第458話 クリスティーナ先生の薬草講座
検問までやってきた。
町の中を進み、こうして検問までたどり着いたアルティメット・ヘズラトボンバーズとクリスティーナさんであったが――
「……面白いことになっているわね」
「…………」
門番のケイトさんが、ヘズラト君に乗るクリスティーナさんを不思議そうに見ている。
その視線に、クリスティーナさんは居心地が悪そうにしている。
「いつも一人のあなたが、仲間といるのは珍しいわね」
「まぁ、そうかもな」
「しかも何故か大ネズミに乗って」
「それは……」
「とりあえず降りなさい。検問なので」
「ん、それもそうか……」
指示に従い、大人しくヘズラト君から降りるクリスティーナさん。
僕としては『いつも一人のあなた』の部分に、ついつい反応してしまった。『そんな! その言葉はあまりに
しかし当のクリスティーナさんはこれといって反応を示していない。僕が過剰に反応しただけであったか。
「もしかして、アレク君達のパーティに入ったの?」
続いてケイトさんはそんな質問を投げ掛けてきた。
その問いに対し、僕は――
「そうです」
「違ぇよ」
「むー、むー」
うん、まぁ違うか。個人的にクリスティーナさんのパーティ加入は大歓迎なので、ついつい肯定してしまった。
「失礼しました。えぇと、今回クリスティーナさんに依頼を出しまして、それで同行してもらっているのです。――まぁこれを機に、できたらアルティメット・ヘズラトボンバーズへ加入していただきたい気持ちもあったりするのですが」
「ふぅん? そうなのね」
「しかし、クリスティーナさんはどうにも恥ずかしがっている様子で――むー、むー」
台詞の途中で、またしてもむーむー言わされてしまった。
というか、こういう余計なことを言うから加入してくれないんじゃないかって説もある。
「失礼しました。とりあえずそういうわけで、『薬草採取の指導』という依頼をお願いしている最中です」
「薬草採取? あ、ということは、もしかして前回は……」
「結局ただの――あー、薬草ではなく、薬草モドキでした」
危うく『ただの草』と言ってしまうところだった。再びスカーレットさんやジスレアさんが錯乱してしまうところだった。
「そうなの。それは残念ね……」
「ほんに残念です。そんなこともあり、どうせなら一から薬草のことを学ばせてもらおうと、クリスティーナさんを頼った次第であります」
孤高の冒険者クリスティーナさんは、薬草にも大変詳しいそうなので。
「なるほどね、今度は薬草がちゃんと見つかるといいわね。――じゃあチェックをするから、カードを提示してちょうだい?」
ケイトさんの言葉に従い、各々がギルドカードを取り出す。
そして、まず最初にクリスティーナさんがカードを…………なんだあれ。
クリスティーナさんが取り出したギルドカードは、キラキラと輝く無色透明のカードだった。
あれは……カードが平面じゃないんだな。表面が
「相変わらず見づらいわね……」
「仕方ねぇだろ……」
キラキラしすぎて、むしろ文字は読みづらいらしい。なんだかちょっと残念ね……。
それにしても……あれは冒険者ランクいくつくらいで貰えるカードなのだろう? あれだけキラキラ輝くゴージャスなカードなら、結構な高ランクなんじゃないの?
さすがに勇者スカーレットさんより上ってことはないのだろうけど、クリスティーナさんもかなりの高ランク冒険者な予感がする。
ふーむ。美人で優しい冒険者さんってだけで勧誘したのだけど、しっかりとした実力もある高ランク冒険者さんであったか。
――こうなると、ますますもってパーティへ加入していただきたい。
入ってくれんかなぁ。なんだかんだで依頼も受けてくれたし、ヘズラト君にも乗ってくれたし、わりと押しに弱そうな雰囲気があったりするんだけど……。
一生懸命お願いしたら、どうにかならんかな……。なんかこう、土下座して頼んでみたら、そこそこお願いを聞いてくれそうな雰囲気があったりなかったり……。
◇
町を出た僕らは、近くの原っぱまでやってきた。
前回薬草を探したときの原っぱである。結局ここには薬草があったのかなかったのか、それが少し気になったので、ここを希望した。
「じゃあこれから薬草を探すわけだが――その前に、薬草についていろいろ説明しておくか」
「はい、よろしくお願いします」
クリスティーナ先生の薬草講座。ありがたく拝聴しよう。
「そもそも薬草ってのは、大きく分けて二種類ある」
「ほう、二種類」
「怪我を回復する薬草と、魔力を回復する薬草だな」
ふむふむ。まぁそうだな。その二種類だ。それは知っている。
「――ハッ!」
「え?」
「魔力! 魔力を回復する薬草!」
「えぇと?」
一緒に講座を受けていたスカーレットさんが、何やら急に興奮し始めた。
何? なんなの? 魔力を回復する薬草がどうかしたの?
「魔力回復の薬草は――ジスレアにも関係あるじゃないか!」
「はい?」
「さも『私は関係ありません。私がわからないのは当然です』みたいなことを言っていたけど、魔力用の薬草は関係あるだろう! 使ったこともあるはずだ!」
「あぁ、そういえば確かに……」
前回薬草を探しに来たとき、ジスレアさんは――『私はずっと回復魔法を使ってきた。薬草は使ったことがない。むしろ私は一番薬草に詳しくない自信がある』とかなんとか言っていた。
しかしよくよく考えてみると、確かにスカーレットさんの言う通りだ。ジスレアさんも魔力用の薬草は使っていたはずで、むしろヒーラーのジスレアさんは使う頻度も高そうである。
「どうなんだジスレア!」
「…………」
「あ、おい、なんだその態度は!」
スカーレットさんの指摘に対し――ジスレアさんはプイッとそっぽを向いた。
なんとあからさまな知らんぷりだろうか……。それを見たスカーレットさんは、さらに
「……えぇと、ひとまず落ち着いてくださいスカーレットさん」
「しかしだなアレク君! ジスレアは薬草を使ったことがあったはずで、それなのにわからなくて、そのくせに私のことをタンポポだとバカにしたのだぞ!?」
別にタンポポとバカにしたわけでは……。
というか、やっぱりまだ根に持っていたのか……。
「いったいなんだってんだ……。何を揉めてんだ……?」
「すみませんクリスティーナさん。前にも話した通り、少々パーティが上手くいっていない感じでして……」
解散の危機を迎えているパーティなもので、ちょっとギスっているのですよ……。
「まぁまぁスカーレットさん。ひとまずクリスティーナさんの話を聞きましょう。そして、今度こそしっかり薬草を採取しましょうよ」
「むぅ……。わかった。ここはクリスティーナさんの顔を立てて、こちらも引こう。――ジスレアもちゃんと話を聞くんだぞ? しっかり薬草のことを覚えるように」
「…………」
「この!」
再びジスレアさんはプイッとそっぽを向き、スカーレットさんは
あぁもう。薬草関連のイザコザは、なんとも根が深い。
「もういいか? 説明を続けたいんだが……」
「――ハッ!」
「今度はアレクかよ……。なんだよ……」
「薬草の根は、細くて短いと言っていませんでしたか?」
「そうだけど……」
つまり、薬草は根が浅い……。
薬草は根が浅いのに――薬草問題は根が深い! 浅いのに深い!
「おい、アレク?」
「いえ、なんでもありません。ちょっと関係ないことを考えていました」
結構上手いことを言えたような気もするけど、みんなに披露するほどでもないかな。
「なんでこの状況で関係ないこと考えてんだよ……」
「それはまぁ、そうなのですが……」
でも僕とか、いつもそうなので……。いつも唐突に変なことばかり考えちゃう
「なんていうか……ちょっとはヘズラトを見習えよ」
「え? ……おぉう。さすがはヘズラト君」
クリスティーナさんに言われてヘズラト君へ視線を移すと――紙と鉛筆を手にするヘズラト君が目に入った。クリスティーナ先生の薬草講座を、しっかりメモに残そうとしていたらしい。
さすがだなぁヘズラト君。やっぱりヘズラト君は真面目。とてもしっかりしている。
……あるいは、ヘズラト君以外のメンバーがこんなだからだろうか。
他の面々が騒いだせいで、結局クリスティーナ先生の薬草講座も始まらない現状だ。こんなパーティだから、自分だけはしっかりしないといけないと考えているのかもしれない。一人で真面目に頑張っているのかもしれない……。
やはりヘズラト君だな……。ヘズラト君が、アルティメット・ヘズラトボンバーズ唯一にして最後の良心である……。
next chapter:念願の薬草
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