第466話 ギルドポイント、不正受給作戦


「なんだこれ……」


「薬草ですが」


 納品所でヒゲの受付さんに薬草を見せたところ、いぶかしげな反応をされてしまった。

 まぁ無理もない。だってこの薬草は――


「これ……どっかで買ってきたやつだろ?」


「おっと、それを見抜くとは、さすがですねヒゲの受付さん」


「そりゃあ気付くわ」


 根っこも切られているし、綺麗に洗われているし、言われてみれば確かに既製品だとわかるものかもしれない。

 とはいえ、それにひと目で気付くとは大したもんだ。さすがはヒゲの受付さん。立派なヒゲをたくわえているだけのことはある。


「で、なんだこりゃ? なんだってまた、買ってきた薬草を納品しようとしてるんだ?」


「ええまぁ、いろいろと事情がありまして」


「あれか? うっかり買いすぎちゃったか?」


「買いすぎ? あー、いえ、違います。別にそういうことではなくて――」


 というか、ここ一ヶ月ほどは外で薬草を引き抜く活動ばっかりしていたわけで、買うこともなければ余ることもないよね。……まぁ、今回は買ってきたんだけどさ。


「買いすぎて余ったわけではありません。今回十本ほど薬草を持ってきたのですが、お店で買ったのもこの十本だけです。つい先程買った十本です」


「……うん? えぇと、ついさっき買って、それをそのまま納品しに来たのか?」


「その通りです」


「……なんで?」


 まぁわかるまい。いったいこの行為になんの意味があるのか、それはそれは不思議に思うことだろう。


「実はですね――ポイントが欲しいのですよ」


「ポイント?」


「ギルドポイントです。もっとギルドポイントが欲しいのです。早くランクを上げたいのです」


「あー、確かに以前からアレクはそんなことを言っていたな。『早くEランクに上がりたい。Fランクはイヤだ』みたいなことを……」


 Eランク到達に必要なギルドポイントが3000ポイント。現在200ポイントなので、残り2800ポイント。

 このポイントを、どうやって手っ取り早く稼ぐか考えた結果が――薬草の自腹購入である。


「今までは、一生懸命自分で薬草を採取して納品してきたわけですが、それでは採取できる量にも獲得できるポイントにも限界があります」


「まぁ、そうかもな」


「であれば――買ったらいいじゃんって」


「うーん……」


「買えるのなら買ったらいいのですよ。わざわざ町の外に出てモンスターと戦いながら薬草採取だなんて、大変じゃないですか」


「むしろ、それこそが冒険者な気がするんだが……」


「…………」


 ……それはまぁ、確かに冒険者のランクを上げたいとかなんとか言っておきながら、冒険者を全否定してしまったような気がしないでもない。


「とにかく、これでポイントを貰えたら楽でいいなと思いまして、雑貨屋さんで薬草を買ってきた次第です」


「雑貨屋か……。雑貨屋で買って、ギルドに納品……何をどうやっても赤字だよな?」


「でも、それでギルドポイントが貰えるのならば」


 それなら僕は構わない。全然構わない。なにせ金ならあるのだ。

 雑貨屋さんもギルドも儲かるし、僕もギルドポイントを貰える。ならばいいじゃないか。


 雑貨屋さんで僕が薬草を買い、僕が薬草をギルドに納品し、ギルドが雑貨屋さんに卸す。そしてその薬草を僕が再び買う。

 ――そんな循環じゅんかんが行われるわけだ。薬草ロンダリングである。ちょっと面白い。


 ふと思ったのだけど、今日買ってきた十本の薬草の中にも、僕が採取して納品した薬草がすでに含まれているかもしれないね。それもちょっと面白い。


 さておき、この薬草ロンダリングによって僕は大量のポイントをゲットし、手っ取り早くEランクへたどり着こうと――


「……しかしだな、たぶんこれじゃあポイントは貰えないんじゃないか?」


「むむ? 貰えませんか? ――あ、もしかして、もうやった人がいるんですかね? それでダメだったとか?」


「いないいない。こんなことをしようとするアホはいないだろ」


 おや? 遠回しに僕がアホだと言われている?

 遠回しに……いや、あんまり遠回しでもないな。ストレートにアホだと言われておる。


「俺が思うに、ギルドポイントっていうのは冒険者としての活動を評価するポイントなんだよな。『薬草を納品して1ポイント』というよりも、『薬草を採取した行動に1ポイント』って印象だ」


「ふーむ。そういうもんですか……」


 そういえばクリスティーナさんも似たことを言っていたような気がする……。

 それでいうと、確かに冒険者的な活動は何一つしていない今回の作戦ではあるが……。


「とはいえ、もう買ってきちゃいましたからね。物は試しということで、精算お願いします」


「まぁ構わないけどな……」


 ヒゲの受付さんはそう言って、薬草をチェックしてから査定額を提示した。

 僕もそれに了承し、報酬を受け取る。


「ありがとうございます。それじゃあ早速ポイントをチェックしたいと思います」


「おう。どうなんだろうな。難しいんじゃないかって予想はしたものの、ちょっと気にはなる」


 さぁさぁ、ここからが本番だ。ヒゲの受付さんも期待している。僕のポイントは増えているのか否か。


 僕は自分のギルドカードを取り出し、現在のポイントを確認してから、カードに魔力を流す。

 結果は果たして――


「どうだ?」


「……変わっておらんです」


「そうか……」


 ギルドカードに表示されたギルドポイントの数値は、更新前と何一つ変わっていなかった。失敗である。

 んー。ダメかー。薬草ロンダリング失敗かー。


「……残念だったなアレク。まぁそう気を落とすな」


「ええはい、ありがとうございます。お手数おかけしました」


 しょんぼりと落ち込む僕を見て、ヒゲの受付さんも心なしか残念そうにしている。


 ……でもまぁ、ヒゲの受付さん的には朗報だよね。

 もしもこれが成功していたら、雑貨屋さんで購入した薬草を大量にギルドへ持ち込む僕が連日現れていたのだ。

 そしてヒゲの受付さんも、その査定作業に連日追われていたことだろう。2800本の薬草である。何気に結構な無限薬草地獄の危機に瀕していたのだ。何気に九死に一生を得ていたのであった。





 next chapter:ギルドポイント、不正受給作戦――第二弾『ヒカリゴケ』

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