第448話 拳で決着をつけよう
宿に戻ると、ジスレアさんがヘズラト君のブラッシングをしていた。
ヘズラト君は床にベタッと伸びていて、されるがままだ。
ブラッシング――まぁ実際には必要なかったりもする。ヘズラト君は再召喚すればピカピカになって戻ってくるので、ブラッシングする必要はないのだ。
とはいえ、ヘズラト君的には気持ちが良いものらしいので、時々僕もブラシでとかしてあげている。
「ん、おかえり」
「キー」
「ただいま戻りました」
「戻ったぞー」
こちらに気付いたジスレアさんとヘズラト君に挨拶をしながら、僕とスカーレットさんも部屋に入った。
「どうだった?」
「はい?」
「パーティ名の登録、どうだったの?」
「あー……」
のっけから、答えづらい質問が飛んできたな……。
いったいどう答えたらいいものか……。
「……ええまぁ、ちょっとダメでしたね。ジスレアさんの言う通り、名前が長すぎるとのことで」
「そう。やっぱり」
「残念です。――まぁ僕とスカーレットさんも、薄々は予想していましたが」
「……そうだった? 自信満々で出ていったような気がしたけど」
ちょっと見栄を張った。実際には全くの予想外で、自信満々で宿を出発した僕達だったが、『それ見たことか』と言われるのも悔しくて、ちょっとだけ見栄を張った。
「――さておき、仕方がないので例のパーティ名は諦めて、短めなのにしたいと思います」
「じゃあまた最初からやり直し?」
「んー、帰り道でスカーレットさんとも話したのですが、とりあえず今のパーティ名をバラして、そこから選ぼうかなと」
今のパーティ名は、候補を全部つなげて作ったものだ。
名前の候補を全部つなげる――いわゆるナナ山田方式で作ったパーティ名だ。それを全部元のパーティ名にバラし、そこから選ぼうと思う。
「というわけで――ひとまず紙に書き出してみましょうか」
僕はテーブルに紙とペンを取り出し、パーティ名を書き出していく。
現在のパーティ名が――『真紅と深緑の勇者と聖女と至宝と愉快な仲間達 ~ヴァーミリオン・ルール・ビリジアン・トラジェディ・クリムゾン・セレスティアル・パニッシュ・エメラルド・レイジー・アービトレイト・ミレニアム・アルティメット・ヘズラトボンバーズ2023~』である。
それをひとつひとつ分解していくと――
『真紅の旅団』『深緑の猟団』『勇者と聖女と至宝と愉快な仲間達』『ヴァーミリオン・ルーラー』『ビリジアン・トラジェディ』『クリムゾン・セレスティアル・パニッシャー』『エメラルド・レイジー・アービトレイター』『ミレニアムズ』『アルティメット・ヘズラトボンバーズ』『2023』
「『2023』だけでパーティ名なのかな?」
こちらを覗き込んでいたスカーレットさんから、そんな質問が飛んできた。
「そうしようかなと。とりあえず『チーム2023』とかで――いえ、『TEAM2023』にしましょうか」
うん。どことなくプロレスのヒールユニットっぽい感じもして、悪くない。
「あとはそうですね、まぁ一応……」
追加で『アレクパーティ』の文字をサラッと書き加えた。
「こら」
「はい」
怒られてしまった。とてもシンプルな言葉でスカーレットさんに怒られてしまった。
「何をしているんだアレク君。何をサラッと付け加えているんだ。自分の名前は禁止だと約束したじゃないか」
「まぁまぁ、スカーレットさんのも足しますから」
「むむ? ふむ、それならまぁ……」
さらに追加で『スカーレットと愉快な仲間達』と書き加えたところ、さっきまでおかんむりだったスカーレットさんがスッと引いた。
「ジスレアさんはどうします? ジスレアさんのも何か足しましょうか?」
いつの間にかヘズラト君のブラッシングを再開していたジスレアさんにも、せっかくなので尋ねてみたのだが――
「私は別にいい」
「そうですか……」
相変わらず、パーティ名に関しては冷めているなぁ……。
「でもまぁ、一応それっぽいのを足しておきますね」
「んー」
ジスレアさんの気のない返事を聞きながら、サラサラっと適当に書き加える。
ジスレアさん主体のパーティ名――『ジスレアの祈り』。うん。それっぽい。
「ヘズラト君はどうしようか?」
「キー」
「そう? そうかぁ、ヘズラト君は慎み深いなぁ」
ヘズラト君も遠慮するとのことだ。
『すでにヘズラトボンバーズなる名前もありますし……。というより、その名前も辞退したいのですが……』てなことを言っている。
「でもまぁ、一応足しておくね」
「キー……」
僕は紙に『フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世
あれ? しかしこれだと、当のフリードリッヒ君も親衛隊のメンバーになっちゃうのか?
……まぁいいや。細かいことは気にしない。
「なぁアレク君、『フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世』とはなんだろうか?」
「あ、そういえばスカーレットさんには言っていませんでしたか。この『フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世』は、僕がヘズラト君に付けた名前です」
「んん? どういうことだ? ヘズラト君はヘズラト君だろう?」
「実はですね、みんな自由に命名したりしているんですよ。旅の間は『ヘズラト』で通しているんですが、僕は『フリードリッヒ・ヴァインシュタイン二世』と命名しました」
「なんだと……?」
「確か――父は『ダモクレス』、母は『イチゴ』、リザベルトさんは『レモン』でしたっけかね?」
「知らなかった。……知らなかったんだが!?」
スカーレットさんが、わなわなと震えている。
そこまで動揺することなのか……。
「――すまなかった。今まですまなかったヘズラト君。待っていてくれ、すぐに私もヘズラト君の名前を考えるから」
「キー……」
スカーレットさんはブラッシング中のヘズラト君に駆け寄ると、ほっぺのあたりをわしわしと撫でながら、力強くそんなことを宣言した。
そしてスカーレットさんは「何がいいかな? カーマイン? マゼンタ? ストロベリー?」なんて頭を悩ませている。
やはり赤系統の名前が付けられるらしい。ストロベリーになったら、若干母とかぶるな。
「それでアレク、その中からどうやってパーティ名を決めるの?」
「ですね。そこが問題です」
「アレクとスカーレットは、それで散々揉めてた」
「ええはい……」
ジスレアさんの言う通りだ。散々揉めて決められなくて、それでナナ山田方式を採用した経緯がある。
「おそらくですが……もはや話し合いで決めることは不可能でしょう」
「じゃあどうするの? 拳で決着をつける?」
「…………」
突然何を言うのか……。
撲殺勇者様と拳で決着をつけろと? 撲殺されてしまうわ。
「私はそれで構わないぞ?」
僕は構う。だいぶ構う。
「もうちょっと平和的に決めたいと思います。平和的に――くじで決めたいと思います」
「くじ? 箱に入れて、それから一つ引く感じ?」
「そうですね、それでもいいんですけど……」
まぁそんな感じで選んでもいいだろう。何か適当な箱でも用意して……ティッシュ箱があればな。
そうしたらいろいろと細工して、ちょっとズルして『アレクパーティ』を引くこともできたかもしれないが……。
とはいえ、この世界にはティッシュ箱がない。僕のポケットティッシュ能力でも、ティッシュ箱を出すことはできない。というかそもそもズルはよくない。
さておき、箱に全部の候補を入れて、そこから引くのでも構わない。あるいは、あみだくじとかでも構わない。
――だがしかし、ここはひとつ、別のくじで選んでみたい。
「やはりここはアレでしょう。僕と言えばアレです」
「うん? 確かにアレクはちょっとアレだけど」
「…………」
そういう意味ではない。というか、どういう意味だそれは。
「そうではなく、やはり僕と言えば――ルーレットです」
next chapter:木工シリーズ第九十二弾『チートルーレット』
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