第477話 ミコトさんの成長?


 父との再会を済ませ、母が作ってくれた凱旋がいせんをお祝いする料理をいただいてから、僕は自分の部屋へ戻ってきた。


 ……ふむ、この部屋も六ヶ月ぶりか。何やら懐かしさを覚える。

 六ヶ月もあるじが不在の部屋だったわけだが……とりあえず物置にされていなくてよかった。


 そんなことを思いながら自室を見回していると――一緒に付いてきたナナさんが口を開いた。


「どれだけお祖父様を可哀想な目に遭わすのですかマスター」


「…………」


 ……父との再会シーンについて、ナナさんから非難されてしまった。


「そんなことを言われても……というか、僕なの? あれは僕のせいなの?」


「それはそうでしょうよ」


 そうなのかなぁ……。


「でも事実ではあるんだよ? スカーレットさんが本名じゃないのも、父がハーレムパーティっぽいものを結成していたのも、そのせいで女好きだという噂が流れていたのも、その噂を正すために僕が頑張ったのも、全部事実なんだ」


「そうだとしてもです。お祖父様がお祖母様の尻に敷かれているなどと、例え事実でも本人に直接伝えることはないでしょう」


 尻に敷かれているのは事実だと、ナナさんもそこは認めるのか……。


「しかし、先ほどの会話を聞いていて思ったのですが――やはり親子なのか、お祖父様とマスターは案外似ていますね」


「ん? 似てる?」


「そう感じました」


「僕と父の似ている部分というと――真面目で誠実なところとか?」


「はっ」


 鼻で笑われた……。


 これ以上ないくらいの嘲笑をくらったわ……。

 それはまぁ、僕としても冗談というか、ちょっとした軽口のつもりではあったけれど……。


「そうではなく、ハーレムっぽいパーティを結成している部分や、女性の尻に敷かれている部分は似ていると思ったのです」


「むむ?」


 ふむ。そう言われるとそうなのかな? 確かに旅の間も、ジスレアさんやスカーレットさんといった美女二人と一緒にパーティを組んでいたわけで――

 まぁハーレムパーティと呼べるほど、二人にチヤホヤしてもらった記憶もないのだが。


「でも尻は? 僕は尻に敷かれているの?」


「レリーナ様とマスターの関係は、尻に敷かれていると言っても…………ちょっと違いますかね?」


「うーん……」


 どうだろう……。『主導権を握られている』って意味では、そう表現してもいいような気がするけど……。

 しかしレリーナちゃんの場合は、そんな生易しい表現で済ませていいものか……。


「とにかくですね、ふとそんなことを思ったのですよ。真面目で誠実なお祖父様と、怠惰たいだ不埒ふらちなマスター。真逆の親子なのに結果は似ているなと、興味深く感じながら話を聞いていました」


「……そうなんだ」


 怠惰で不埒て。


「それにしても、なんだかナナさんはずいぶんと静かだったね」


 僕と父が話している間、ナナさんは口を挟まず話を聞いているだけだった。頷いたり首を横に振ったりと、ジェスチャーでしか反応していなかった。

 果たしてあれは、いったいどういう意図があったのか。


「父と子の、感動的な再会を邪魔するのは忍びないと思ったのです。なにせ六ヶ月ぶりの再会なのですから」


「あー、そんなことを考えていたんだ?」


「実際には、あまり感動的な再会シーンにはなっていませんでしたが」


「まぁそうね……」


 最初は父も再会を喜んでくれていて、そんなシーンになりそうな雰囲気はあったのだけどねぇ。


「まぁ喜んでいることには変わりないですよ。マスターが無事に戻られたことを、お祖父様もお祖母様も――当然私も喜んでおりますとも。おかえりなさいませマスター」


「あ、うん、ありがとう。ただいまナナさん」


 もう何度目かになる帰郷の挨拶だけど、それでも良いものだね。

 こうしてみんなが僕の帰りを喜んでくれる。僕を待っていてくれる人がいる。

 僕には帰れるところがあるんだ。こんな嬉しいことはない。


「実はね、そんなナナさんにお土産があるんだ」


「ほほう? そんな私にお土産ですか? それはそれは、なんだか申し訳ないですね。そんなに気を遣わなくてもいいのですよ?」


「まぁまぁ、受け取っておくれよ――ラフトの町のペナントだよ」


「……お土産には、もうちょっと気を遣った方がいいですよ?」


 光の速さで手のひら返し……。


 だがしかし……僕は信じている。そんなことを言いつつ、きっとナナさんは部屋に飾ってくれると信じている。


「というか、マスターも自分の部屋へ飾ってくださいよ」


「えー?」


「『えー』じゃないですよ。マスターはペナントを広めたいのですよね? ではまず自分の部屋から始めるべきでしょう」


「ふむ……」


 というか……広めたいのかな? なんとなく作ってプレゼントしているだけで、あんまりそんな意識もないような?


「マスターの自室や、別荘のアレクハウスにも――あ」


「ん?」


「アレクハウスといえば――現在アレクハウスのアレクルームに滞在中のミコト様が、もうすぐいらっしゃるとのことですが」


「あ、そうなの?」


「マスターが戻ってくる少し前に、それを伝えるDメールが届いたのです」


「ほうほう」


 僕の召喚獣という扱いなためか、ミコトさんも共有のダンジョンメニューが使えて、Dメールのやり取りができる。それを用いてメッセージを送っていたようだ。


「ミコトさんかー。メールでは普通にやり取りしていたけど、実際はどうなの? 元気にしていた?」


「私もダンジョンへは頻繁に向かいますし、ミコト様も村へ頻繁に訪れるので、顔を合わせる機会は多くありました。とりあえずは元気そうですよ?」


「ほー」


「元気にすくすくと成長しております」


「何その育ち盛りの子供みたいな表現……」


 よくわかんないけど、喜ばしいことなのだろうか……?


 でもあれか、ミコトさんも『アレク君の召喚獣としてこの地に降りた以上、私も力をつけてアレク君を助けてあげたい』とか、『差を付けられてしまったライバルのヘズラト君に追い付きたい』みたいなことを言っていたかな。

 そして、それこそがミコトさんが下界に留まっていた理由でもある。


 きっとその目標を達成するため、レベルを上げたりスキルを磨いたり、そういった努力に励み、ミコトさんはすくすくと成長していったのだろう。


「おーい、アレクくーん」


「おっと。――はーい、開いてますよー」


 噂をすればなんとやら。ミコトさんが到着したらしい。

 僕が返事をすると、ミコトさんがドアを開けて入ってきた。


「やあアレク君。久しぶり」


「ええはい。お久しぶりで…………え?」


 久しぶりに会ったミコトさん。

 その姿を見て、何やら僕は言葉に詰まってしまった。


 いや……別にそこまで劇的に変わったわけじゃない。そこまでとてつもない変貌を遂げたわけではないのだけれど……。

 とりあえずは成長……なのか? 確かにナナさんの言う通り、すくすくと成長しているような……。


 というかミコトさん…………太った?





 next chapter:指摘するか否か

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