第445話 総集編9 ――すごい称号
ふと気が付けば、自分のスキルやらアーツやらを、ペラペラと事細かに解説してしまった。
いかんな……。そういった情報は他人に話さないのが基本だというのに、調子に乗ってペラペラと……。
これはもうあれだ。――口止め料を払うしかないな。
もうこの際、エルザちゃんに話してしまったのは仕方がない。済んだことなのだから今更どうしようもない。
だがしかし、これから先エルザちゃんがうっかり他の人に僕のことを話してしまわないよう、そこはしっかりお願いしないといけない。
というわけで――口止め料を払おう。
うん、それがいい。そうしよう。
「それで、最後にアレクの称号なんだけど…………え、なんでニチャニチャしてんの?」
「あ、いえ、なんでもないです」
表情に出ていたらしい。名案を思い付いたと気を良くし、ついつい笑ってしまっていたようだ。
……というかニチャニチャて。せめてニコニコにしてくれんかな。
「で、なんでしょう?」
「アレクの称号なんだけど――なんだかすごいわね。すごい称号が並んでいるわ」
「あー、称号ですか」
そうねぇ。こうやって改めて眺めてみると、確かにそんな感じがするねぇ。
なんかすごい人っぽく見える。ただものではないように思える。
「とりあえず一番最初の称号が――『剣聖と賢者の息子』らしいけど?」
「実は僕の父が剣聖で、母が賢者なんですよ」
「そうなの……? すごいわね。すごいじゃないアレク」
「いえいえ、すごいのは両親で、別に僕がすごいわけじゃないですから」
「あぁ、それもそうね。アレクはすごくないわね」
「……ええ、そうですとも」
そうなんだけど……なんか微妙に引っかかるな。『アレクはすごくない』ってのは、別に言わなくてもよかったんじゃないかな?
「ちなみにですが――父は勇者でもあります」
「勇者?」
「エルフ界の勇者。森の勇者とも呼ばれていたらしいです」
「森の勇者……。そうなの、すごいわね。――いえ、アレクではなくて、アレクのお父さんが」
「……ええ、そうですとも」
微妙にエルザちゃんから毒を吐かれてない? 気のせいかな?
「そんな父は、人界でもなかなかの活躍をしていたようなのですが――もしかしたらエルザちゃんも聞いたことがあったりしますか?」
「んん? エルフの勇者の話? どうだったかしら。おぼろげに聞いた記憶が、あるようなないような……」
「父の名前はセルジャンというのですが……どうでしょう? 森の勇者セルジャンに聞き覚えは?」
「森の勇者セルジャン……。ごめんなさい、ちょっとわからないわね」
「そうですか……」
そうか、知らんか……。さすがに人界では、父にそこまでの知名度はなかったらしい。剣聖やら森の勇者やら名前やらの情報を追加で提供してみたけれど、結局はダメだった。
……遠く離れた父に、何やら無駄に恥をかかせてしまったような気もする。少し申し訳ない。
「あ、それじゃあ人界の勇者様のことは知っていますか?」
こっちはどうなのだろう。森の勇者様のことは知らなかったエルザちゃんだが、人界の勇者様は知っているのだろうか?
「人界の勇者。あれでしょ? 確か、『スカーレット』だったかしら?」
「ほう」
スカーレットさんのことはしっかり名前まで記憶していたらしい。さすがはスカーレットさん。知名度も抜群だ。
……そして父の知名度は、スカーレットさんの足元にも及ばないという結果が得られてしまった。
再び父に恥をかかせてしまったようで、重ね重ね申し訳ない。
「……そういえば、その勇者スカーレットがこの町に来ているって噂を最近聞いたわね」
「ほほう?」
この町に到着して一週間ちょっとだが、もうそんな噂が流れ始めているらしい。
すごいなぁスカーレットさん。町に滞在するだけで噂になるのか。
「何やら大ネズミに乗って町の中を移動しているという噂だけど……ちょっと
……うん。それは間違いなく勇者スカーレットさん本人だ。
確かにあまりにも謎すぎる噂だけど、全部事実だったりする。
「それで、勇者スカーレットがどうかしたの?」
「ああ、えっと、スカーレットさんがどうというわけでもないのですが、やはり人界の勇者様と比べると、森の勇者様はあんまり有名じゃないのかなと……」
「それは仕方がないんじゃない? ここは人界なのだから」
それはまぁそうなんだけどねー。でもやっぱり少し悔しいじゃない。息子の僕としては、そんな感情をちょっぴり抱いてしまう。
「森の勇者セルジャンだって、もう人界では活動していないんでしょ? 今は何をしているの?」
「今ですか? 父は今……畜産農家ですかね」
「畜産農家……?」
「田舎でのんびりニワトリを育てています」
「そうなの……。じゃあ今はもう隠居して、ゆっくり余生を過ごしているのね」
余生……。
エルフ的には、まだまだそんな歳でもないんだけどな……。
「そもそもね、森の勇者セルジャンが人界で活動していたのって、いつ頃の話なの?」
「あー……どうですかね。結構前かもしれません。少なくとも僕が生まれてからは、ずっとエルフ界にいるようですし」
「つまり人界での活動は、十八年以上前ってこと?」
「そうなります」
「それじゃあ私が知らないのも無理はないわ。だって私が生まれるよりも、ま――」
「――まぁまぁまぁ。それはともかく、次の称号の話をしましょう」
「え? ええ、別にいいけど……」
僕はエルザちゃんの言葉を遮って、次の話題に移るよう無理やり
だからエルザちゃんは、自分の年齢の話をしないでほしいと言うのに……。
危ないところだった。危うくエルザちゃんの年齢が判明してしまうところだった。
――というよりも、もうすでに致命的な情報を入手してしまったような気がしないでもない。
「それじゃあ次の称号だけど――『ダンジョンマスター』ね。ダンジョンの話はさっきも聞いたけど、こんな称号が付くのね」
「そうですねぇ。ダンジョンマスターらしいです」
一応はダンジョンマスター。ダンジョン作りをマスターしているかっていったら、それは全然マスターできていない僕だけど、とりあえず『責任者』とか『経営者』って意味では、一応ダンジョンのマスター。
そういえばナナさんも僕のことを『マスター』って呼ぶよね。
思えば、初めてナナさんと会ったときの第一声も、『問おう。あなたが私のマスターか』なんてセリフだった気がする。何やら懐かしい。
「で、次ね。これも気になっていたのだけど――『エルフの至宝』」
「あー、はい。エルフの至宝……」
「アレクはエルフの至宝なの?」
「…………」
これはなんて説明したらいいんだろう……。
これを自分で説明するのは、ちょっと抵抗があるんだけど……。
「なんというか、その……エルフ界ではそんなふうに呼ばれているみたいですね」
「そう……」
「ええまぁ、なんかそんな感じで……」
「エルフ界はそれでいいの?」
どういう意味か。
それはいったいどういう意味で投げ掛けた質問なのか。
「とはいえ、アレクは剣聖と賢者の息子で、ダンジョンマスターで、『召喚』スキルなんてものも所持していて……それなら至宝と呼ばれてもおかしくはないのかしら?」
「僕の口からはなんとも言えませんが……」
実際には、『顔が良い』っていう、ただそれだけなんだけどね……。
でもそうだな……。顔が良くて、剣聖と賢者の息子で、ダンジョンマスターで、『召喚』スキルを所持していて、他にもいろんなスキルが揃っていて、木工エルフで、神々の
――ここまで条件が整ってしまうと、確かに至宝と呼ばれてもおかしくはないかもしれない。
であれば、あとは内面的なことも気になってくるわけだが――まぁ問題はないな。僕の内面に問題があるとは思わない。
というわけで、客観的に見ても僕はエルフの至宝になっちゃうわけだ。どこへ出しても恥ずかしくないエルフの至宝。僕的には謙遜したいけど、客観的にはそうなのだから仕方がない。
「それで、最後の称号が――『ポケットティッシュ』」
「……あぁ、それがありましたか」
「これはなんなの?」
「これはですねぇ……」
そうなんだよなぁ。これなんだよ……。
僕が今回の鑑定で一番驚いたのが、このポケットティッシュだ。まさかの称号である。まさかの称号ポケットティッシュ。
なんでこうなってしまったのか。普通にスキルになってくれたらよかったのに……。
とはいえ、一応は僕もスキルじゃない可能性を予想していた。ディースさんがそう言ったからだ。
いや、正確に言えば――そう言わなかったからだ。
ルーレットでポケットティッシュが当たったとき、ディースさんは『スキル』と言わなかった。
『木工』スキルのときも『槌』スキルのときも、ちゃんと『スキル』と言っていた。でもあのときは、『ポケットティッシュスキル』とは言わなかった。
そんなこともあり、最初はてっきりスキルとかでもなく、ポケットティッシュそのものが当たってしまったのかと勘違いした僕だったけど……実際にはそれも違っていて、『ポケットからティッシュを出す能力』であった。
というより、むしろこれは――『僕自身がポケットティッシュになった』ってことだよね。称号ポケットティッシュとは、つまりそういうこと……。
そうかぁ……。僕はポケットティッシュになったのか……。
「アレク? どうしたの?」
「あ、すみません。いろいろと考え込んでしまいまして……」
なんだか自分の中で、よくわからない感情が渦巻いている。
どう伝えたらいいのだろう。どうやったら伝わるのだろう。そもそも自分がポケットティッシュになってしまったときの感情を共有できる相手など、この世界にいるのだろうか。
……まぁいいや。とりあえずエルザちゃんにポケットティッシュの能力を説明せねば。
「それでポケットティッシュなのですが――実際に試したほうが早いですかね」
「試す? この称号で、何かできるの?」
一度エルザちゃんにも体験してもらおう。その方が説明も楽だろう。
「では、試しにエルザちゃんは――僕のポケットに手を入れて、つまんでみてもらえますか?」
「変態ね」
――何故そうなる!
何故にいきなりの変態扱い!
……いや、まぁそれもそうか。
いきなり『自分のポケットに手を突っ込め』と要求してくる人がいたら、それは確かに変態かもしれない。
「失礼しました。あのですね、これは変な意味じゃなくて」
「いったい何をさせようと言うの?」
「いえ、別にそんなつもりもなくて……」
「私にいったい何をつまめと言うの? 何をつまませるつもり?」
というか、できたら『つまむ』って表現はやめてくれんかな。
それだとなんだか……うん、とにかくやめてくれないだろうか。
「とりあえず話を聞いてください。実はですね、ポケットティッシュというのは――」
「えい」
「ちょ」
散々文句を言ってきたわりに、手は突っ込むのか!
というかエルザちゃん、どこを――! あ、困ります! あぁ! そんな――!
next chapter:『パリイ』でラリー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます