第414話 衝撃のDメール


 引き続きの引き続き、ダンジョン話である。


「――そんな感じで、僕とナナさんは共同でダンジョンを管理しています」


「ふんふん」


「なので、僕とナナさんは連絡が取り合えます」


「ふんふん…………んん? なんだろう。なんだかあいだ端折はしょられていないかな?」


 この部分も説明がちょっとややこしい部分なので……。

 どうしたもんかね。共同のダンジョンメニューをどう説明したらいいものか。


「えぇと……ダンジョンマスターになったことで、僕はダンジョンを操作する能力を得ました。そしてナナさんもこの能力を有しています。同じダンジョンを操作する能力を介して、上手いこと連絡を取り合える感じで――」


「――うん。そっか、なるほど」


 僕のつたない説明に、スカーレットさんは納得してくれた。

 実際には全然理解していない顔をしているが、なんか『なるほど』とか言っている。


「……要は手紙みたいなものですね。手紙を一瞬でやり取りできると、そう考えていただけると」


「ふむ、手紙か」


「その手紙を――僕達はDメールと呼んでいます」


 ――Dメール。

 今まで長々とスカーレットさんにダンジョンのあれこれを説明してきたが、結局のところ、伝えたいのはこのことだ。Dメールのことをスカーレットさんに話しておきたかった。


 これを伝えておかないと、ダンジョンメニューの操作やDメールのチェックもままならない。

 毎回こそこそとスカーレットさんから隠れてメニューの操作をするのは、何かと億劫おっくうなのだ。


 思えばジスレアさんにダンジョンマスターのことを話したのも、そういう理由だった。確か第二回世界旅行辺りでジスレアさんには情報を開示したんだっけか。


「では、試しにやってみましょう。――『ダンジョンメニュー』」


 僕は呪文を唱え、目の前にダンジョンメニューを開く。

 そして適当にポチポチとメニューを操作する。


 まぁジスレアさんやスカーレットさんからはメニューが見えないため、傍目はためには相当怪しい人に見えてしまうだろう。

 ちゃんと理由を説明しておかなければ、とてもじゃないが見せられない姿だ。


「あ、この前やっていたのは、その作業だったのか」


「…………はい?」


「今みたいに、虚空を指で押すような不思議な動きをアレク君がしているのを昨日見たんだ。変わったくせだなぁと思っていたのだけど」


 見られていた! 見せられない姿だというのに、しっかり見られていた!


 というか、癖って何よ……。どんな癖よそれは……。


「えぇと、見ていたんですか……?」


「あ、ごめん。見られたくない姿だったのかな?」


「いえ、別に構いませんが……」


 まぁいいさ……。変な癖の子だという誤解が解けたのなら、それでいい。

 そりゃあ見られたくはなかったけれど、見ちゃったのなら仕方がない。


 ……だがしかし、少し気になることがある。

 僕のその姿をスカーレットさんは見たと言うが……。


 ――いったい、いつ見たんだ?


 間違っても見られないよう、一応は僕も気を付けていた。ダンジョンメニューを開くときは、シャワー中とかに済ませていたんだ。

 僕のダンジョンメニューは完璧な防水機能を備えているので、シャワー中でも余裕なのである。


 というわけで昨日の夜営中も、テントの近くに建てた簡易シャワールームでシャワーを浴びながらメニューを確認していたはずだ。

 ……それが、見られてしまったのだという。


 ってことは……。

 え、まさかそれは……。まさかスカーレットさん――!


「ダンジョンメニューだっけ? 昨日の朝、目を覚ましたアレク君がそのワードを唱えた後、何もない空間に手を伸ばしている姿を見たんだ」


 誤解だった! 全くもって誤解だった!


 僕ときたら、スカーレットさんにとんでもない疑いをかけてしまった……。申し訳ない。これはとても申し訳ない……。


「そうでしたか……。それはなんとも、申し訳ございませんでした……」


「うん? いやいや、アレク君がそこまで丁寧に謝ることでもないと思うけど」


 勝手に人のことを、発情した覗き魔扱いするのは、どう考えても丁寧に謝罪すべき案件である……。


 というか、そもそも何をしているんだ僕は……。

 ダンジョン関連の事柄は、基本的には隠すべき大事な秘密だというのに……。ガバガバだ。危機管理がガバガバである。


 なんだかなぁ……。僕は朝方そんなことをやっていたか。

 確かに思い当たるふしはある。朝起きて、なんの気なしに『今何時だろう?』みたいな感じで、とりあえずダンジョンメニューを開いてしまう癖は、前からあったのだ。


 ……あ、うん、癖だ。確かに癖だった。スカーレットさんの言う通り、僕の癖だったね。

 昨日もついうっかり、その癖を出してしまったらしい。


 反省しよう。いろいろと反省しなければいけない。

 どうにも僕は、そういったうっかりとか勘違いとかが、ちょっと多めな気がする。


「――さて、気を取り直してDメールです」


 反省が終わり、改めてDメールについてだ。

 いつものように、トップ画面にメモ帳が出るようダンジョンメニューを開いた。もはやすっかり慣れ親しんだ真・Dメールである。


 そして、試しに何かメールを送ってみようと――


「んん……? え、それは……ええ?」


「なんだか慌ただしいなぁアレク君……。今度はどうかしたのかな?」


「見たところ、ナナさんからDメールが届いていたのですが、これはいったい……」


 メールに何か書こうとしたところ、ナナさんから新しいメールが届いていたことに気が付いた。その内容が……なんとも言えない内容なのだ。

 軽く衝撃の内容と言えるかもしれない。衝撃のDメールを受け取ってしまった……。


 どうしたものか。この件に関して、僕はどう反応したらいいんだ……。


「何か驚くようなことでも書いてあったのかな?」


「父が……」


「ん? セルジャンが?」


狩人かりうどを辞めて、牧場を始めたらしいです」





 next chapter:父さんな、これから牧場で食っていこうと思うんだ

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