第312話 『パリイ』VS剣聖
上から、下から、左から、右から。
縦横無尽に襲いかかる父の剣による猛攻を、僕は必死で防いでいた――全部『パリイ』で。
「『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』」
やっべぇ! これきつい!
魔力が! 魔力がガリガリ削られていく!
あと、呼吸が! 呼吸がきつい!
「すごいよアレク! この防御力は、かなりのものだよ!?」
「『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』『パリイ』」
「どんどんいくよアレク!」
こないでほしい! ストップだ父! もうわりと限界だ!
そう伝えたいのに、伝える術がない! 口を挟む余裕がない!
「さぁアレク!」
「『パリイ』『パリイ』『パリイ』――『光るパリイ』!」
「えぇ……」
一瞬の
父の剣にはもさっと苔が生え、それに驚いた父は攻撃を中断した。
「ひー、ひー」
「あっ……。ごめんアレク、大丈夫……?」
大丈夫ではない。疲れた。疲れ果てた。思わず地面に手をついて、へたり込んでしまうくらい
何気なく父の攻撃を『パリイ』で対応していたら、だんだんと父がヒートアップしてしまい、一撃一撃がどんどん重く、そして速くなった。
その斬撃を『パリイ』なしで対処するのも怖くて、僕はひたすら『パリイ』を連打することとなった。
その結果、いつの間にか結構な地獄が始まってしまった……。
調子に乗った父の猛攻は、普段の僕ではとても対応できないもので、その連撃を浴び続けることは肉体的にも精神的にもしんどいものだった。魔力を一気に消費したことによる
「い、いや、だけどすごいよアレク。あれだけ攻めても全然崩れなかったし、それどころか、普通の人なら攻撃を続けるのが難しいくらい上手に対処されたよ」
「ひゅー、ひゅー」
「うん。だから、ごめんね……?」
ひゅー、ひゅー。
◇
ようやく落ち着いた。
早朝から、ずいぶんとハードなトレーニングになってしまった。
「とりあえず、『パリイ』が使えるやつだってのはわかった」
それは理解できた。がっつり身を持って体験できた。
「うん。すごかったね。……すごくて、ちょっと楽しくなっちゃったんだ」
「まぁいいけどさ……」
なんか父が楽しそうだったのはわかった。こっちがとてもしんどい状態だというのに、とても楽しそうに剣を振るう父に、僕はかなりイラッとしていた。
いやしかし、本気でつらかったな……。
ジスレアさんとの剣術稽古以上にキツかった。
『怪我をしたら治せばいい』という考えのジスレアさんは、実はなかなかに指導が厳しい。
『死ななきゃ軽傷』とでも思っているんじゃないかと、そう疑ってしまうくらいにはスパルタ指導だったりする。
今朝の剣術稽古は、そんなジスレアさんとの稽古より厳しいものだった……。
「……あれ?」
「アレク? どうかした?」
「えっと…………いや、なんでもないよ」
「んん?」
……状況的に考えて、僕は第二回世界旅行中に『パリイ』を取得した。
だとすると、おそらくジスレアさんとの厳しい稽古の中で、『パリイ』取得に至ったのだろう。ジスレアさんと行った二週間の稽古で、『剣』スキルのスキルアーツを……。
このことを知ったら、父はどう思うだろうか?
なんだかんだで僕は、十年近く父と一緒に剣術稽古をしている。そんな父との稽古ではなく、ジスレアさんとの二週間でアーツを取得したのだと父が知ったら……父は少しションボリしてしまうかもしれない。
……うん。父には言わないでおこう。
いくらイラッとさせられたといっても、ションボリする父は見たくない。
「そういえばアレク、これで『パリイ』のことはわかったけど――」
「ん?」
「『レンタルスキル』はどうなったの?」
「…………」
『レンタルスキル』――以前僕が取得した、『召喚』スキルのスキルアーツだ。
取得したのはかれこれ……三ヶ月ほど前だろうか。
「旅に出発する前は、まだ効果がわからないって話だったよね?」
「……まだ、わからないんだ」
「そうなんだ……」
取得してから三ヶ月、未だに効果がわからない。
いろいろと検証はしたものの発動はしてくれず、『まぁそのうちわかるだろう』と放置していたのだけど……結局、未だに何もわからない。
なんなのだこのスキルアーツは。どうなっているのだ。
もう最近は、このアーツのことを思い出すたびにモヤモヤする。
「えっと……まぁ、元気出してアレク。きっとそのうちわかるさ」
そんなことを考えながら、結局わからないまま三ヶ月経ってしまったのだけど……?
「あ、そんなアーツのことよりさ、僕も父に聞きたいことがあったんだ」
「ん? 何かな?」
「ジスレアさんへの報酬について」
「報酬?」
昨日、ジスレアさん本人と話していて気になった話題。
世界旅行に同行してくれるジスレアさんへの報酬――果たしてこの額は、
「ぶっちゃけ、いくら払ったの?」
「えぇ……。そんなこと聞きたいの……?」
「是非とも聞いておきたい。いや、だってさ、全部は僕のためでしょう? 僕のために父がいくら払って、ジスレアさんがいくら受け取ったのか、それは知っておきたいよ」
「うーん……」
「というわけで、是非」
「うーん、うーん」
「是非に」
そんな感じで「是非に是非に」とお願いを続け、父がぶっちゃけるまで僕は粘った。
そして、ようやく聞き出した報酬額は――
「……安すぎない?」
「えっと……」
父がジスレアさんに支払った世界旅行同伴の報酬額は、僕の想定よりだいぶ低いものであった。
「その十倍――いや、二十倍は払っていいと思う」
「二十倍……」
それくらいは払うべきだ。というか、そもそもの報酬額が安すぎる。
「なにせ旅の間、僕はジスレアさんに頼りっぱなしだったからね。ジスレアさんがいなければ、僕の旅なんて成り立たないよ」
だとすれば、こちらもそれなりの『誠意』ってものを見せないと。
「……そんなに頼りっぱなしだったの?」
「おんぶに抱っこだよ。一日一回は回復魔法をかけてもらっていたくらいだし」
「それは、もう少しアレクもいろいろ改善した方がいいと思う……」
そう言われちゃうと立つ瀬がない。
まぁ『森を出てそわそわ現象』を克服してからは、さすがに毎日回復ってこともなかったかな。
「さておき、僕はジスレアさんの
「アレク側から要求するのか……。いや、これでも結構無理を言って受け取ってもらったんだけどね……」
「そうなの?」
あぁ、そういえばジスレアさんも、『別にいいって言ったんだけど』みたいなことを話していたっけ? 『それでも渡された』とかなんとか……。
ふむ、そうか……。拒むジスレアさんに対し、父はどうにかお金を押し付けたわけか……。
「やっぱり父も、ジスレアさんにお金を払いたいと思っていたの?」
「え? あぁ、うん。それはやっぱりね」
「なるほど……なるほど」
どうやら父も――僕と同じらしい。
女性にお金を払うことに、喜びを覚える
こんな近くに僕と同じ人がいるとは思わなかった。
というかむしろ、僕の癖は父の遺伝だった可能性も考えられるな。
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