第430話 パーティ名問題


「でだ、そろそろカードの説明をするぞ?」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 うん、説明。ギルドカードの説明。……遅々として進まないギルドカードの説明。

 先程からクリスティーナさんは説明しようとしていたのだけど、主に僕のせいで、まったくもって進んでいなかった。


 改めてになるが、僕のギルドカードが――



 冒険者ランク:Fランク パーティ:――


 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:18 性別:男

 職業:木工師


 ギルドポイント:0

 更新日:0日前



 ――こうである。

 ……そしてその内容について、未だに何ひとつ説明を受けていないのが現状だ。

 なんだかクリスティーナさんにも申し訳ないので、そろそろ本当に説明を進めてもらおう。


「とりあえず名前やら歳やら職業のとこはいいな? 別におかしなとこもないだろ?」


「ええ、大丈夫です」


 年齢も職業もあっている。名前もしっかりフルネーム。


「あれだ。アレクは今までカードをもっていなかったから、この町に入るときも鑑定したんじゃねぇか?」


「あぁ、やりましたね。なんか鑑定の簡易版みたいなやつを」


「そのときに出るやつと一緒だな」


「なるほど。そうですね、言われてみれば確かに」


 検問の簡易鑑定と同じように、ギルドカードにも詳細なステータスは表示されていない。

 だからこそ、みんな気軽に検問でギルドカードを提示できるわけか。


「次に冒険者ランクか。アレクはFランクだな?」


「……そうですね」


 そうね、Fランだね……。


「初めてギルドカードを作った奴――つまり冒険者に成り立ての奴は、みんなFからだ」


「なるほど……」


「カードだけ作って冒険者の活動をしないって奴もいるから、Fランクは結構多いんじゃねぇか?」


「あー、そういうこともあるんですか」


 ふーむ。そういう人達は、後になってから『やっぱり少しは頑張ればよかったかな……』みたいに後悔したりしないのかな? そんな学歴コンプレックスならぬ、冒険者ランクコンプレックス。ないのだろうか?

 まぁ冒険者ランクをFからEに上げるくらいなら、年を取ってからでもある程度はなんとかなりそうな気もするけど。


「んで、次にパーティ」


「あ、これもちょっと気になっていました。何やら僕のカードでは空欄くうらんになっていますが」


「冒険者には、パーティを組んで活動する奴らもいるんだけど――というか、そっちの方が普通だな。基本はパーティで活動するもんだ」


 それはそうよね。普通に考えて一人より二人の方が強いし、二人よりも三人の方が強い。三人に勝てるわけない。

 信頼できる仲間がいるのなら、パーティを組んで活動した方がいいに決まっている。


「で、そのパーティを登録できる」


「登録?」


「パーティを組みたい奴らで集まって、受付に行けば、パーティを登録できる」


「ほう、受付で登録ですか」


 ……え、でもそれってなんかメリットあるの?

 登録しておくことのメリットは? 別にわざわざ登録しなくても、みんなで集まって活動したらいいだけじゃないの?


「そのときに決めたパーティ名が、そのらんに表示される」


「パーティ名!」


 そうか、パーティ名か……。

 格好良いパーティ名を名乗れるってのは、確かに大きなメリットか……。


 こういうシステムでもなければ、『パーティ名を付けよう』、『パーティ名を名乗ろう』なんて、なかなか言えないだろう。

 その点、このシステムがあれば――『そういうシステムだから……』、『付けないとダメだから……』と言い訳することができる。


 パーティ名システムという大義名分。この後押しにより、大手を振って格好良いパーティ名を名乗ることができるわけだ。


「確かアレクは、あと二人仲間がいるんだっけか? じゃあその三人でパーティだな」


「ふむ……」


 悩む。これはちょっと悩むね。僕達三人のパーティ名か……。


 でも、よくよく考えると……ジスレアさんもスカーレットさんも、もうすでにパーティ組んでるんじゃないの?

 ジスレアさんは森の勇者パーティで、スカーレットさんは人界の勇者パーティでしょ? それでも大丈夫なの?


「所属するパーティって、変えても大丈夫なんですか?」


「あん?」


「仲間の二人は以前から冒険者で、おそらくすでにパーティを組んでいると思われるのですが」


「あぁ、そうなのか。でも今はアレクと一緒なんだろ? だったら今の三人で組んだ方がいいんじゃねぇか? パーティの変更自体は簡単にできるしな」


「ほうほう。そうなのですね」


 となると――残る問題はパーティ名だけだ。


 さてさて、どうしたものか。今まで僕は、自分達のパーティを『アレクパーティ』と呼んでいた。僕が旅をすることが目的のパーティなのだから、一応はそう呼んでも問題ないはずだ。


 だがしかし……実際にはこっそり呼んでいた。こっそり心の中だけで、『アレクパーティ』と呼んでいた。

 さすがに勇者様や聖女様の前で、図々しく『アレクパーティ』を主張することもできずに、こっそりと自分だけで……。


 そんなわけで僕達のパーティには、未だに正式なパーティ名がなかったりする。

 今までは別にそれでよかったのだけど、これからはそうはいかない。曖昧だった僕達のパーティ名問題が、ついに表面化してしまう……。


 ……あとで会議だな。かなり慎重な立ち回りが要求されることになりそうだ。

 ジスレアさんもスカーレットさんも、パーティ名に対してどういう意見をもっているか見当がつかない。果たしてどうなるか……。


「次に……あん? おい、どうした?」


「あ、すみません。パーティ名について、今から悩んでしまって」


「そんな悩むことか? 別に適当でいいだろ」


「…………」


 冷めているなぁクリスティーナさん……。

 クリスティーナさんは、あんまりパーティ名にこだわらない人らしい。普通は格好良いパーティ名を付けたくなるものだろうに……。


「次は――ギルドポイントか」


「ギルドポイント。とりあえず今のポイントは0ですね」


「まぁ最初は0だな。このギルドポイント、簡単に言うと――冒険者としての活動をすると貯まっていくポイントだ」


「ほうほう、冒険者としての活動を――」


「その活動を――創造神様が評価してくれるわけだ」


「……はい?」


 創造神様?

 え、何? なんの話? 創造神様って、ディースさんのことだよね? なんで急にディースさんが……?


 なんか話の展開に付いていけなかった。二つか三つ、行を飛ばしてしまったかのような感覚に陥った。

 ……衝撃の展開だ。今までかなりゆったりペースの展開だったはずが、衝撃の急展開! ……なような、そうでもないような。





 next chapter:ディースさんと冒険者ギルド

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