第317話 第三回世界旅行


 第二回世界旅行から一ヶ月。

 一ヶ月のインターバルを経て、僕は再び世界へ旅立つ。――第三回世界旅行の始まりである。


「いやしかし、なんだか毎回恒例になってきたな……」


 家族に別れの挨拶をしてから家を出て、こうして村の外まで歩いてきたわけだが、その際に――またしても送別会が開催されてしまったのだ。


 メイユ村とルクミーヌ村の人達が集まってきて、僕の世界旅行を応援されたり、お祝いされたりしてしまった。

 そうして僕は再び、みんなに笑顔で手を振りつつ、村を練り歩くこととなった……。


「まぁ、みんなの気持ちはありがたいけどね……。でもなんか、なんかね……。出店でみせみたいのもあったしなぁ……」


 もはやみんなお祭り感覚じゃないか……。そのうち神輿みこしでも出てきそうな勢いだ。

 そして僕は神輿に乗せられて、村を出ていくことに――


「ん? それも違うか? 神輿ということは……ユグドラシルさんが運ばれていくのか?」


 そこまでいくと、なんかもう僕の旅とは全く関係のないお祭りだな……。


 ……まぁいいや。とりあえずそんな送別会も無事に終わり、僕は村の外まで歩いてきた。

 第一回と第二回では、この後ジェレッド君にお願いして、ジスレアさんを呼んできてもらったわけだが……今回は村の中でジェレッド君をしっかり発見してしまい、別れの挨拶も済ませてしまった。

 というわけで、僕を追いかけてきたジェレッド君にお願いして、ジスレアさんを呼んできてもらうことは叶わない。


 さて、どうしたものか。今回も我が家で待機しているジスレアさんを、どうやって呼べばよいのか――


「まぁ悩むまでもない。ここはDメール――真・Dメールの出番だ」


 一ヶ月ほど前に存在を知った、メニューのメモ帳機能。

 使い勝手の良さそうなメモ帳で、機能的にはDメールとして利用することもできそうだったが――あまりにもメモ帳の場所が複雑だったため、Dメール利用は到底不可能と考えられていた。


 だがしかし、僕とナナさんは特訓の末、どうにかこうにか実用段階まで漕ぎ着けた。

 メモ帳をDメールとして利用する、その方法とは――


「じゃあいつものように、ダンジョン名の下辺りにメモ帳画面が開いているイメージで――『ダンジョンメニュー』」


 こうして開いたダンジョンメニューには――しっかりとメモ帳が表示されている。


 前々からわかっていたことだけど、ダンジョンメニューはかなり自由が利く。かなり自分のイメージを反映した形で出現してくれる。


 僕は普段スマホサイズで使っているのだけど、横長の巨大なメニューを出現させ、壁に貼り付けたこともあった。

 ナナさんなんて、画面とキーボードに分割したメニューを使っていたりもする。


 このように、かなりの自由度を誇るダンジョンメニュー。

 ひょっとして頑張れば、ホーム画面の編集もできるのではないだろうか?


 ――そんなことを考えた僕とナナさんは、共に努力を重ね、ようやくメモ帳くらいならメニューのトップにもってくることができるようになったのだ。


「結構苦労したよね。なんでか知らないけど、電卓とかカレンダーがトップに現れたこともあったし……」


 というか、そんな機能もあったのかと驚かされた僕だったりしたけど……。


 さておき、こうして無事に表示されたメモ帳に、僕は文章を入力していく。

 文面は――


『村の外に出たから、ジスレアさんも出発するようお願いしてくれるかな?^^』


 まぁこんなもんでいいだろう。


 前回の旅でジスレアさんにはDメールのことを話してあるので、ナナさん経由で連絡することができる。

 しばらく待っていれば、そのうちジスレアさんがやってきてくれるはずだ。


 ジスレアさんが来たら――いよいよ世界旅行の出発だ。

 故郷に別れを告げ、世界を知るための旅に出る。


 さらばメイユ村。さらば村のみんな。――さらばジェレッドパパ。

 ごめん。あんまりスキー板作製を手伝えなくて、ごめん。



 ◇



「じゃあ行こう」


「よろしくお願いしますジスレアさん。ヘズラト君も、よろしくね」


「キー」


 ジスレアさんがやってきたので、僕は大ネズミのヘズラト君を召喚し、颯爽さっそうと背中に飛び乗った。

 練習しているだけあって、なかなか格好良く飛び乗れたと思う。


「それで、これから最初に向かうのが――」


「カーク村」


 カーク村。ここから北東にあるという人族の村だ。


 ……もうこのセリフも三回目だな。

 だというのに、結局たどり着けたことがない。どうにか今回こそはたどり着きたいところだけど……。


「あ、そういえばヘズラト君はレベルが上がりまして、レベルが4に、『素早さ』は7になりました」


「そうなんだ。頑張った」


「キー」


 ねぎらうように、ジスレアさんがヘズラト君をわしわしする。


 うん。頑張った。ヘズラト君は頑張っている。

 その頑張りを僕も讃えよう。あっさりと僕の『素早さ』を追い抜いていってしまったヘズラト君だが、嫉妬したりはしない。しないのだ。


「それなら前回より早く着くかもね」


「そうですね。ひょっとすると到着まで二週間を切れるでしょうか?」


 前回は『素早さ』6で十五日かかった。だとすると、『素早さ』7なら……。

 えっと、みはじ。みはじだから…………計算上は十三日で着くのか?


 あれ? もしかしてヘズラト君の『素早さ』が90とかになったら、一日で着けるの……?

 ……いや、さすがにそんな単純な計算でもないか?


「それでジスレアさん、カーク村に着いた後のことですが……」


「うん?」


「対策は、どうなっているのでしょうか。僕の顔面対策は……」


 前回の旅から一ヶ月。ようやく対策ができたということで再出発するわけだが……その詳細を僕は聞いていない。

 果たしてジスレアさんは、どんな対策を……。


「うん、大丈夫」


「えっと……。具体的には……?」


「着いてからのお楽しみ」


「…………」


 ……不安だ。


 正直不安しかない。さすがに楽しみにはしていられない……。

 もしもその対策が不発なら、またしても僕は一ヶ月でメイユ村まで撤退することになりかねない。そんな未来も考えられる……。


 いや、たぶん大丈夫だとは思うんだ。ジスレアさんは別にポンコツな人ってわけでもないし、大丈夫だとは思うんだけど……。

 いや、でもなぁ……。



 こうして、ちょっとばかし不安を抱えたまま、第三回世界旅行が始まった。

 何やら上から目線で偉そうに、『別にジスレアさんは、そこまでポンコツじゃない』などとジスレアさんを評価していた僕だったが――


 むしろ僕の方がポンコツっぷりを発揮はっきし、たった二日で旅が終わろうとは、このときはまだ知る由もなかった。





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