第447話 パーティ名問題3

『第447話 真紅と深緑の勇者と聖女と至宝と愉快な仲間達 ~ヴァーミリオン・ルール・ビリジアン・トラジェディ・クリムゾン・セレスティアル・パニッシュ・エメラルド・レイジー・アービトレイト・ミレニアム・アルティメット・ヘズラトボンバーズ2023~』の予定でしたが、あまりにも長く、エピソードタイトルに入力できる文字数の上限を超えてしまったため、タイトルを変更してお送りいたします。誠に申し訳ございません。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 いよいよパーティ名の登録である。

 僕とスカーレットさんは冒険者ギルドにおもむき、受付までやってきた。


 そしてギルドの受付員さんに、『真紅と深緑の勇者と聖女と至宝と愉快な仲間達 ~ヴァーミリオン・ルール・ビリジアン・トラジェディ・クリムゾン・セレスティアル・パニッシュ・エメラルド・レイジー・アービトレイト・ミレニアム・アルティメット・ヘズラトボンバーズ2023~』なるパーティ名の登録を――


「申し訳ございません……。そのパーティ名は、登録することができません……」


「……え?」


 できない? できないってのは……え?


「な、なんで?」


「あまりにも名前が長く……」


「…………」


 あまりにも長すぎて、それでは登録できないらしい。

 受付員さんに断られてしまった。


「……どうしましょうスカーレットさん」


「むぅ……」


 僕は隣のスカーレットさんに意見を求めた。

 スカーレットさんも困惑している様子だ。


「これは……予想外だね」


「ええ、本当に……」


「確かにジスレアも、『名前が長すぎて登録できないと思う』とは言っていたが」


「言ってましたね」


 それが、今ここにジスレアさんがいない理由だったりする。『どうせ登録できないから』と、ギルドには付いてこなかったのだ。


 というか、改めて考えると……。

『パーティ名が長すぎて登録できない』とジスレアさんに言われたのに――

『パーティ名が長すぎて登録できない』ことを予想できなかったわけだ。


 なんだろうねこれ。僕達は何をやっているのか。

 あるいは、認めたくなかったのだろうか? 一生懸命考えたパーティ名が登録できないなんて認めたくなくて、その可能性から目を背けていたのかもしれない。


「――まぁ待てアレク君。諦めるのはまだ早い。私がどうにかしよう」


「と言いますと?」


「この私が、受付員さんを上手いこと説得しようじゃないか」


「なるほど」


 本人を目の前にして『上手いこと説得する』とか言っちゃうのは、そこそこ悪手な気もするが。


「さて受付員さん、どうも私達のパーティ名は登録できないとのことだが」


「えっと、はい、申し訳ございませんが……」


「どうにかならないだろうか。私が頼んでもダメなのかな? 私が頼んでいるというのに? なにせ私だよ? ――私は勇者なんだが?」


 おぉ、出た。伝家の宝刀、勇者の威光だ。

 なるほどなるほど、ここで権力をチラつかせるか。


 さぁどうなる。意外と通用しないことも多い勇者の威光だが、果たして――


「……申し訳ございません」


「ぐぬ」


 失敗である。受付員さんには、勇者の威光が通じなかった。


「私は勇者だというのに……ダメなのか? あ、それはアレかな? もしかして、アレク君がFランクだからかな? 勇者とFランクで、価値が相殺そうさいされちゃうとか?」


 ひでぇなおい。


 なんか僕のせいにしようとしてきた。あろうことか、僕に責任をなすりつけようとしてきた。

 というか、Fランクのことをあんまり言ってほしくないのだけど……。


「まぁ落ち着いてくださいスカーレットさん」


「しかしアレク君……」


「どうやら受付員さんは、権力には屈しないタイプの人らしいです。残念ながら勇者の威光の効き目は薄い模様」


「むーん……」


「であるならば、僕にお任せください。――僕が上手いこと受付員さんを説得してみせます」


 スカーレットさんにそう伝えてから、僕は受付員さんと向かい合った。


「というわけで受付員さん、僕達のパーティ名は登録できないとのことですが」


「はぁ……」


「わかりました――お金を払います」


「…………」


 こっちも伝家の宝刀だ。タダとは言わない。金だ。金は払う。


 さぁどうなのだ受付員さん。権力で解決できないのなら――金で解決しようじゃないか。


「申し訳ございません……」


「ぐぬ」


 権力に屈せず、金でも転ばないとは……。

 なんだこの人。ちゃんとしている。


「そういうことではなくてですね……。私どもでは、どうにもできないのです」


「どうにもできない?」


「そもそもの話として、ギルドもギルドカードもギルドカードの魔道具も、創造神様よりいただいたものです」


 創造神様? ディースさん?

 あ、そういえばクリスティーナさんが言っていたな。カードをダス魔道具は誰かが作った物じゃなくて、創造神様からの贈り物だと、そんな話を聞いた気がする。


「私どもは、創造神様よりいただいた魔道具を操作することしかできません。そしてこの魔道具は、長いパーティ名を登録できないようになっているのです」


「あー。そうなんですか……」


 つまり、システム的にできないってことか。

 パーティ名には文字数制限があって、ディースさんがそう設定したわけだ。


 ディースさんか……。ふむ……。


「……試しに、一回登録してもらえませんか?」


「はい?」


「それで登録できなかったら諦めますので、試しに一回」


 ふと思ったのだけど、ディースさんが制限を決めたというのなら――ディースさんが制限を解除することもできるのではないだろうか?


 たぶんディースさんならできるよね?

 でもって僕は、ディースさんから寵愛ちょうあいを受けている寵児ちょうじ。そしてディースさんは、今も僕の様子を天界から見ているはず。

 であれば、僕のためにちょこっと文字数制限を解除とか、そんなんしてくれたりしないかな?


 うん。試す価値はあると思う。というわけで、一回試しにやってみよう。

 権力では解決できなかった。金でも解決できなかった。であるならば――コネで解決だ!


「……わかりました。それでは、ギルドカードを魔道具に差し込んでいただけますか?」


「ありがとうございます。えーと、こうかな?」


 僕は自分のギルドカードをマジックバッグから取り出し、カードをダス魔道具のスリットに差し込んだ。どうやらパーティ名の登録も、カードをダス魔道具で行われるらしい。

 しかしそうなると、もうカードをダス魔道具でもなくなってしまうような……。


 ……まぁいい。とりあえず今はパーティ名の登録だ。

 さてさて、ディースさんは僕の願いを聞き入れてくれるかどうか。


「では、パーティ名をもう一度よろしいですか?」


「はい。『真紅と深緑の勇者と聖女と至宝と愉快な仲間達 ~ヴァーミリオン・ルール・ビリジアン・トラジェディ・クリムゾン・セレスティアル・パニッシュ・エメラルド・レイジー・アービトレイト・ミレニアム・アルティメット・ヘズラトボンバーズ2023~』です」


「あっ……すみません。ゆっくりお願いできますでしょうか」


 魔道具の裏側をごそごそといじっていた受付員さんが、困った様子を見せた。

 たぶんパーティ名を聞きながら魔道具を操作して入力していたのだろう。そして、途中で追いつけなくなったのだ。


「では、もう一度最初から言いますね?」


「お願いします」


「真紅と深緑の」


「はい」


「勇者と聖女と至宝と」


「はい」


「愉快な仲間達」


「はい」


 お、まだいけるのか。結構入力できるな。

 というか……もうあれじゃない? もう寵児っぷりが発揮されてるんじゃない? ディースさんがシステムに介入して、文字数制限取っ払っちゃっているんじゃない?


 あるいは、いけるか!? このまま最後まで――!


「ヴァーミリオン・ルール――」


「あ、すみません。ここまでのようです」


「…………」


 ディースさん……。


 そうか、ダメか……。まぁそうだよなー。改めて思い返すと、ディースさんってこういうルールとかきっちりしている印象があるよね。

 いつだったか、『いくら息子のためだとはいえ、簡単に神がルールをくつがえすことはよくないわ、神だもの』とかなんとか言われた記憶もある。


 そう考えるとパーティ名の文字数制限も厳格だろうし……もしかしたら、『ディースさんがギルドポイントをサービスしてくれて、あっという間にSランク達成』って目論見も、ちょっと期待薄かもしれんなぁ……。


「どうやら無理そうだなアレク君……」


「そうですねスカーレットさん……」


「このパーティ名は諦めるしかないか」


「全部暗記するの、結構大変だったんですけどねぇ」


「本当になぁ」


 パーティ名を考えるのも大変だったが、それを記憶するのも大変だった。

 二人で一生懸命覚えたのに、それもこれも全部おじゃんだ。


 しかしどうしたものかな……。これでパーティ名問題が、全部振り出しに戻ってしまった。


「ふーむ……。では受付員さん、このパーティ名はダメっぽいので、諦めようと思います」


「そうですか、申し訳ございません……」


「いえいえ、こちらこそ無理を言ってすみませんでした」


 受付員さんは悪くない。というか、むしろこちらこそ申し訳ない。無理難題をふっかけて、さらには僕とスカーレットさんで散々面倒くさい絡み方をしてしまった。


「ではですね、このパーティ名は諦めるとして……とりあえずのパーティ名として、『アレクパーティ』で登録していただけると――――うぉ」


 仮のパーティ名として『アレクパーティ』を伝えたところ、横からスカーレットさんにどつかれた。


「何をするんですかスカーレットさん」


「それはこっちのセリフだアレク君。アレク君こそ、どさくさに紛れて何をしているんだ」


「いえ、仮の名前ですよ。とりあえず付けておこうって、それだけですよ」


だまされないぞ? なし崩し的に『アレクパーティ』で定着させるつもりだろう? 私は騙されない」


「そんな……」


 騙せなかった。見破られてしまった……。


「そういうわけで、今のは取り消しだ受付員さん」


「はぁ……」


「代わりに、『スカーレットと愉快な仲間達』と登録を……」


 ……時々思うんだけど、僕とスカーレットさんって似てるよね。

 ダメな部分が、よく似ていると思う……。





 next chapter:拳で決着をつけよう

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