第467話 ギルドポイント、不正受給作戦――第二弾『ヒカリゴケ』


「というわけで、手っ取り早くギルドポイントを貯めたい作戦――第二弾です」


「おう……」


 再びやってきたギルドの納品所にて、僕はヒゲの受付さんに作戦の開始を宣言した。

 めげずに第二弾である。昨日の薬草ロンダリング作戦は失敗してしまったが、めげずに次弾を敢行かんこうだ。


「で、これか」


「これです。――ヒカリゴケです」


 僕はマジックバッグから取り出したヒカリゴケを、カウンターのトレイにモサッと載せた。

 今回の作戦は至ってシンプル。『ヒカリゴケを納品してギルドポイントをいただいちゃおう』っていう、ただそれだけの作戦だ。


「ヒカリゴケなぁ。ダンジョンでも行ってきたか?」


「え? あー……まぁそうですね。そんな感じですかね?」


 そういえば、この町の近くにもダンジョンがあるんだっけか。

 実はまだ行ったことがないのだけど、確かにダンジョンならばヒカリゴケもたくさん生えている。そのヒカリゴケだと思ったのだろう。


 ――だがしかし、このヒカリゴケは違う。

 言うまでもなくこのヒカリゴケは――僕のスキルアーツ『ヒカリゴケ』で生やした苔である。


 アーツで生やした苔ではあるが、質的には天然のヒカリゴケと違いはなく、そのまま素材として使える代物だ。一応はちゃんとしたヒカリゴケであり……売っても詐欺にはならないはず。

 はてさて、こいつを納品できるか否か。そして、ギルドポイントを獲得できるのか否か。


「それで、納品ってできますかね? まだ光っていますし、新鮮なヒカリゴケですよ?」


「あー、まぁ構わないぞ? 買取額はだいぶ渋いものになっちまうが」


「ふむ。やっぱりダンジョンが近くて、すぐ手に入るからでしょうか?」


「それもあるが、そもそも需要じゅようがな……」


「むぅ……」


 一応ヒカリゴケは薬の材料にもなるらしいんだけどねぇ。

 回復魔法があるこの世界では、そもそも薬の需要があんまりないか……。


「まぁポイントさえ入れば僕はそれで満足です。査定をお願いします」


「わかった。そうだな、この量だと――」


「――ふむふむ。大丈夫です。それで構いません」


 構わない。全然構わないんだけど……想像していた以上に安く買い叩かれたな。とても新鮮な採れたてヒカリゴケだというのに……。

 まぁいいや。重要なのはポイントだ。この額からすると、やっぱりちょっと期待できなそうな予感もするが、果たしてどうなるか。


 僕はすずめの涙程度の報酬をマジックバッグにしまってから、ギルドカードを取り出し、魔力を流す。

 結果は果たして――


「どうだ?」


「……変わっておらんです」


「そうか……」


 1ポイントも入っていなかった。更新前と更新後で、カードに記載されているギルドポイントは何一つ変わらなかった……。


 薬草ロンダリングに続き、今回も失敗か……。

 買った薬草はダメだったけど、自ら生み出したヒカリゴケならいけるんじゃないかって、そんな期待をしていたのだけど……。


 やっぱりこれでもポイントの取得条件には合致しないのかな? アーツでちょちょいっと作って納品したくらいじゃ、冒険者として活動したうちには入らない? そんな評価がされてしまった?


 うーむ。初めて『ヒカリゴケ』が輝くときがきたかと思ったのにねぇ。

 やっぱり『ヒカリゴケ』は、結局なんの役にも立たないスキルアーツなのだろうか……。


「――もしかしたら、一応はポイントが入っていたかもしれないけどな」


「はい? どういうことですか? カードの表示は変わりませんでしたよ?」


「1に満たない分が加点されているかもしれん」


「むむ?」


 む、それはつまり……一応は加点があったけど、小数点以下だった可能性?

 1ポイントはなかったけれど、0.5ポイントくらいはあったかもしれない。――そういうこと?


「それって、切り捨てですか?」


「いや、違うらしい。カードには表れないが、1以下の数字も設定されているそうだ」


 ほうほうほう。表示しないだけで、ちゃんと計算はしてくれているのか。

 ということはもしかして、今のヒカリゴケをもう一度納品すれば、合計で1ポイントに届く可能性もあったりする?


「ヒゲの受付さん」


「うん?」


「実はまだまだたくさん『ヒカリゴケ』があってですね。これらの『ヒカリゴケ』も納品していいですか? 全部新鮮な『ヒカリゴケ』ですよ? 『ヒカリゴケ』なんです」


「おおぉ……」


 マジックバッグから取り出すフリをしながら、僕は『ヒカリゴケ』の呪文を唱え、ヒカリゴケを生んではトレイに、生んではトレイにを繰り返した。


 僕がヒカリゴケを生み出せることは一応隠しておこう。

 これで簡単にギルドポイントを獲得できるとみんなにバレたら、僕の『ヒカリゴケ』が狙われるやもしれん。金の卵を産むガチョウになりかねん。


 というわけで、こっそりヒカリゴケを生み出しながらトレイに積んでいく。

 こっそり密かにヒカリゴケ。――つまりは密造。密造ヒカリゴケ作戦!


 ……ロンダリングやら密造やら、字面だけ見ると、だいぶろくでもない作戦に思える。

 まぁいい。どうせ実際にろくでもない作戦なのだ。兎にも角にもポイントさえ獲得できれば、僕はそれだけで――


「おい待て、もういらない。もうそれ以上は買い取れない」


「……え? 買い取れない? 何故ですか?」


「だから需要がないんだって……」


「需要が……」


 まだちょっとしか出していないのに……。

 というか、実際そこまでの量は納品していないはずだが……。そんなに需要がないの? 僕がちょっと納品しただけで、もう満たせちゃうくらいの需要なの?


 ぬぅ……。このまま僕の魔力が切れるまで納品してやろうと思ったのに……。

 なんだったら、魔力回復の薬草を食べながら延々と納品することまで考えていたのに……。


「で、買取額なんだが――」


「わかりました。金額はそれでいいです。それでいいので――もうちょっとだけ追加で『ヒカリゴケ』を引き取ってください」


「え……?」


「その分の代金はいらないです。ですから『ヒカリゴケ』を」


「お、おい」


 とりあえず納品だけはさせてくれんかな。

 納品したって事実さえ残れば、その分は評価してくれるんじゃない? その分ポイントもらえたりしない?


 そんなことを考えた僕は、追加でもう少しヒカリゴケを出し、トレイに積んでいく。

 積み重ねて積み重ねて――ヒゲの受付さんに『もうやめろ!』と腕を掴まれるまで増やしていった。


 さぁどうだ。そこそこの量は収めたぞ。ヒゲの受付さんに無理を言って、どうにかこうにか収めさせてもらったぞ。

 果たしてこれで、1ポイントでも得られたのかどうか――


「どうだ?」


「……変わっておらんです」


「そうか……」


 ダメだった。1ポイントも増えていなかった……。


 ダメかー。なんでだろう。ヒカリゴケのポイントが想像以上に低くて、0.01ポイントくらいしか貰えなかったのか、それとも結局は0ポイントだったのか。

 その辺りはわからないけど、どっちにしろ密造ヒカリゴケ作戦も失敗な模様。もうヒカリゴケも受け取ってもらえないだろうし、受け取ってもらえたとしても、ほとんどポイントを得られないのは確定してしまった。


「残念です」


「まぁそんなに気を落とすな。これでわかっただろ? 俺が思うに、やっぱり地道にコツコツ冒険者活動を続けていくことこそが、結局は一番の近道――」


「とりあえずまた来ますね。次こそもっと上手い方法を――別の抜け道を探してみせます」


「…………」





 next chapter:緊急クエスト

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