑うなんてとんでもない。むしろこれらの特訓があったからこそ、たった四年で新スキル取得という奇跡を起こせるのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。


「兎にも角にも、そんな『水魔法』の修行を――かれこれ四年続けておりました」


「そうですかー。四年ですかー……あれ? 四年?」


「四年です。約束の四年ですね」


 四年でスキルを取得させてみせると母に言われて修行を開始した日から、ちょうど四年が経過した。約束の四年が経過したのだ。


「えぇと、じゃあもうスキルを覚えているんですか?」


「母の言う通りなら、すでに覚えているはずですが……」


 一応今日は、その確認のために教会へ来たのだ。

 これから鑑定をして、本当に『水魔法』スキルを覚えているのか確かめるつもりだ。


「でもアレクさんは、二週間前にも鑑定に来ましたよね?」


「来ましたね」


「二週間前は覚えていなかったですよ?」


「…………」


 ……うん。そうだね、覚えていなかったね。

 ――いやでもさ、二週間前は違ったから。二週間前は四年ではなかったでしょ? 正確には、三年と十一ヶ月と二週間とかだったはずだ。

 ちょうど今日で丸四年なのよ。だからたぶん今日は覚えているはず。そんな僕の予想。そんな僕の願い。そんな僕の希望的観測。


「アレクさん自身はどうなんですか?」


「はい? 僕ですか?」


「『水魔法』スキルを覚えた感覚とかあるんですか?」


「…………」


 ない。ぶっちゃけない。


 ……まぁ実際のところ、そこそこ近づいているとは思うんだ。日々成長している感じはある。

 母の思い付き謎特訓を除けば、基本的には水に魔力を流して水を操るといった訓練を続けてきたわけだが、その操作はだいぶ上達した気がする。四年前と今では、天と地ほどの差があると自分でもわかる。


 だがしかし、『水魔法』スキル取得にまで至ったかと言うと、それはだいぶ怪しくて……。

 というか、今でも水を生み出すとかはできないし……。


「まぁまぁ、実際に鑑定してみればわかることです。やってみましょう」


「あー、はい、そうですね……」


「ではでは、こちらをどうぞ」


「ありがとうございますー」


 僕はマジックバッグから硬貨を取り出し、ローデットさんに手渡した。

 その回数が――合計で四回。それぞれ鑑定代と、お布施ふせと、迷惑料と、あとなんかおまけで、合計四回手渡した。


「さて、それでは鑑定してみます」


「はいー。頑張ってくださいー」


「ありがとうございます」


 ローデットさんの応援を受けつつ、僕は鑑定用水晶に手を置いた。


 さぁさぁ、いよいよ鑑定だ。四年間続いた厳しい修行と特訓の成果を、この目で確認しようじゃないか。

 きっときっと、取得できているはずだ。母を信じよう。自分を信じよう。母の言葉も母の特訓も、僕の苦労も僕の努力も、全部間違いなんかじゃなかったと、この鑑定で証明してみせるんだ!


 ……うん。こうやって僕が気合を入れて挑むと、大抵は残念な結果に終わることも多くて、もはやただの前フリなんじゃないかって疑惑も生まれつつあるが……まぁいいや。

 むしろ、そんな前フリ疑惑をも払拭してみせよう。むしろ逆に取得してやる。むしろ予想外の結末を迎えてみせる!


 さぁどうだ! 注目の鑑定結果は、果たしてどうなのか――!?



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:19(↑1) 性別:男

 職業:木工師

 レベル:38(↑1)


 筋力値 25

 魔力値 21

 生命力 15

 器用さ 51(↑3)

 素早さ 7


 スキル

 剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 召喚Lv1 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パリイ(剣Lv1) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)


 複合スキルアーツ

 光るパリイ(剣) 光るパワーパリイ(剣)(New) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター エルフの至宝 ポケットティッシュ



 ……なんか予想外の結果が出たな。

 結局『水魔法』スキルは取得できていなかったようで、その点に関しては残念で仕方がないのだけれど、代わりと言っていいのかなんなのか、予想外のアーツが手に入ってしまった……。





 next chapter:光るアレクシス

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