第454話 本物のボッチ
「あら、おかえりなさい」
「ええはい、ただいま戻りました」
ラフトの町に戻ってきたところで、門番のケイトさんと再会した。
ケイトさんはにこやかに話し掛けてくれたが……残念ながらこちらとしては、笑顔で受け答えできる状況でもないわけで……。
「薬草採取は上手くいった?」
「……パーティ解散の危機です」
「どれだけ上手くいかなかったの……?」
なんかもうビックリするくらい上手くいかなかった。初めての依頼任務に失敗し、冒険者としての第一歩も大失敗だ。
何よりも、チームがバラバラになっちゃったのが問題よね。
なにせ今日だよ? ギルドで登録して、正式にパーティが結成されたのが今日なのよ? それでその当日に解散の危機ってのは……。
「……いえ、正確にはまだ失敗と決まったわけではないんですけどね。とりあえず薬草も一本だけ採取してきました」
「一本だけ?」
「実はどれが薬草かよくわからなくて、それで一本だけ」
「あー、そうなのね。…………え、それなのに薬草採取へ出発したの?」
「ええまぁ……」
やっぱりそれが一番の反省ポイントだな。事前にしっかり調べておくべきだった。
それなのに僕ときたら、よくわからないまま出発して、結局よくわからなくて帰ってきてしまった……。
「そんなこんなで現場ではいろいろと混乱がありまして……。もうこうなったら雑貨屋さんで薬草を購入し、それをギルドに納品してしまおうかという話もあったのですが……」
「なんの意味があるのそれは……」
薬草採取の依頼達成っていう、その目標だけはクリアしたことになるんじゃないかなって……。その事実だけは残るんじゃないかなって……。
「ですがそれでは――」
「冒険者としての第一歩ではない」
……とのことだ。冒険者としての第一歩に関して厳格なジスレアさんから、そう指摘されてしまった。というか、僕もそう思う。
「そういうわけで、最終的にはスカーレットさんが見付けてくれた薬草っぽい草を一本だけ採取して帰ってきました。これを納品してみるつもりです」
「ふーん? ちゃんと薬草だといいわね」
「そうですねぇ。本当にそう思います」
これがちゃんと薬草であったならば、いろいろと
結果的には初めての依頼任務も
そんな願いが込められた――そんな希望が託された草。薬草っぽいこの草。是非とも薬草であってほしい。ギルドの納品所でも、薬草だと判定が下されてほしい。
どうかギルドの納品所で――
「『それはただの草です』なんて言われないといいけれど」
「あっ……」
クスリと笑いながら、ケイトさんがそんな冗談を飛ばしてきた。
しかしケイトさん、それは……。そのセリフは……!
「君もかケイトさん! なんてことだ! やはりヘズラト君だけだな!」
「キー……」
「フヒューフヒュー」
あぁ、やはりこうなってしまったか……。
ケイトさんのセリフによって、スカーレットさんは
「え、あの……。な、何か変なこと言っちゃった……?」
タブーなのですよ。その言葉が元で、アルティメット・ヘズラトボンバーズは解散の危機を迎えているのですよ……。
……とはいえ、ケイトさんは何も知らなかったのだ。これはしょうがない。ケイトさんは悪くない。
「いえ、なんでもないです。どうかお気になさらずに」
「そ、そう? ……なんというか、ずいぶんと情緒不安定なパーティね」
なにせこちとら、解散の危機を迎えたパーティだからねぇ……。
◇
散々だった薬草採取が終わった翌日――僕とヘズラト君は冒険者ギルドまでやってきた。
「ありがとうねヘズラト君、付いてきてくれて」
「キー」
今回ギルドに来たのは僕とヘズラト君だけだ。スカーレットさんとジスレアさんは付いてこなかった。
これから納品所で薬草っぽい草を見てもらう予定なのだけど、『それはただの草です』と指摘されることを恐れて、二人は同行を拒んだのだ。
……まぁ実際にそんなことになったら、例のごとくスカーレットさんは嘆き、ジスレアさんは震えてしまうのだろう。そう考えると、むしろこれでよかったような気がしないでもない。
とはいえ、できたらギルドまでは二人に付いてきてほしかったかな。
やはり冒険者ギルドといえば、荒事に慣れた荒っぽい冒険者達がたくさん集まる場所――むくつけき冒険者どものたまり場という印象がある。
結構な偏見な気もするが、どうしてもそんなイメージが消えないため、スカーレットさんとジスレアさんの不在はなんとも心細い。
「さて、それじゃあ入ろうか」
「キー」
いくら心細いとはいえ、いつまでもギルドの前でまごまごしていても仕方がない。そろそろ中へ入ろう。
いやはや、ヘズラト君が付いてきてくれたことだけが救いだね。
僕は隣のヘズラト君を頼もしく思いながら、冒険者ギルドの扉に手を掛け、ヘズラト君と一緒に中へ入った。
「むむ……」
……微妙に注目を集めている。僕達が中へ入った瞬間、ギルド内がちょっとざわついた。
まぁ謎の仮面と謎の大ネズミだからねぇ。そりゃあ気にもなるか……。
だけどそうも見られると、こちらとしても気になってしまう。
むくつけき冒険者どもの視線に、僕が居心地の悪い思いをしていると――
「キー」
「ヘズラト君……」
冒険者達の視線から僕を守るように、ヘズラト君がスッと移動し、僕の前に立ってくれた。
おぉぉ……。なんだか格好いいなヘズラト君。なんて頼りがいのある子なのか。
前々から頼りになるヘズラト君だったけど、昨日今日と、その頼りがいが留まる所を知らない。
……しかし相対的に僕のダメさっぷりが露呈しているような気もする。なんだこれは。僕はなんなのだ。僕はいったいどういうポジションなのだ。
いや、気持ちは嬉しいよ? 僕を助けようとしてくれるヘズラト君の気持ちはとても嬉しいのだけどね?
「ありがとうヘズラト君。それじゃあ移動しようか」
「キー」
ヘズラト君に声を掛けて、ひとまず僕達はこそりこそりとギルド内を進む。
「えーと、あっちかな。確かあの扉の向こうが納品所だと思った」
「キー?」
「うん、クリスティーナさんに聞いたんだ」
「キー」
「そうそう、僕にいろいろ教えてくれた冒険者さん」
そういえば、ヘズラト君はクリスティーナさんと会ったことはなかったんだっけ。
クリスティーナさんと会ったのは、僕が初めてギルドに訪れたときのことだ。あのときヘズラト君はいなかった。
「とても親切な人でね、なんでもソロで活動している冒険者さんらしいよ?」
ソロの冒険者。……その部分に関して、僕があれこれ余計な茶々を入れて、クリスティーナさんにとっちめられる流れができていたっけか。
でもまぁ――実際のところはどうなんだろうね?
親切だし面倒見がいいし美人さんだし、そんな人がボッチとか、ありえるのかな?
姉御肌な美人冒険者さんとして、普通に友人知人は多いんじゃないかなって、内心そんなことを思ったりも――
「……ハッ」
「キー?」
噂をすればなんとやら、今まさに話していたクリスティーナさんをギルド内で発見した。
クリスティーナさんは、ギルドの食堂で食事をしていた。
――一人で。
一人だけで、食事をしていた。
「ボッチ飯……」
じゃあ、もうそうじゃん……。
そうなったらそれはもう、本物のボッチじゃん……。
next chapter:薬草か、ただの草か
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