第310話 『パリイ』


 レリーナちゃんが会いにきてくれたその翌日、僕は村での活動を再開した。


 本当なら数日は引きこもる予定だったのだが、レリーナちゃんのタックルにより後頭部を痛打したため、外に出ざるを得なくなったのだ。

 やはり後頭部の怪我は怖い。前世では、それでぽっくり死んでいるのだから。


 ……そういえば、第一回世界旅行の後もそうだったな。

 あのときもバランスボールで後頭部を打ったために、引きこもりをやめたんだった。

 僕の再始動は、毎回後頭部を打つことをきっかけに始まるらしい。どんなきっかけだ……。


 さておき、そんなこんなでジスレア診療所にやってきた僕は、ジスレアさんに治療を依頼した。


「すみません、頭を打ってしまい――」


「『ヒール』」


「……ありがとうございます」


 相変わらず、問答無用の回復魔法だな……。


「大丈夫?」


「もう大丈夫です。ありがとうございました」


 まぁ痛みやら吐き気もなかったし、元から大丈夫ではあったんだろうけど、とりあえずこれで一安心。


「ではジスレアさん。こちらをお納めください」


「……ん」


「どうぞどうぞ」


「うん」


 僕はジスレアさんに治療費を手渡した。

 旅行中は受け取って貰えなかったので、久しぶりにお金を支払っての治療だ。


 やはりお金を支払うと、何やら満たされた気分になる。


「……あ、そういえばジスレアさんは僕の旅を引率いんそつしてくれていますが、そのお金ってどうなっているんでしょう?」


「そのお金?」


「えぇと、なんというか、引率代? 旅費? そういったお金の支払いとか……あ、あと旅行中ジスレアさんは診療所での収入がなくなってしまうわけで、その保証とかは……」


「一応旅費みたいのは、セルジャンから貰ったけど」


「ほうほう」


 そっか、ちゃんと支払われているのか。それなら良かった。さすがに二年間の無償ボランティアは申し訳なさすぎる。


「私は別にいいって言ったんだけど、渡された」


「ふむ。そうでしたか」


 なんと慎み深い。そこでもジスレアさんは遠慮したのか。


 ……しかし、どのくらい支払ったんだろう? なにせ二年分だからな。そうなると、結構な額を積む必要があるはずだ。

 きっと大金だ。ジスレアさんに、大金を……。


 ……なんだろう。なんかちょっと羨ましい。僕もジスレアさんに、大金をプレゼントしたい。



 ◇



 ジスレア診療所での治療が終わり、続いて教会へとやってきた。

 ここでは一ヶ月ぶりの鑑定と、メイユ村への帰還をユグドラシルさんに報告するのが目的だ。


 さっそく僕はローデットさんに通話代を支払い、通話の魔道具にて、ユグドラシルさんへの連絡を始めたわけだが――


「あー、そうですねぇ。やっぱり毎日野宿はちょっとつらいですね」


『一ヶ月でしたか? 大変そうですね。私なら、すぐ家に帰りたくなっちゃいそうです』


「いやー、僕もですよー」


 などと、キャッキャッしながら魔道具越しに他愛のない会話を続ける僕と教会本部の人。


「……おっと、なんだか結構長く話しちゃいましたね。すみません」


『いえいえ』


「では、そろそろ失礼しま――あぁ、ユグドラシル様への伝言、お願いしますね」


『はい、大丈夫です』


「ではでは、失礼します」


『はーい』


 というわけで教会本部の人へ伝言をお願いしてから、魔道具の蓋を閉めて通話を終了した。


 なんだか妙に会話が盛り上がってしまったな。楽しかった。


「えぇと、それじゃあ後は鑑定をして……ん? あ、寝てる」


 教会の応接室、僕が座っている対面のソファーでは、ローデットさんがすやすやと寝息を立てていた。

 どうやら僕が通話をしているうちに、眠ってしまったらしい。


「まぁ、いきなり長電話を始めた僕が悪いか……」


 ちょっと伝言を頼むだけのつもりだったのにねぇ……。

 あるいは、追加料金が必要なレベルかもしれない……。


「いやしかし、僕は鑑定をしてもらいたいのだけど……」


 はて、どうしたものか。もうテーブルには鑑定用の魔道具も準備されているし、鑑定しようと思えばできるわけだが……。


「うん。起こすのも悪いし、お金だけ置いて勝手に鑑定させてもらおうか」


 そう決めた僕は、マジックバッグから硬貨を取り出し、音を立てないよう静かにテーブルへ置いた。


「……ん? んん……ん?」


「あ、起きた」


 目元を手の甲でぐしぐしと擦りながら、ローデットさんが起き上がってきた。


 ……もしかして、硬貨をテーブルに置いたときのわずかな音で目を覚ましたのだろうか。

 なんだかローデットさんは、守銭奴キャラがだいぶ極まってきたな……。


「んー、おはようございますー」


「おはようございます」


「えっと私は……。あぁ、アレクさんが通話をしている間に寝てしまったようですねー」


「すみません、少し長話をしてしまいまして」


「いいえー」


「それで、鑑定もお願いしたくてですね、その鑑定代がそちらになります。お納めください」


「ありがとうございますー」


 起き抜けのローデットさんがテーブルの硬貨をチラッチラッと見ていたので、納めてもらうようお願いした。


 ……なんだろうねぇ。あるいはローデットさんなら、ジスレアさんと違って大金を積んでも普通に受け取ってくれそうな雰囲気があるな。

 とはいえ、なんの理由もなく大金を渡すのも、少し違うような……。


「それでは、さっそく鑑定させていただきます」


「どうぞー。アレクさんは一ヶ月ぶりの鑑定ですねー」


「はい。旅の成果が出るといいのですが……まぁ、あんまり期待はできないですかね」


「そうなんですか?」


「ペース的に、まだレベルアップは厳しそうですからね。旅の最中も戦闘の頻度はそこまで高くなかったですし、強敵とも戦っていなかったですから」


 メイユ村から離れるにつれて、だんだんとモンスターの強さは上がっていったわけだが、カーク村に近付くにつれ、だんだんとモンスターの強さは下がっていった。


 ちょうど中間地点辺りでは、僕の手にも負えないモンスターも出現し始めたけれど、そういったモンスターはジスレアさんが矢を投げつけて倒していた。

 そんなわけで、僕が旅の間で倒したモンスターはそこまで多くない。レベルアップは期待薄だろう。


「とりあえずスキル関連に期待ですね。森を抜けてからは焚き火なんてこともよくしていましたし、『火魔法』のスキルアーツとかに期待したいところです」


「取得できているといいですねー」


「そうですねぇ。ではでは、鑑定行きます」


「行ってらっしゃーい」


 僕の言葉にローデットさんがノリ良く応えてくれたところで、鑑定だ。


 さて、果たして結果はいかに――



 名前:アレクシス

 種族:エルフ 年齢:16 性別:男

 職業:木工師

 レベル:26


 筋力値 18

 魔力値 15

 生命力 9

 器用さ 34

 素早さ 6


 スキル

 剣Lv1 槌Lv1 弓Lv1 火魔法Lv1 木工Lv2 召喚Lv1 ダンジョンLv1


 スキルアーツ

 パリイ(剣Lv1)(New) パワーアタック(槌Lv1) パラライズアロー(弓Lv1) ニス塗布(木工Lv1) レンタルスキル(召喚Lv1) ヒカリゴケ(ダンジョンLv1)


 複合スキルアーツ

 光るパリイ(剣)(New) 光るパワーアタック(槌) 光るパラライズアロー(弓)


 称号

 剣聖と賢者の息子 ダンジョンマスター



 ……もう光ってる。





 next chapter:『光るパリイ』

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