第481話 総集編11 ――笑いあり涙あり。史上最高の総集編


 つまり、あくまで『ルーレット』はゲーム名であり、カジノの回転盤もダーツの回転盤も、厳密には『ルーレット』ではないかもしれないという、そんな僕の予想。


「ふむ。そういうことか」


「そういうことなんです」


「すべて『ルーレット』としか言わぬから、何を言っておるのかまったくわからんかった」


「それはその、すみませんでした……」


 確かに自分の言動を振り返ってみると、だいぶ支離しり滅裂めつれつだった気もする。

 心配したユグドラシルさんによってベッドに押し込まれるのも当然の言動であった。


「で、結局『ルーレット』と呼んで構わんのじゃろ?」


「そうですね、僕もそう呼ぼうかと思います」


 なのでまぁ……実際にはあんまり意味のない考察だったかもしれない。


「でじゃ、このルーレットが、天界でお主がやっていたのと同じ物なのじゃな?」


「そうなります」


 同じと言い切ってしまうのは、やっぱりちょっとおこがましい気もするけど、構造的には一応同じ物だね。


「ふーむ。これを回転させて、ダーツとやらを投げるわけか」


「そうです。それで抽選するんです」


「なるほどのう」


「ちなみにですが、これの回転軸に滑るニスを使用したところ、思いのほか上手くいきまして――それで他にも回転する道具を作ってみようと、ハンドスピナー作成に至った経緯があります」


 そんな流れで作ってみたハンドスピナー。

 他にも選択肢はいろいろあっただろうに、何故そこでハンドスピナーなのか――そんな意見があるかもしれないけれど、とりあえずお試しで最初に作る作品としては無難なところじゃない?

 まぁこれからだよね。これから他にもいろいろ作れたらいいなって、そんなふうに考えている僕だったりする。


「ところでアレク」


「はい?」


「何やらルーレットに、いろいろ書かれているようじゃが……」


「あー、パーティ名の候補ですね」


 アレク製チートルーレットには、数々のパーティ名候補が書かれた紙が未だに貼られていた。

 こうして眺めていると、なんかちょっと懐かしくも感じる。


「パーティ名か。……これも?」


 ちょっと微妙な顔をしながらユグドラシルさんが指差したパーティ名。

 その名は――


「『世界樹様を守り隊』と書いてあるようじゃが……」


「ええはい。残念ながらダーツが外れてしまったので、この名前には決定しませんでしたが、『世界樹様を守り隊』も候補のひとつでした」


「そうか……。うむ。まぁなんというか、気持ちは嬉しい」


「そうですかそうですか」


 まぁそもそも守る必要もないくらい強いと噂のユグドラシルさんだが、守りたいという気持ちは当然ある。

 僕に何ができるかはわからないけれど、力になれることがあったら喜んで協力するし、手伝えることがあったらなんでも手伝う。というわけで守りたい。守れるならば守りたい。守護りたい。


「あ、補足ですがこのパーティは、ギルドのパーティです。人界には冒険者ギルドというものがありまして、そこではパーティを――」


「うむ。知っておる」


「およ?」


 そうなのか、知っているのか……。まぁ悠久の時を生きているっぽいユグドラシルさんならば、それくらい知っていて当然か。

 うん。なんかちょっと恥ずかしい。そんな博識なユグドラシルさんに、ついつい物知りぶって得意顔で解説しようとしてしまった僕がいた。そこそこ恥ずかしい。


「昔、わしもギルドに登録したのじゃ」


「……え?」


 え、そうなの? 知識として知っているだけかと思いきや、実際に人界まで行って登録してきた経験が?


「それはつまり、ユグドラシルさんも冒険者ギルドでギルドカードを作ったということですか?」


「うむ。冒険者としての活動をしたこともある」


「なんと……」


 さらには冒険者の経験もあるという……。

 それは……何気に衝撃の事実じゃない? なんかすごくない? エルフの神の世界樹様が、人界で冒険者として活動とか、なんかすごい。そこそこツッコミどころがありそうな行動にも思える。


「まぁそれもずいぶんと昔の話じゃが、今もどこかにカードはしまってあるはずじゃ」


「ほう、カードが……」


「む?」


「ちなみに……そのギルドカードの色とか聞いてもいいですか?」


「色か。そうじゃのう、活動を続けるうちに、だんだんと素材や色が変わっていって――最終的には黒いカードになったのう」


「おぉぉ……」


 ユグドラシルさんもか。ユグドラシルさんも、あの黒いカードを所持する超高ランク冒険者だったのか。

 ということは、かなりガッツリやり込んでいるなユグドラシルさん……。


「そうなんですねぇ。一応僕も冒険者にはなったんですが、まだ木製のカードでして――」


「のうアレク」


「はい?」


「どうせなら、最初から聞かせてくれんか?」


「最初からですか?」


「なにせ今回の旅は六ヶ月もあったのじゃ、アレクもいろいろな体験をしたのじゃろう? いっそのこと最初から、順を追って旅の話を聞きたいと思ったのじゃ」


「ほうほうほう」


 おー。良いね。それは良い。というか嬉しい。ユグドラシルさんがそう言ってくれて嬉しい。願ってもないことだ。ユグドラシルさんも聞きたいと言ってくれて、僕だって聞いてもらいたい。


 よしよし。それじゃあじっくり振り返ってみよう。

 つまりは――総集編。


 僕の第五回世界旅行を振り返る総集編。

 ユグドラシルさんと二人で――総集編と洒落込みますか。


「ではでは、村を出発した日からですね」


「む?」


「その日は朝からお祭り騒ぎで、僕としては嬉しくもあり恥ずかしくもあり、というかそもそもみんな僕の出発がどうこう以前に、ただただお祭りを楽しんでいるだけなんじゃないかっていう疑いが――」


「そこまでは戻らんでもよいぞ? というか、そこはわしも同行しておった」


「あ、そういえばそうでしたね……」


 エルフの森までは、ユグドラシルさんも同行してくれていたんだっけか。

 むう。微妙に出鼻をくじかれた感が……。



 ◇



 ――三日経った。

 三日間にわたり、じっくりユグドラシルさんと総集編を繰り広げてしまった。


 いやはや、自分で言うのもなんだけど――素晴らしい総集編だったね。


 こうやって誰かと一緒に過去の出来事を振り返るのって、今までにも時々やっていた気がするけど――今回の総集編はすごかった。

 過去例に見ないほどの超大作。ボリュームもさることながら、クオリティもまた素晴らしかった。笑いあり涙あり、腹筋崩壊で涙腺崩壊。感動的で刺激的で叙情じょじょう的。極上のエンターテイメントと化していた。史上最高の総集編だったと言っても過言ではない。


「どうかしたか?」


「いやー、なんか妙に楽しかったですね。ユグドラシルさんのおかげです。ずいぶんと長くなってしまいましたが、お付き合いいただきありがとうございました」


「うむ。まさか日をまたぐことになるとは思わんかった。しかも二度も」


 ……あれ? もしや軽くうんざりしていた? あまりに長すぎて、実は辟易へきえきしていた?


「じゃが――楽しかったのう。わしも聞いていて楽しかった」


「あ、そうですかそうですか、それは何よりです」


 良かった良かった。ユグドラシルさんもそう思ってくれていたか。

 僕の独りよがりではなかったようだ。ひょっとすると三日間も一人で勝手に気持ちよくなっていたのかと、一瞬震えてしまった。


「でじゃ、こうしてしっかりアレクの旅の様子も聞けたわけで……まぁ話を思い返すと、何やら残念な旅であった気がしないでもないが」


 あれ? 最終的にそういう感想になっちゃった?

 僕の活躍を余すとこなく伝えたつもりなのだけど……。あるいは余すとこなく伝えたがゆえに、やっぱり残念だったという結論になってしまったのだろうか……。


「兎にも角にも、お主が六ヶ月間旅をしてきたことには違いない。――というわけでアレクよ」


「はい」


「受け取るがよい――世界樹の枝じゃ」


「ははー」


 ユグドラシルさんから、世界樹の枝をうやうやしく頂戴する。


 あれだね。旅の期間を更新したら新たに枝を貰えるという、例の約束のやつだね。

 今までの記録が二ヶ月で、今回は六ヶ月。文句なしの記録更新だ。僕も胸を張って枝を受け取ることができる。


 ……しかし、これは次回以降ちょっと苦労しそうだ。次回は六ヶ月以上旅をしないと枝を貰えないことになってしまった。

 やはり枝のことだけを考えたら、ちょびっとの更新で収めた方がよかったかもしれん。ちょっと失敗したかな……。


 とりあえず、これからは今まで以上にしっかり考えて大事に使わないといけないね。


「これで七本目ですか。はてさて、今度はいったい何を作りましょうか」


「うむ。有意義に使うがよい」


「ええはい。ありがたく大事に有意義に使わせていただくつもりですが……しかしどうしたものか」


 悩むなぁ。というか、世界樹の枝に関しては日々悩んでいる気がする。大事にしすぎて悩みすぎて、なんやかんやで六本目の枝もまだ手つかずの状態だ。


「ふむ。特に思い付かんのなら、誰かに意見を聞いてみるのもよいかもしれんのう」


「ほほう?」


 まぁそうかもね。一人で迷って悩むより、誰かに相談した方がいい。みんなから意見を募ればいい。

 僕では思い付かなかった有意義な使い方を、誰かが示してくれるかも――


「――いえ、違うんですよ? ありますとも。僕にだってアイデアはあります」


「む?」


「この枝でユグドラシルさんの神像を作ってみるとか、大ネズミのモモちゃんのくらを作ったらどうかとか、防具を作るとか、むしろ普通の日用品を作るとか、もしくはたるを作ってみるとか――まだまだアイデアは無尽蔵に湧いてきます」


「う、うむ。そうか……」


「別にネタ切れとかじゃないんです。それは違うと、声を大にして伝えたいです」


「誰になんの釈明をしておるのじゃお主は……」


 とはいえ、もしも面白そうな案があるのなら、それはそれで採用させていただきたいと思っている所存。常時アイデア募集中だったりもしますとも。





 next chapter:世界樹様に聞いてみよう

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